2012年11月8日木曜日

「裁判所も反省を」 東電女性殺害 冤罪事件


7日、東電女性殺害事件の再審で、ネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリ氏の無罪判決がありました。

事件の発生から15年あまり、ゴビンダ氏を絶望の淵に落としていた司法の誤りがようやく正されましたが、一体どのようにして償おうとしているのでしょうか。いまの時点では司法の側の動きは何も見られません。
ゴビンダ氏は記者会見で、「日本の検察はぼくとネパール人に謝ってほしい」と語りましたが、あまりにも当然のことです。 

 毎日新聞はこの件に関して弁護団の発言を借りる形で、「裁判所も反省を」を見出しにつけました。これまでは冤罪と言えば直ぐに警察と検察をやり玉に挙げてきましたが、これを機に、裁判所が正義の砦としての本来の機能を果たしているのかを、見直して見るのは必要なことです。 

この事件では東京地裁で無罪判決の出たゴビンダ氏を、東京高裁が高検の拘留請求を、実質たった1日で「ゴビンダ氏の有罪を疑う相当な理由がある」として認めました。1日で地裁の判決内容を検討できる筈はないので、高裁で「逆転有罪にする」という予断あったことは明らかです。まさに驚くべきことです。
それに・・もしも相手が米国人であったなら、果たしてそんな決定をしたでしょうか。アメリカにはひたすらこびへつらう一方で小国は侮るという国柄(国民ではなく官僚や議員たち)は、なんとも情けないことです。 

裁判所の非はそれにとどまりません。通常 裁判はかなり長期間にわたって行われて、その間に検面調書の誤り等が被告弁護人側から詳細に提示されますが、殆どの判事は検面調書のみを真実とする姿勢を貫くと言われています。
多くの被告は、裁判になれば真実が解明されるからと期待して、検察の圧力に屈する形で安易に調書に署名をするのですが、いざ裁判になればそれが被告を苦しめる最大の武器になると言われています。これでは冤罪を防止できる筈もありません。

元新潟県知事の金子清氏が収賄容疑で裁判(平成4年~6年)を受けた経験を、著書「冤罪はまたおこるー検察官調書の恐ろしさ」で次のように語っておられます。
 
『初めて東京地検特捜部に呼び出されて5時間の取り調べを受けた翌日には、実に55ページ(1万5800字)の調書が仕上がっていて、同日それを読まされて署名を求められた。内容は色々と違っていたので検事に修正を求めたが、絶対に修正に応じないので、いずれ裁判になれば明らかにされると思い署名したところ、判事は調書のみを真実として判決を下した・・・』と。
 
(要するに取り調べ前に調書が出来ていたということで、「特捜部は自分たちで事件の筋書きを作り上げる」と言われていることの例証です。) 

 こうなると司法の姿勢を正してゆくことも、国民に課せられた大きな課題であると言えます。
 以下に関連の記事を3つ紹介します。
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マイナリさんが検察に謝罪を要求 記者会見で強く批判
東京新聞2012117 

 【カトマンズ共同】東電女性社員殺害事件で、再審無罪判決を受けたネパール人ゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)は7日、自宅があるネパールの首都カトマンズで記者会見し、日本の検察に対して「ぼくとネパール人に謝ってほしい」と強く批判した。
 マイナリさんは「これからの人生を家族と幸せに暮らしたい」とも語った。
 マイナリさんが記者会見するのは、釈放されネパールに帰国した6月以来。冒頭、ネパール語で声明を読み上げた。

 マイナリさんは無罪判決が言い渡された直後に、自宅で報道陣に対して「喜びの涙が頬に流れた」などと語っていた。
 

東電社員殺害事件 : 無罪確定、弁護団「裁判所も反省を」
毎日新聞 20121107 

 97年の東京電力女性社員殺害事件で無期懲役とされたネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)に東京高裁で「再審無罪」が言い渡された7日、検察側は上訴権を放棄して即日無罪を確定させた。記者会見した弁護団は検察や裁判所に対し、第三者を交えて経緯を検証するよう求めたが、検察側は冤罪(えんざい)か否かについても明言を避け、裁判所側は「コメントは控える」とだけ述べた。 

 ●弁護団
 閉廷後、弁護団は東京都内で記者会見し、主任弁護人の神山啓史(ひろし)弁護士は「一番反省すべきは裁判所。第三者機関の検証を受けるべきだ」と厳しく指摘した。控訴審での逆転有罪(00年)の末、マイナリさんの無期懲役を確定(03年)させた裁判所にも強く反省を求めた。「どうして私がこんな目にあったのか、よく調べ、よく考えてください」。会見の冒頭、弁護団の一人がマイナリさんのコメントを読み上げた。

 神山弁護士は「(無罪の)1審が示した疑問を解消せず、高裁と最高裁は間違っていると決めつけた。『疑わしきは被告人の利益に』という刑事裁判の鉄則があるのに、なぜこういう間違いが起きたのか」と声を荒らげた。この日の法廷では高裁判決からの12年間が走馬灯のようによみがえったといい、「苦しかったが、(今日)肩の荷が下りた」と心境を吐露した。【鈴木一生】 

 ●検察側
 上訴権を放棄し即日無罪判決を確定させた東京高検では青沼隆之次席検事が「結果を厳粛に受け止め、改めてマイナリ氏におわびするとともに、得られた教訓を踏まえ、適切な検察権行使に努めてまいりたい」とする談話を発表した。

 青沼次席検事は上訴権放棄の理由について「15年間拘束したマイナリさんを不安定な地位に置いておくのはあまりにも酷」と説明。しかし、判決が「『第三者』が犯人である疑い」に言及したことには「真相が完全に解明されておらず、冤罪(えんざい)かどうかを言及するのは時期尚早だ」と述べるにとどまった。
 検察は事件の捜査や公判について内部調査して「特段の問題はなかった」と結論付けており、外部による検証は実施しない意向。それでも、ある幹部は「見立てと違う証拠についても慎重に検討すべきだという教訓は残った」と話した。一方、東京高裁の岡健太郎事務局長は「コメントは差し控える」とした。【島田信幸、山田奈緒】
 

「冤罪」と認めず=直接謝罪も否定-再審無罪に東京高検
時事通信2012/11/07 

 ゴビンダ・プラサド・マイナリさんの再審無罪判決を受け、東京高検の青沼隆之次席検事は7日、取材に対し、「真相解明がなされていない。冤罪(えんざい)と言うのは時期尚早だ」と述べ、マイナリさんへの直接の謝罪は「現段階では考えていない」とした。

 判決直後の上訴権放棄については、「結果的に15年間の長きにわたって拘束した重みがある。不安定な地位はあまりにも酷だ」と説明。一審無罪への控訴は不当だったとする弁護側の訴えには、「当時の証拠関係では間違いではなかった」と反論した。
 別の検察幹部は「真犯人を逮捕して起訴し、マイナリさんは冤罪だと言えればいいのだが」と語り、今後の再捜査は困難との見通しを示した。