2021年11月14日日曜日

敵基地攻撃力保有 防衛費GDP2%超では 国民の命と暮らしは守れない

 しんぶん赤旗は、岸田政権安倍政権が策定した「国家安全保障戦略」と、それに基づく「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」を来年末までに改定しようとしている大きな狙いの一つは、「敵基地攻撃能力」の保有に踏み出すことであるとして、「敵基地攻撃力保有 国民の命と暮らしは守れない」とする主張を掲げました。

 その中で「敵基地攻撃能力を本格的に保有しようとすれば、大軍拡は必至で、自民党が衆院選公約で、現在の5兆3千億円に上る軍事費をその2倍超に当たるGDP2%以上も念頭に増額を目指す と掲げたことと無関係ではない」と述べました。
 今日「敵基地攻撃」(かつては「敵基地先制攻撃」と呼びましたが、理論的にあり得ないことなので「先制」は削除しています)で日本を守るなどは空理空論に過ぎません。
 ⇒11月6日) 北朝鮮への「敵基地攻撃」は日本の中心地への攻撃を招く(孫崎享氏)
   10月28日)「敵基地攻撃」攻撃で日本が戦場に 日本に多大な犠牲と大軍拡もたらす
 そもそも仮に某国が弾道ミサイル発射の準備をしていることを偶然に偵察衛生がキャッチしたにしても、一体それが何処に向けて発射するのかは知る由もない筈です。
 軍事評論家の田岡俊次氏は「『防衛費GDP比2%』は“平和ぼけタカ派”の空公約」とする記事を出して、「敵基地攻撃能力保有の無意味さを明らかにするとともに、自民党の公約通り防衛費を11・9兆円(現行より677兆円増額)にして、例えば大型防衛艦を1隻建造してもそれに乗り込む海上自衛隊員5000人のやりくりがつきようもないという事実を指摘しています(その他 田岡氏の記事には興味深い数々の事柄が述べられています)。
 そうなれば米国が意図した通りに、今後は防衛費の大半を役にも立たない米国兵器の購入にひたすら振り向けるしかなく、只さえ赤字云々を問題視されている日本は財政的にも滅亡の一途をたどるしかありません。
 しんぶん赤旗と田岡俊次氏の記事を紹介します。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
主張 敵基地攻撃力保有 国民の命と暮らしは守れない
                      しんぶん赤旗 2021年11月13日
 岸田文雄政権は、安倍晋三政権が外交・防衛政策の基本方針として策定した「国家安全保障戦略」と、それに基づく「防衛計画の大綱」(大綱)と「中期防衛力整備計画」(中期防)を来年末までに改定しようとしています。大きな狙いの一つは、相手国のミサイル発射拠点などを直接たたく「敵基地攻撃能力」の保有に踏み出すことです。際限のない軍拡につながり、北東アジアの軍事緊張をかつてなく高めることになる憲法破壊のたくらみです。

岸田氏は「必要」と主張
 岸田首相は就任後初の国会での所信表明演説で、国家安保戦略、大綱、中期防を改定し、その中で「さらなる効果的措置を含むミサイル防衛能力など防衛力の強化に果敢に取り組む」と宣言しました(10月8日)。これを受け、内閣の国家安全保障会議で「いわゆる敵基地攻撃能力の保有を含め、あらゆる選択肢を検討する」ことを確認しています(同月19日)。
 自民党も衆院選の政権公約で、新しい国家安保戦略などを「速やかに策定」し、敵基地攻撃能力についても「相手領域内で弾道ミサイル等を阻止する能力の保有を含めて、抑止力を向上させるための新たな取り組みを進める」と明記しました。
 国家安保戦略は、集団的自衛権の行使容認も念頭に置いた「積極的平和主義」を打ち出したもので、2013年末に安倍政権が初めて制定しました。これに合わせ、軍事力の在り方や水準を示す大綱と、その具体的な内容や規模を定める中期防も改定されました。大綱はこの時すでに、「弾道ミサイル発射手段等に対する対応能力の在り方についても検討の上、必要な措置を講ずる」とし、敵基地攻撃能力の保有にも道を開いていました。
 その後、集団的自衛権の行使を可能にした安保法制の成立を踏まえ、大綱と中期防は18年末に再び改定され、ステルス戦闘機を搭載できるようにする大型護衛艦の空母化や、巡航ミサイルの導入などを盛り込み、事実上の敵基地攻撃能力の保有を進めています。
 岸田氏は今年3月、安全保障に関する提言を発表し、「相手領域内でのミサイル阻止能力、すなわち、敵のミサイル発射能力そのものを直接打撃し、減衰させることができる能力を保有することが必要」だと露骨に主張しています。今月1日の会見では「さまざまな選択肢の一つとしてしっかり議論していく」と述べていますが、単なる「議論」でないことは明白です。
 敵基地攻撃能力を本格的に保有しようとすれば、大軍拡は必至です。自民党が衆院選の公約で、現在、5兆3千億円に上る軍事費について、その2倍超に当たるGDP(国内総生産)比2%以上も念頭に増額を目指すと掲げたことと無関係ではありません。

世論と運動を強め阻止を
 岸田首相は、敵基地攻撃能力保有の検討は「国民の命や暮らしを守るため」と繰り返しています。
 しかし、相手国の地下や移動発射台などにあるミサイルの位置を全て把握し、破壊することは不可能です。たとえ一部を破壊できたとしても、残ったミサイルによるいっそうの攻撃を覚悟しなければなりません。
 世論と運動を強め、岸田政権の企てを阻止することが必要です。


「防衛費GDP比2%」は“平和ぼけタカ派”の空公約
                 田岡俊次 ダイヤモンドオンライン 2021.11.11
「公約」は実現されるのか
日本は世界第3位の軍事大国に?
