安倍元首相・高市早苗氏を筆頭に、自民党の極右グループが盛んに「敵基地攻撃」能力の必要性を強調し、最近は岸田首相もそれに同調しています。
孫崎享氏は、それこそは百害あって一利なしで、日本の壊滅に直結するものであると指摘しました。同じことを10月26日付のしんぶん赤旗が伝えています。
安易に「敵基地攻撃論」を叫ぶ人たちは、一体何をどの程度考えて言っているのでしょうか。仮に北朝鮮なり中国なりを先制攻撃した場合、その直後に一体どのような報復を受けるのか考えたことがあるのでしょうか。とてもまともな知性を持っているとは思われません。
孫崎氏は、すべては武器の売り付けを目指す米国の、利益目的の画策と喝破しています。日本にいる米国の「忠犬」がそれに呼応しているとも。
孫崎享氏の「岸田首相の発言 北朝鮮への「敵基地攻撃」は日本の中心地への攻撃を招く(日本外交と政治の正体)」を紹介します。
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日本外交と政治の正体 孫崎 享
岸田首相の発言 北朝鮮への「敵基地攻撃」は日本の中心地への攻撃を招く
日刊ゲンダイ2021/10/29
岸田首相が「昨今の北朝鮮の核・ミサイル技術の著しい発展は、わが国と地域の安保にとって見過ごすことができない」として、「敵基地攻撃能力保有も含めあらゆる選択肢を検討するよう今日改めて指示した」と報じられた。
おそらく安全保障の詳細を検討したことがない人にとって、この発言は極めて妥当のように響くだろう。だが敵基地攻撃ほど、日本の政治、社会、経済に対する攻撃を誘発する政策はない。
日本の「敵」としては、北朝鮮が想定されている。北は日本を攻撃可能な弾道ミサイルを250~300発程度保有しており、山岳地帯の岩山に基地があるとされる。
だが、防御の堅い岩山でのミサイルの破壊は容易ではなく、北は相当数の移動式ミサイル発射装置も持っている。
日本が北のミサイル基地を攻撃しても破壊できるのは5発以内だろう。その際、北は当然だが、ミサイルで日本の政治、社会、経済の中心地に報復攻撃を行う。北の被害がミサイル数発に対し、日本は政治、社会、経済の中心地が攻撃されるのだ。どちらの被害が大きいか、論じるまでもない。
「敵」が中国であれば事態はもっと悲惨だ。中国は日本を攻撃しうるミサイルを1500発以上実戦配備しているといわれているからだ。
敵基地攻撃論は日本の安全を全く高めない。攻撃の呼び水になるだけだ。
なぜ、こうしたバカげた政策が論じられているのかといえば、米国に利益があるからである。
極東地域で緊張が高まれば、この地域で武器が売れる。これは米国の湾岸諸国への対応と同じだ。さらに安全保障の面では、米国が自国への攻撃の危険性を増やすことなく北に圧力をかける選択肢が増える。
情けないことに、今、日本で語られる防衛政策はほとんどが日本の安全を高めるものではない。米国に資するためである。
衆院選の最中の今、日本を操る「ジャパン・ハンドラー」と呼ばれる人々が積極的に発言している。そのひとり、アーミテージ氏(元国務副長官)はこう言っていた。
「日本が防衛予算を2倍またはそれ以上に増やすのは良い考えだ」
それに呼応する形で、日本国内の「忠犬」が防衛費拡大の手段を説いているのである。
孫崎享 外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。