2021年11月15日月曜日

15- 国民が悪い政治を受け入れるのはなぜなのか(三枝成彰氏)

 国民の多くは貧しく生活が苦しいなかで、政府は着々と軍事力の増強・軍国主義化を進めているのに、なぜ国民は自民党政権を支持するのか、なぜ延々と自民党政権が続くのか、実に不思議なことです。

 日刊ゲンダイに週1連載の「三枝成彰の中高年革命」に、「 ~ 国民が悪い政治を受け入れるのはなぜなのか?」が載りました。
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三枝成彰の中高年革命
なぜ立憲民主党は議席を減らしたのか 国民が悪い政治を受け入れるのはなぜなのか?
                          日刊ゲンダイ 2021/11/13
 先日の衆院選で、立憲民主党が議席数を109から96に減らした。魅力ある政策を打ち出せなかったこともあるだろうが、共産党との連携が拒否反応を招いたのかもしれない。
 日本の共産党はもちろん違うが、習近平やプーチンのような独裁者が国民を抑圧し国家統制を敷こうとする政党だという先入観を持つ人が多いのだろう。現代の世界において、確かに共産国家とは得てしてそういうものではあるが、そのイメージを日本の共産党に対しても持ってしまっているのではないか
 私は、自民党が勝った最大の原因は、国民の多くが現状に満足しているからだと思う。日本人は自ら変わることを欲せず、内紛や外圧によってしか変われない体質だ。昔から「変革」や「革命」を唱えるのが大好きだが、実際に行ったためしがない。
 大化の改新(仏教伝来)や明治維新(ペリーの黒船)も、外国からの刺激によって体制が変わっただけだ。時に百姓一揆や米騒動などはあっても、真の「下克上」は起きなかった。フランス革命のように、圧政に苦しむ民衆が政府を転覆させたことがないのだ。
 国民が総じておとなしく、政治に文句を言わない日本は、ある意味で「いい国」と言えるのかもしれない。これほど為政者にとって御しやすい国民もそうそういないだろう。
 だが、現実を見てほしい。「今の生活は豊かで、何の不足もない」と言い切れる人が、この国にいったい何人いるのか? 多くの人が大なり小なり貧しさを抱え、思うに任せぬ暮らしをしているのが現実だ。しかし、それでも「このままでいい」と考えてしまうのはなぜなのか?

 厚労省の「国民生活基礎調査」(2019年)によれば、日本の相対的貧困率(中間的な所得を下回る世帯の割合)は15.4%。そのうち子どもの相対的貧困率は、OECD(経済協力開発機構)の現在の基準に照らすと14.0%だそうだ。つまり子どもの7人に1人は貧困の状況にあるのだ。
 同じ調査で平均所得(約552万円)を下回る世帯は61.1%、貯蓄がない世帯は13.4%。「生活が苦しい」と答えた世帯は54.4%に上る。日本の貧しさは世界的に見ればさほどでもないのだろう。しかし、貧しいのは現実だ。治安が良く物価も安く、一定の住みやすさが保証されているから「変えて悪くなるよりは現状維持でいい」と考えるのだろう。
 国民が政治を変える手段は選挙での投票しかない。が、いざその段になると、日本の有権者はみな二の足を踏む。保守政権の長期化による政治家や官僚の思考の硬直化は良くないと誰もが分かっているはずなのに、だ。

 江戸時代から「世間に対して不平不満を言う者は人間がなっていない」と儒教の影響の下に教え込まれたためだろうか。そして今回も私たちは、変わるチャンスをまた自らの手で遠のかせた。16世紀フランスの裁判官エティエンヌ・ド・ラ・ボエシの「自発的隷従論」に、「悪い政治が成り立つのは、国民が進んでそれを受け入れているからだ」とある。約500年後の日本にも同じことが起きている。
「流れる水は腐らない」という言葉は、この国ではすっかり忘れられたようだ。濁った水を再び流れさせるには、政治に物申す国民が必要なのだ。
  *この記事の関連【動画】もご覧いただけます。

三枝成彰 作曲家
1942年、兵庫県生まれ。東京芸大大学院修了。代表作にオペラ「忠臣蔵」「狂おしき真夏の一日」、NHK大河ドラマ「太平記」「花の乱」、映画「機動戦士ガンダム逆襲のシャア」「優駿ORACIÓN」など。2020年、文化功労者顕彰を受ける。