 高市早苗自民党政務調査会長が衆議院議員選挙の公約として「防衛費を国民総生産(GDP)の2%水準にする」ことを掲げたが、総選挙で自民党が単独過半数を確保したから、この公約が実現することになるのだろうか。
 今年の日本のGDPは595.5兆円と政府は見積もっており、その2%は11.9兆円だ。今年度当初予算の防衛費は5.1235兆円だから、公約を実現しようとすると、6.77兆円の「増額枠」を認めることになる。
 仮に「GDP比2%水準」になって日本の防衛費が11兆円余り、約1000億ドルになれば、ストックホルム平和研究所の計算では、昨年の米国の防衛費が7780億ドル、中国が2520億ドルだから、日本の防衛費は世界第3位になる。ロシアは617億ドルだから、その約1.6倍だ。
「棚からボタ餅」に当惑
自衛隊の規模拡大は不可能
 防衛費をGDPの2%以上にすることは、米国トランプ政権が2020年にNATO諸国など同盟国に要求したものだ。
 中国との対決姿勢を示す一方で、「米国第一」で米軍の海外駐留経費を減らしたい思惑からだった。NATO(北大西洋軍事機構)加盟の30カ国中11カ国はそれに達しているが、ドイツは1.56%、イタリアは1.39%などにとどまっているのが現状だ。
 一般的には予算要求は各省庁が計画している事業の経費を積算して行うが、防衛省にとっては、突然、防衛費が2倍以上になるというのは棚から巨大なボタ餅が落ちてくるような形だ。
 防衛省の高官に使途を尋ねると、戸惑いながら「少なくとも来年度は防衛予算が急増することはありません。来年に次の中期防衛力整備計画(2024年から5年)や「防衛計画の大綱」を見直す中で考えることになる」という。腰の引けた応答になるのも当然だろう。
 防衛費が急増しても自衛隊の規模を拡大するのはほぼ不可能だ。自衛隊は隊員の募集に苦労し、現在でも大きな定員割れになっている。
 防衛省設置法では自衛隊の総人員は24万7154人だが、それほどは集められないとみて、今年度の「予算定員」は24万6748人に減らしている。だが昨年末の実際の隊員数は22万7442人で予算定員より1万9306人も少ない
 定員割れが続く中で2018年からは一般の隊員の採用を「18歳以上33歳未満」に広げた。
 32歳の“新兵”が2士(2等兵)で入隊すると、その前年に18歳で入った隊員は1士(1等兵)に昇任しているから13歳も年下の先輩の指導を受けることになる。
 感情的に難しいことも起きそうだが、自衛隊はとにかく員数を合わせることに必死にならざるを得ない。
 特に海上自衛隊は法的定員が4万5329人に対して、いまの隊員数は4万2850人で2479人の定員割れだ。艦艇の乗組員は持ち場がそれぞれ決まっているから、定数より少ないまま出港するのは危険を伴うこともありうる。
 このため従来の2000トン級の小型護衛艦は120人が定数だったが、その後継の護衛艦は3900トンに大型化しつつ定員は90人にする省力化を行っている。
 また女性の応募者を増やすため、女性幹部(士官)の登用を進め、「第1護衛隊群」(横須賀)の「第1護衛隊」(軽空母1隻、護衛艦3隻)の司令に女性1佐(大佐)が任じられたこともある。
安保法制の成立の結果
隊員募集は一層、難しい
 安倍政権時代の2014年7月に閣議で憲法解釈を変更し、集団的自衛権行使を容認したことは自衛官の募集を一層困難にした。
 内閣府が行っている世論調査では、2015年1月には、「身近な人が自衛隊員になりたいと言ったら賛成するか、反対するか」の問いに対し、「賛成」が70.4%、「反対」が23.0%だった。
 だが2018年の調査では、「賛成」が62.4%で8%減、「反対」が29.4%で6.4%増となった。
「日本が戦争を仕掛けられたり戦争に巻き込まれたりする危険があると思うか」の問いに対しては、「危険がある」と答えた人が75.5%から85.5%に増え、「危険はない」と思う人は19.8%から10.7%に減っている。
 政府や与党が北朝鮮のミサイル発射や中国の海洋進出などに危機感をあおるほど、子弟が自衛隊に入ることに反対する人々が増えるのは自然だろう。
