2012年11月8日木曜日

東電女性殺害冤罪事件 捜査や裁判に第三者の検証を +


 東電女性殺害事件の再審判決後の検察や裁判所の対応を見ると、人の死命を決する権能を有する司法こそは「正義の砦」でなくてはならないのに、自ら犯した誤りを認めたり、反省したりすることはできないようです。
権威の上にあぐらをかいて、「この権威は、一寸たりともを傷つけてはならない」という、身勝手な思いに捉われているからでしょう。

 元高裁判事の木谷明氏は、「内部調査には限界がある。第三者による検証が必要だ」と述べています。検察にも裁判所にも反省や自浄機能がないのであれば、第三者機関による検証と浄化が望まれます。 

 NHKニュースおよび読売新聞社を紹介します。
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東電事件裁判  証拠開示の在り方課題に
NHK WEB News  2012118 

平成9年に東京電力の女性社員が殺害された事件の、再審=やり直しの裁判で、7日、ネパール人男性の無罪が確定しました。
今回の再審をきっかけに、弁護士や専門家からは、より早い段階で証拠を明らかにするよう求める意見が相次いでいて、証拠開示の在り方が課題となっています。

平成9年に東京電力の女性社員が殺害された事件の、再審=やり直しの裁判で、東京高等裁判所は7日、ネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)に無罪を言い渡し、確定しました。
この事件では、弁護団が再審請求を行ったあとに、被害者の体からマイナリさんとは別の人物の血液型の唾液が検出されたことが明らかにされました。

この鑑定は事件当時行われていたもので、弁護団などから「もっと早い段階でこうした証拠を明らかにすべきだ」と求める意見が相次いでいます。
刑事裁判では、初公判の前に争点を絞り込んで証拠を明らかにする手続きがありますが、専門家は、証拠の一覧をリストで開示するなど、さらに積極的な取り組みが必要だと指摘しています。
 
東京高等裁判所の元裁判長で弁護士の木谷明さんは、「今回の事件を教訓に、再審請求に限らず、裁判所は積極的に証拠やリストを明らかにするよう命じるべきだ」と話しています。 

“捜査や裁判  第三者の検証が必要”
一方、無罪判決のあと、検察が改めて捜査や裁判の検証は行わないとしたことについて、専門家は「内部調査には限界があり、同じ過ちをしないために、第三者による検証が必要だ」と指摘しています。

7日の無罪判決を受けて、東京高等検察庁の青沼隆之次席検事は、マイナリさんへの謝罪と再発防止に努めるというコメントを出したうえで、当時の捜査や裁判の検証を行うかどうかについて、「検察は、すでに当時の鑑定や捜査に関わった人たちに聞き取りを行っており、改めては検証をしない。内部の聞き取りの結果については公表しない」と述べました。

こうした対応について、弁護士の木谷明さんは「内部調査には限界がある。同じ過ちをしないために、第三者による検証が必要だ」と指摘しています。 


 
【社説】 東電OL事件 再審無罪で冤罪の検証が要る
読売新聞2012118
事件から15年を経ての無罪確定である。
冤罪を引き起こした捜査当局と裁判所の責任は重い。
東京電力の女性社員が1997年に殺害された事件の再審で、東京高裁は無期懲役となった  ネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)を無罪とする判決を言い渡した。
高裁が「第三者が犯人である疑いが強い」と判断した以上、当然の結論と言える。検察は上告する権利の放棄を申し立てた。
 
無罪を決定付けたのは、被害者の手の爪に残っていた付着物だ。マイナリさんとは異なる人物のDNA型が検出されていた。
判決はこの鑑定結果を重視した上で、「女性が首を絞められて殺害される際、渾身の力で犯人の手をつかんで引き離そうとしたと想定される」と認定した。
弁護側が爪の付着物について、検察側に鑑定を求めたのは、マイナリさんが服役していた2007年1月のことだ。しかし、検察は「爪からは何も検出されていない」と付着物の存在さえ否定する回答をしていた。
 
その後、女性の胸などに残された体液から第三者のDNA型が見つかった。これにより、再審開始が決定し、追いつめられた検察は「存在しない」としていた爪の付着物を鑑定した結果、同じ第三者のDNA型が検出された。
 
ところが、あきれたことに、検察は「証拠隠しはない」と居直っている。過ちを認めず、冤罪に至った経緯の検証を一切行わない姿勢も示している。極めて問題である。自分が不利になりそうな証拠は開示しないという姿勢をたださなければ、国民の検察不信は一段と深まるだろう。
 
日本弁護士連合会は昨年1月、捜査機関や裁判所から独立した冤罪検証組織を国会に設けるべきだとする提言を発表した。検察が自浄能力を発揮しないのなら、こうした声も無視できなくなろう。 
 
裁判所も猛省が必要だ。1審の無罪判決を破棄し、逆転有罪とした高裁、その判断を支持した最高裁の誤判により、マイナリさんは長期間、自由を奪われた。
マイナリさんは検察や裁判所に対し、「どうして私がこんな目にあったのか、よく調べ、よく考えてください」とのコメントを出した。これに応えねばならない。
 
警視庁は再捜査に乗り出す方針だ。再審無罪が確定するまでに、新たに見つかったDNA型は、真犯人に結びつく重要な証拠となろう。徹底捜査を望みたい。