(ブログ)「人権は国境を越えて」の11月12日号で、司法の改善についての提案がなされました。
著者は弁護士で、国境を越えた人権活動に取り組むNGOの事務局長としても活躍されているので、海外の実例をも勘案した改善案であり、非常に説得力を持っています。
東電女性殺害事件などこれまでに明らかにされた冤罪は、司法が、もはや言い訳が出来なくなって認めるしかないものがピックアップされたに過ぎず、実際にはもっともっと膨大な数の冤罪が隠れていると思われます。
日本の司法は、これまで推定無罪の原則も守らず、被疑者や被告の人権を非常に軽んじてきました。よく司法修習生時代に、「99人の真犯人を見逃がすとも1人の無辜の罪人を作らず」と教えられると聞きますが、実質的にはその教えはもはや死語・空文の類いになっています。
提案の内容は、証拠開示のルール化と特に生物学的証拠(DNA鑑定用)についての開示ルールの取り決め、及び有罪判決を受けた被告のDNA再鑑定の権利に関するものです。
DNAに関するものはともかくとして、戦後すでに70年になろうとしているのに、検察にとって不利となる証拠が恣意的に秘匿出来るなどとは・・・、日本の刑事訴訟法等が如何に検察に有利に出来ているのか(被告に不利に出来ているのか)を改めて思い知らされます。
冤罪は司法がおかす犯罪であるにもかかわらず、司法の側に自浄作用が期待できないのであれば、そうした司法制度を改善し詳細な規定も作り、それによって冤罪を生む余地を出来るだけ小さくするしかありません。
是非とも早急にこれらの改善案が導入されることが望まれます。
やや長い論文なので、以下に事務局で要約したものを掲載します。
原文は下記のURLにアクセスしてご覧ください。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
東電OLえん罪事件が示す刑事司法改革の課題
― DNA鑑定・証拠開示に関する抜本的制度改革が急務である
(当事務局で作成した要約版です 下線・太字化も事務局で行いました)
人権は国境を越えて
―
弁護士伊藤和子のダイアリー 2012年11月12日
東電OL事件をめぐる経緯はあまりにもひどく、検察・裁判所は猛省しなければならない。徹底した検証と刑事司法改革が必要である。
東京高裁は、一審無罪判決に対する検察官上訴を理由に、いったん無罪判決を受けて釈放された被告人を再勾留するという異例の措置を取り、事件現場で発見されたコンドーム内の精液が被告人のDNA型と一致したとして、何の根拠もないのにそれが殺害当日に遺棄されたものと認定して、逆転有罪判決を下した。
今年6月にようやく再審開始が決定したのは、被害者の体内に残されていた精液や現場に遺留されていた陰毛等の証拠物の存在を、再審請求後に検察官が明らかにし、裁判所の要求を受けて検察官がDNA型鑑定を実施したところ、ゴビンダ氏とは別のDNA型が見つかったからである。
不利になった検察が一発逆転を狙って被害者の爪の付着物のDNAの鑑定を行った結果、第三者の型が検出されてそれが無罪の決め手になったのである。
しかし弁護団が爪の付着物について、2007年に検察側に鑑定を求めたときには、検察は「爪からは何も検出されていない」と、付着物の存在自体を否定していたのである。
これに限らず、被告人に有利な証拠を隠して、不利な証拠だけを提出して裁判所の認定を誤らせ有罪に持ち込む検察の行為は、犯罪的というほかない。
この事件で争点とされたのは、第三者の犯行の可能性であり、別のDNA型証拠が検出されれば第三者の犯行の可能性があるとして無罪を言い渡さなければならないこととなる。
そのことを知りながら、無罪立証を封じたこれらの行為は、村木事件における証拠隠滅に匹敵する職権犯罪であり、関係者の証拠隠滅罪での捜査・訴追が真剣に追及されるべきである。
また、一審判決が出ながら、かくも長きにわたり無実の人をえん罪の被害者にする判断を漫然と続け、救済を怠ってきた裁判所にも厳しい検証を求めたい。
近年相次ぐ再審事件で明らかになったえん罪の教訓から、刑事司法改革はまったなしである。取調べの可視化だけでは済まされない。
私の提案は以下の通りである。
第1 被告人に有利な証拠、または有利である可能性のある証拠について、検察側が弁護側に第一審公判前に開示することを義務付けること。この義務に違反した事件は憲法違反により覆され、違反した捜査機関には刑事罰が科されるものとする。
⇒ 被告人に有利な証拠の開示義務は、欧州では当たり前で、米国でも連邦最高裁判例により確立している。
第2 DNA鑑定の対象となる生物学的証拠に関しては、検察側が申請する証拠に関連する証拠に限らず、捜査機関が入手・保管しているすべての証拠の存在とDNA鑑定結果を弁護側に第一審公判前に開示し、鑑定未了な証拠についても弁護側の求めがあればすべて鑑定を行うこと。
⇒ 米国では多くの州でこのルールが採用されている。
第3 有罪判決を受けた被告人にDNA再鑑定の権利を保障し、未了のDNA鑑定があればこの鑑定を受ける権利を保障する。
⇒ 米国で2004年に連邦事件について制定され、多くの州が同様の規定を置いている。
具体的手続きを定めた規定を制定し、再鑑定を保障するために、捜査機関による鑑定資料の全量消費を禁止し、故意または重過失により全量消費した捜査関係者を刑罰に処す。
第4 再審段階における証拠開示のルールを明確に定める。
⇒ 再審事件には、適正手続や審理のあり方について定めた明確な規定がなく、極めて恣意的に運用されている。証拠開示のルールも一切なく、通常事件の証拠開示規定も適用されない。こういう再審事件の無法状態をあらためる明確なルールが必要である。
現在、法務省法制審議会のもとで「新時代の刑事司法制度特別部会」が、刑事司法の改革を議論している。もうこれ以上、改革を怠り、手をこまねいていることは許されないので、以上の諸改革を実施することを強く要請したい。
日弁連等も、包括的な刑事司法改革に関する具体的提案をえん罪の実態に即して十分に行っておらず、怠慢と言わざるを得ない。
以下、読売新聞の社説を一部抜粋する。私も同感である。
「東電OL 事件 再審無罪で冤罪の検証が要る (11月8日付・読売社説)」
(社説は省略※)
※ 同社説は、本HPの11月8日付の記事「東電女性殺害冤罪事件 捜査や裁判に第三者の検証を +」に掲載されています。