 それでは米軍の駐留経費を増やすことになるのだろうか。
 駐留米軍に関する日本の負担は今年度で、すでに米軍のグアムへの移転や再編成などを含め6603億円(国有地提供に対する推定地代を含まず)に達し、米国の計算でも日本は駐留経費の74.5%を負担している。
 これ以上、負担を増やすには米軍人の給料や訓練経費も支払うしかなく、そうなれば米軍人は日本の“傭兵”と化するような状況になってしまうから増加はできそうにない。
「増加枠」の大半は
装備費にあてられる
 防衛予算の42.8%を占める人件・糧食費2兆2000億円や駐留米軍経費はあまり増えないとすれば、年間6兆円も増える防衛費の大部分は装備費に使われることになるだろう。
 今年度予算では、装備などの購入費は9186億円(防衛費の17.9%)、研究開発費は1133億円(同2.2%)で計1兆319億円だが、それに6兆円の「増加枠」が加わればいまの7倍になる計算だ。
 例えば、米海軍の最新鋭の原子力空母ジェラルド・フォード(10.1万トン)の建造費は1兆4000億円、艦載機を含むと2兆円余りになる。バージニア級の原子力潜水艦は1隻3000億円だ。
 日本が毎年、原子力空母1隻と原子力潜水艦5隻を発注すると、計3兆5000億円だから、装備費の「増加枠」の半分強に当たる。
 こうした装備拡張を10年も続ければ米海軍をしのぐほどの海軍戦力になる。もちろんこれは冗談で、空母1隻だけでも船乗りと航空要員計約5000人を乗せるから人手が足りない
「敵基地攻撃」の効果は疑問
ミサイル発射準備の監視は至難
 岸田文雄首相は選挙公約で、「相手の領域内で弾道ミサイルを阻止する能力を保有し、抑止力を向上する」と公表している。自民党議員にも「敵基地攻撃」を唱える人々が多い。
 この状況を考えると、急増する装備費の大半は敵基地攻撃能力を整備するのに向けられそうな形勢だ。
 だが攻撃をするにはまず敵の精密な位置を知ることが不可欠だ。自衛隊の将官の中にも偵察衛星で北朝鮮が日本に対し弾道ミサイルを発射しようとする状況が分かるように思っている人がいた。
 だが、偵察衛星は時速約2万7000キロで南北方向に地球を約90分で周回し、毎日1回同じ時刻に同地点上空を通過するから、目標地点を撮影できるのはカメラの首振り機能を生かしても1日1分程度だ。
静止衛星ではだめなのか」と質問されることも多いが、答えは「ノー」だ。
 静止衛星は赤道上空約3万6000キロメートル、地球の直径の約3倍の高度で周回し、その高度では地球の自転の速度と同調するから、地表からは止まっているように見える。
 無線の中継などには有効だが、当然その距離ではミサイルが見えるはずがない。発射の際に出る大量の赤外線を感知できるだけだからミサイル発射前に攻撃するには役に立たない。
 ジェットエンジン付きの大型グライダーのような無人偵察機を、例えば、北朝鮮の上空で旋回させておけば常時監視が可能だが、領空侵犯だから対空ミサイルで簡単に撃墜される。無人偵察機が役に立つのは大型の対空ミサイルを持たないゲリラに対してだけだ。
 領空外の海上などから無人偵察機が撮影しようとしても、日本海から北朝鮮の北部山岳地帯までは300キロもある。山腹のトンネルに潜むミサイル発射機が谷間に出てミサイルを立て発射するのは山の陰になるから発見できる公算は乏しい。
 まして中国を想定すれば、はるか内陸に配備されたミサイルを監視することはほぼ不可能だ。
 小型の衛星を多数周回させる案も米国ではあるが、24時間中の1分ほどしか目標地域の上空にいない衛星で常時監視をするために10分ごとに撮影するとすれば百個以上の衛星が必要だ。
 しかも小型衛星のカメラやレーダーは解像力が低く、相手はダミーを使うから実効性は疑わしい。
発見できたとしても意図は分からず
法律論だけの「机上の空論」
 1991年の湾岸戦争でイラク軍はソ連が開発した短距離弾道ミサイル「スカッド」の改良型「アル・フセイン」88発を発射した。
