2012年11月27日火曜日

平和憲法の危機 自民党の改憲案


27日付で毎日新聞が「自民の「国防軍」 名称変更の意図を疑う」と題する社説を載せました。読んでみると、「国防軍」という呼称に徹頭徹尾こだわったもので、あたかも自衛隊が現状の在り方を続けることを前提にして、それをどう呼ぶのかという議論であるかのようです。

自民党の改憲案は、果たしてその程度の底の浅いものなのでしょうか。
以下に彼らの改憲案について見てみます。 

自民党改憲案 第9条の第1項では、現行の憲法の条文とほぼ同じ文言にしてありますが、第2項では「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」とうたっています。
古来殆どの戦争は自衛のためを口実として行われて来たので、これではあらゆる戦争を行うことが可能になります。※1
※1  アメリカが行ってきたベトナム戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争でさえも、全て自由主義陣営の防衛・自衛を口実に行われました。
日本の新憲法制定のときにも「侵略戦争だけを禁止すれば良い」という主張がありましたが、当時の吉田首相が、「今日までの戦争の多くは自衛権の名によって始められた事実があり、自衛権による戦争と、侵略のための戦争の二つの交戦権に分けて論じること自体が有害無益である。」として退けて、今日の平和憲法が制定されたのでした。

そして自民党改憲案 第9条の4では軍の統制及び機密の保持を法律で定めとし、同5項ではその機密に関する罪その他を裁く国防軍  審判所を置くとしています。
つまり今問題になっている「秘密保全法」を厳しさの点で上回る機密保護法が制定されて、一般の人はドラマの世界でしか知らない軍事裁判所(軍法裁判所)が出現し、国民の知る権利が封じられ、機密事項に対する調査や議論自体も封じられ、違反すれば勿論重い刑罰が科されます。
    自民党の改憲案は、憲法9条に関してもこれだけの実体持っています。

自民党改憲案の問題点は他にも広い範囲に及びますが、特に強調したいのは現行の憲法では、個人の自由や幸福を求める国民の権利は、「公共の福祉に反しない限り」最大限に尊重されるとなっているのを、改憲案では「公益及び公の秩序に反しない」限りで認めるとする点です。
「公共の福祉」から「公益及び公の秩序」への言い変えは、決して看過することはできません。個人の自由と権利を最大限に認めようとすれば、当然他人の自由や権利との干渉が生じますが、その時にそれを調整するのが「公共の福祉」の概念で、それが憲法に明記されていれば、それを根拠にして個人が行政を訴えることも可能となるわけです。
ところがそれを「公益及び公の秩序」に変えてしまうと、最早「公共の福祉」の持つ原理性とはまったく無関係になって、国民の自由と権利は、法律や政令によって簡単に制限できることになってしまいます。
つまり国が国民をいか様にも統御できるという「戦前」の世界に戻るわけで、それこそが旧体制側が最も望んでいることなのです。

こうした自民党の改憲案の本質はもっともっと明らかにされる必要があります。
(自民党改憲案の詳細な検討については、531日付の「自民党の憲法改正草案は非常に反動的です※2」で行っていますので、ご参照下さい。
              ※2 http://yuzawaheiwa.blogspot.jp/2012/05/blog-post_4342.html  ) 

世論調査によれば、今回の選挙では改憲勢力が第1党を形成しそうな状況です。
加えてメディアがもてはやす「第3極」=「維新の会」も紛れもない改憲勢力なので、正に平和憲法の危機であるといえます。一部の有識者は「改憲は秒読みに入った」と警鐘を鳴らしています。

しかしながらマスメディアはそういう観点での論説は一切行っていません。そんな中で登場した毎日新聞の社説であったのですが、内容は前述のとおりで拍子抜けを通り越したものでした。 

 以下に毎日新聞の社説を紹介します。
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【社説】 自民の「国防軍」 名称変更の意図を疑う
毎日新聞 20121127 

 自民党の「国防軍」設置公約をめぐり、民主、自民両党が激しい応酬を繰り広げている。
 自民党は、衆院選の「政権公約」で憲法改正をうたい、「国防軍の設置を規定」と宣言している。
 同党は今年4月に決めた「憲法改正草案」で、戦力不保持・交戦権否認を定めた憲法第9条2項の表現を削除し、代わりに「国防軍を保持する」などの項目を設けた。自衛隊を国防軍と明記して位置付け直すのが狙いで、これを公約に盛り込んだということなのだろう。

 この公約について野田佳彦首相は「名前を変えて中身が変わるのか。大陸間弾道ミサイルを飛ばす組織にするのか。意味がわからない」と批判した。これに対し、自民党の安倍晋三総裁は「憲法9条を読めば、軍は持てないという印象を持つ。詭弁(きべん)を弄(ろう)するのはやめるべきだ」と反論した。民主、自民両党幹部からも同様の批判や反論が相次いでいる。

 自衛隊を国防軍と名称変更する積極的意義は、確かに不明だ。安倍氏は国防軍設置に合わせ、「そのための組織を作り」、武器使用基準など戦闘行動要領を定めた交戦規定(部隊行動基準)を整備すると語った。

 しかし、日本の防衛戦略である専守防衛を基本に、現在の交戦規定の一層の充実が必要だというなら、国防軍に名称変更しなくても対応できる。そして、国際社会では自衛隊はすでに軍隊と認識されている。

 1954年に設置された自衛隊は、侵略戦争の経験を踏まえてあえて「軍」の表現を避けて名付けられた。「軍」の復活はかつて日本が侵略したアジア諸国に、よけいな反発を呼び起こしかねない。

 名称変更には、その先に、他国並みの軍隊に衣替えしようという意図があるのかもしれない。日本は今、自衛権行使についても限定的に解釈している。もし、改憲による国防軍設置によって、専守防衛の原則を取り払い、自衛隊の攻撃能力を向上させることを目指しているとすれば、重大な戦略・政策の変更となる。

 こうした疑念が湧くのも、安倍氏が自民党「タカ派」の代表格と見られているからである。
 国防軍構想には他の党からも批判が出ている。自民党が選挙の支援を受け、衆院選後の連立相手に想定している公明党の山口那津男代表は「定着している自衛隊という名称を変える必要はない」と述べた。日本維新の会の橋下徹代表代行も「(自衛隊の)名前を変えるのは反対だ」と語った。

 かつて自民党は「自衛軍」を提唱したことがある。「軍」に執着があるようだ。今回の安倍氏らの正確な意図は不明だが、単純な名称変更なら、それこそ必要ない。