「ウィンザー通信 2015年1月24日」より転載
古舘: 古賀さんに伺いたいんですが、古賀さんは、イスラム国の悪虐非道な犯罪と、しかし一方で、背景の問題を分けて考えることが必要だと、強く訴えられています。
そのあたりからちょっと、聞かせていただけますか。
古賀: イスラム国がやっていることはとんでもないことなんですけれども、言ってることには結構、共鳴する人たちが多いんですね。
それはなにかというと、例えば第一次世界大戦後に、イギリスとかフランスが勝手に国境線を決めちゃって、民族が分断されたとか、あるいは最近であれば、アメリカのアフガンとかイラクとか、ああいうところの戦争で、アメリカに罪の無い女性や子どもを含む民間人がたくさん殺されてるぞと、そういうことに報復するんだと、いうような主張っていうのは、これは一面では嘘じゃなくて、イスラムの中には共鳴する人がいる。
イスラムの人ももちろん、だから人を殺していいっていう人はほとんどいないんですけども、でも、その思想自体は、結構共鳴する人がいるからこそ、人がまだまだどんどん入ってくるということがあるというのは、ひとつ事実として抑えとかなくちゃいけないと思うんですね。
で、私がただそれよりも、今回一番驚いたのは、この安部さんがずっと中東を歴訪して、エジプト、ヨルダンなどでいろいろスピーチされてました。 私が聞いてた感じは、あ、すごいパフォーマンスだなと。
要するに、自分はもう、イスラム国と戦うんだぞっていうのを、すごいアピールしてるなっていうふうに見てたんですよ。
ところが、この事件のことが明るみに出て、よく聞いてみたら、実は、後藤さんが人質に取られて、身代金を要求されてなんていう状況を、政府は知ってたって言うんですね。
で、これはちょっと私、人命第一っていうふうに今は言ってるんですけど、ほんとなんだろうかと。っていうのは、普通、人質を取られて、身代金の交渉なんていうことになっていたら、一番大事なことは、その犯人に対して刺激をしないとか、そういう常識的なことがあるのに、今回わざわざ、向こうに、わざわざ現地の方に、近くに行って、「私はイスラム国を批判しますよ」と。「イスラム国と戦う周辺国に、2億ドル出しますよ」なんていう、まるで、いかにもイスラム国に宣戦布告するかのようなことを言ってしまったと。
で、これを普通に考えると、イスラム国はまあ、交渉できたらいいなと、もしかしたら考えていたかもしれないんですけど、そんなことを公の場で言われちゃったらもう、日本政府だって、今更お金払いますなんてできないよなと。
じゃあこれ、交渉できないんじゃないの、だったらもう宣伝に使っちゃおう、あるいはもう、思いっきり吹っかけてやろうと、いうふうになってしまったんじゃないかなという気がしていて、 私はそこは、安部さん、官邸は、そうことでまあ、後藤さん犠牲になっちゃうかもしれないけど、でも、もっと大事なことがあるんだっていう判断をして、一連の発言をしたんだろうと、いうふうに思うんですね。
古舘: 古賀さん、これはどうなんですか。
古賀さんのお考えとしては、今日の動きを見ても、あるいは昨日あたりからを見ても、総理、あるいは防衛大臣、有志連合のイギリス、アメリカをはじめとして、あるいはオーストラリア、それがいけないっていうんじゃなくて、空爆を敢行している人たちの方向に向いていて、これで交渉が進むだろうか人質解放の、ということを、ちょっと気をもむ方は多いんじゃないかなというところは、どんなふうに捉えますか?
古賀: ですからそこは、人命第一ですというのは、少なくとも向こうに行く前にはそうじゃなかったんじゃないかと思うんですけども、じゃあ何が大事だったんですかというと、やっぱり今おっしゃったように、イスラム国と戦っている有志連合の仲間に入れてほしいと、正式なメンバーにまではなれないけど、仲間と(認めて?)欲しい。
で、そのためには、空爆をしたり、あるいはイラクに武器を供与したりとかできればいいんですけど、これ、できないじゃないですか。
だから、もともと安部さんが願ってる目標っていうのは、ほんとはできないことなんですよ。でもそれをやりたい。それをやるために、じゃあ何ができるかというと、人道支援しかできないと。
じゃあ、人道支援を、あたかもイスラム国と戦うための支援なんです、というふうに表現してしまう。
で、それを思いっきり宣伝してしまうってことをやっちゃったんだろうなと、いうふうに思います。ある意味、目標は達成したと思うんですね。
アメリカやイギリスは多分、安部さんはそんなテロなんかに屈しないと、テロと戦う人たちのためにお金を出しますって言ってくれるのを、非常に評価していると思うし、もう今はまさに、あなたは仲間ですねと、じゃあ最後まで屈しないで、身代金なんて払わないで頑張ってくださいね、みんなで応援しますからねって、そっちにどんどんどんどん、今引き込まれている感じがするんですよ。
ですけどこれは、後藤さんのお母さんが憲法のことを言ってましたけど、日本は戦争をしない国なんだと、で、やっぱりちょっと一回、我々もそこに立ち返らないといけないと思うんですね。
安部さんは、有志連合に入りたいんだ、あるいはそういう国なんだって言いたいかもしれないけど、でもそんなことは、日本は憲法もあるしできない、はずなんですよ
で、世界の人たちに、今回は非常に変な宣伝になってしまって、イスラム国にうまく利用されてですね、いかにも日本というのは、アメリカの正義というのを日本の正義だと思い込んでいるんじゃないかと、あるいは、アメリカやイギリスと一緒なんだと、そういう国だぞっていうふうに思われてしまいつつある、で、それを世界に発信されていると
それに対して私たちは、いや、そうじゃないんですと。
だって日本は今まで、戦後ずっと戦争をしてませんよと。憲法では、日本のことを攻めてこないような人たちのことを、一方的に敵だなんて絶対思いませんよと。なるべく多くの人と仲良くしたいんですよと、こういう国が日本なんですよ、日本人なんですよっていうことを、もう一回ここで、世界にアピールしていく必要があるだろうなと。
今回は、そういう日本のイメージの、全く逆の方に、まあ安部さんの発言もそうなんですけど、それをイスラム国にうまく利用されて、そうするとみんな、イスラム諸国の人たちも、 「いや、なんか日本って結局アメリカなのか」みたいな、「Japan is the (one of the) United States」みたいなですね、それに対して我々は、例えば、「いや、安部さんはそういう印象を与えちゃったかもしれないけども、違うんですよ」と。
『Je suis Charlie(私はシャルリ)』っていうプラカードを持って、フランス人が行進しましたけど、 私だったら、『I am not Abe』というプラカードを掲げて、日本人は違いますよと、そんなことじゃない、ほんとにみんなと仲良くしたいんですと。
決して日本は、攻めてない国に対して、攻撃するとか、敵だっていう、そういうことは考えない国なんですっていうのを、しっかり言っていく必要があるんじゃないかと思いました。
古舘: 古賀さんの考えと一緒の方、全く違うという方、少し違う、いろいろあると思いますが、ひとつ、今のお話を聞いていて思うのは、あ、ここ大事だなと特に思いますのは、やはり有志連合が空爆をして、関係の無い女性、あるいは子どもが多く犠牲になっているが、その数とか、数だけがいいわけではありませんが、多い少ないで決められませんけど、その数すらも伝わってこない、こういう状況下で、歯がゆい思いもするんですが、そこで犠牲になっている子どもたちを救おう、あるいは、そこを伝えるんだという立場の後藤さんが、今人質になっているということを、どう捉えるかということが、大事なところだと思うんです。