 米英空軍は1日平均64機の戦闘機などを「スカッド・ハント」に出動させ、イラク南部と西部のミサイル発射地域を監視、また特殊部隊を丘に潜伏させて見張らせたが、発射前にミサイルを破壊できたのは1基だけだった。
 特殊部隊への補給のため夜間飛行をしていたヘリコプターがミサイル発射の火柱を目撃、そちらに向かったところ、もう1基が発射準備をしているのを発見し、機関銃で処理したのが唯一の成功例だ。
 それ以来30年間で精密なミリ波レーダーや赤外線探知などの探知手段が発達したが、一方で北朝鮮の中距離弾道ミサイルは液体燃料から固体燃料になり、移動や即時発射が容易になったから、発射前に弾道ミサイルを発見し破壊するのは一層困難になった。
「ミサイルが日本に向けて発射されようとしている際に、攻撃するのは自衛権の範囲内」との説は法律論としては成り立つが、効果は期待できない机上の空論だ。
 相手のミサイル発射機がトンネルから出て、ミサイルを立てているところを仮に発見できたとしても、訓練や整備をしていることもある。実験のために海上に発射しようとしているとか、日本以外を狙っていることもあるから、日本に向けて発射しようとしているのか否かは知りようがない
「朝鮮半島有事」となれば
米軍・韓国軍がミサイルを叩く
 すでに北朝鮮軍と米軍・韓国軍が戦争を始めている場合には、日本の米軍基地も弾道ミサイルの目標となる公算が大だから、日本が狙われている確証がなくても日本が攻撃するのは現実的には許容されるだろう。
 だがそのような状況では米軍、韓国軍は必死になって北朝鮮のミサイルを破壊しようとしているだろう。
 北朝鮮は200~300基ほどの弾道ミサイルを持つと言われるが、韓国は射程300キロの「玄武A型」から射程800キロの「玄武2C型」まで計約2000基の弾道ミサイルのほか、射程1500キロの巡航ミサイル「玄武3C型」も造っている。
 韓国空軍は戦闘機、攻撃機計約500機を持つのに対して北朝鮮の空軍はもはやなきに等しい。このため、韓国空軍は防空の必要が低く、対地攻撃を主な任務としている。
 米軍も日本に駐留する米空軍、海兵隊航空部隊、空母1隻で計約100機、在韓米空軍も約100機いるから、攻撃能力には全く不足がない。
 仮に航空自衛隊が韓国軍の許可を得ず北朝鮮攻撃を行ったり、海上自衛隊が巡航ミサイルを発射したりすれば韓国軍にとってはむしろ邪魔になりそうだ。
 また「同胞を日本軍が攻撃」するのは、韓国の国民感情に触れかねないから、韓国軍の発言力が高まっている米韓連合司令部が「日本の攻撃参加は見合わせてほしい」という可能性は十分考えられる。
 湾岸戦争で米国などが「イスラエルが多国籍軍に加わればアラブ諸国が反発し結束を乱す」としてイスラエルの参戦を拒否したのと同様になりかねない。
 韓国と北朝鮮のGDP比率はすでに100対1の大差があるから、通常兵器による戦争では、韓国は単独でも北朝鮮を比較的短期で制圧できるだろうが、崩壊に瀕するとなれば北朝鮮は自暴自棄となり、核ミサイルを発射する公算は高い。
 韓国軍と米軍は血眼になって北朝鮮の弾道ミサイルやその指揮中枢を最優先目標として探し求めて攻撃するだろう。だが、北朝鮮が持つといわれる弾道ミサイルのうち核弾頭付きは30基とみられ、それを完全には破壊できず、北朝鮮が残存した核ミサイルを発射するリスクは残る。
 それに対し米軍が韓国などに核汚染が及ばないよう低威力の核兵器で報復する構えを示し、北朝鮮の核使用を抑止しようとしても、滅亡が迫り「死なばもろとも」の心境になった北朝鮮には効果はないだろう。「抑止戦略」は相手の理性的判断を前提にしているのだ。
戦争を具体的に
考えられない「タカ派」
 日本で「敵基地攻撃」を主張している人々は、目標の位置情報の提供を米軍に頼ることを考えている。
 しかし米軍・韓国軍が、まさに発射されようとしている弾道ミサイルを発見すれば寸刻を争って直ちに攻撃するはずだ。
 日本に位置を通知し、わざわざ手柄を譲るような悠長なことをすることはまずあり得ない。
 こんな甘い構想を抱くのは戦争を具体的に考えられない「平和ボケのタカ派」の論と言うしかない。   (軍事ジャーナリスト 田岡俊次)