2015年2月11日水曜日

欧米は人質殺害事件をどう報じているか

 安倍首相は、中東歴訪中に」「ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」と、軍事援助であるかのような発言をしたことを国会で追及されると、「海外では評価されている」と述べたということです。
 金を出すといわれて迷惑がる国は確かにないわけですが、問題は人質が拘束されているあのタイミングでどうなのかということと、人道支援という趣旨が明確であったかということです。
 
 天木直人氏は、安倍首相は当初の演説の時点、イスラム国から脅迫を受けた時点、それから後藤さんが殺害された時点で、「支援」のニュアンスを変えていると指摘しています。
 
 Weekly Briefingがこの事件に関する海外での報道をまとめています(毎週金曜日)。
 同記事と天木直人氏のブログを紹介します。 
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後藤氏殺害は安倍総理のミスか 白熱する欧米の報道
Weekly Briefing(ワールド編) 2015年2月6日
 
Weekly Briefingでは毎日、ビジネス・経済、メディア・コンテンツ、ワークスタイル、デザイン、スポーツ、中国・アジアなど分野別に、この1週間の注目ニュースをピックアップ。今週金曜日から、世界で話題になっているこの1週間の読むべきニュースを各国のメディアからピックアップするWeekly Briefing(ワールド編)がスタートします。
 
ジャーナリスト後藤健二氏がイラク・レバントのイスラム国(ISIL)の手により斬首されたショックを受け、多くの世界のメディアは安倍総理の外交手腕、交渉力を疑問視し始めている。たとえば、イタリアのメディアは、「後藤さん殺害、すべてのエラーは安倍総理のせい」と報道。そのエラーを7つに分けて解説した。一方、ドイツのメディアは安倍外交に無関心。その対比も面白いが、海外メディアのストレートな物言いは日本のメディアではお目にかかれそうもない。
 
英国は「日本は自立しろ」と批判
英国は、「ジハーディ(聖戦士)・ジョン(ISILの処刑人)」の出身地だ。英国の大手メディア、BBCやPearsonなどは、ISILとの人質解放交渉において実績のあるトルコではなく、実績のないヨルダンに交渉を頼ったのはなぜかと酷評した。
また、日本国内で、安倍外交の評価について議論がされている点を指摘するとともに、安倍政権は他国に頼らず、外交において自立すべきと示唆した。
 
また、Financial TimesのDavid Pilling記者は今までの日本外交政策についてこう解釈した。
「大ざっぱに言うと、日本は、自国の経済的利益を追求するとともに、すべての国の友達を演じている。その一方、国防という厄介な仕事についてはアメリカにアウトソースしている」
 
アメリカは、人質情報を知りながら中東訪問したことを疑問視
アメリカは、テロリストと交渉しない姿勢を明確にしている。WSJ、NYT、Quartzなどアメリカのメディアは、日本国民の間で、安倍政権に欧米のようなアクティブな外交を期待する機運が高まっていると報じた。
その他、英国のメディアと同様、なぜISILとの交渉に長けたトルコに人質解放の仲介を願い出なかったのかと報じた。
 
大手メディアのIACが運営しているThe Daily Beastは、日本人の拘束情報をいち早くキャッチした日本の週刊誌「週刊ポスト」に対して、外務省が「先んじて報道することは人質2人の命に関わる」としてストップの指示を出したことを報じた。そして、「週刊ポスト」がその指示に従ったにもかかわらず、安倍総理は中東を訪問するなど、人質の保護に気を配らなかったと、糾弾した。
 
また、ISILが後藤さんら2人の日本人人質を拘束していることを知りつつ、当初の予定通り訪問を断行したことにより、日本政府はISILのブラックリスト入りし、人質2人が開放されるチャンスは実質ゼロとなったと報じた。
 
フランスは、日本人は世界における立ち位置を模索していると報道
フランスは、英米との協調を乱している。同国のLe Monde、Le Pointなど大手メディアは、日本の各国に対する中立的な政策は実に“日本らしい”と主張した。
また、Le Monde、Le Pointなどを深く読むと、今後安倍政権は中立路線から離れ、よりアクティブな外交をしたいと意気込んでいると述べた。
 
ちなみに、代表的な経済メディアLes Echosが安倍総理の憲法9条改正案について、改正ではなく” 再解釈する“と述べたことにも注目だ。
 
イタリアは、後藤さん殺害は安倍総理のエラーとリポート
イタリアは、シリア難民問題に悩んでいる。イタリアの「Il Sore 24 Ore」は、後藤さんが殺害されてしまったのは、安倍総理が7つの間違いを犯したからだと報じた。
1つ目は、秘密裏に行われた11月以前の交渉が失敗に終わったこと。
2つ目は、その交渉の情報を得た「週刊ポスト」など日本のメディアに対し外務省が報じないように圧力をかけ、そして安倍総理はそれを看過したこと。
3つ目は、カイロでの演説において、中東地域に対し2億ドル支援すると表明したが、その目的を明確にしなかったため、ISILが同じ金額を身代金として要求する結果となったことなどだ。
残りは、ISILとの有効なコミュニケーション・チャネルを見いだせなかったこと、また、安倍総理がISILに対して「罪を償わせる」と欧米の政治家なような厳しい発言をしたことが、集団的自衛権など安倍総理のポリシーとあまりに重なったことなどだ。
 
ドイツは、安倍外交について報道なし
ドイツは、ISILに参加する自国民が欧州一多い国だ。『Charlie Hebdo』銃撃に対するデモがドイツでも行われ、なおかつ、ISILに参加する自国民が多いドイツの大手メディアは、後藤健二氏がISILの手により殺害されたことについてのみ報道。安倍総理の対応については、特にカバーしなかった。
       Weekly Briefing(ワールド編)は毎週金曜日に掲載します。
 
 
二転、三転した安倍首相の人道援助発言
天木直人 2015年02月09日
  今度の安倍首相の中東外遊は、様々な観点から疑問が提起されることになったが、その中でも、最も議論を呼んだのが人道援助演説である。
 つまり人道援助がテロリストに敵意を抱かせたかどうかについてである。
 この点に関し、きょう発売の週刊ポストが次のように時系列に検証している。
 まず「日本はイスラム国のはるか前から中東諸国に人道援助の無償資金協力やインフラ整備をしてきた」という指摘だ。
 これはその通りであって、安倍首相の中東訪問を検討はじめた当初は、人道援助はこの本来の人道援助が念頭にあったと私は思っている。
 しかし、中東訪問の議論の過程で、あるいは外務官僚が、あるいは安倍首相自身が自ら判断して、「イスラム国対策のパフォーマンス」のために、エジプトでの演説で、人道援助を有志連合支援と関連づけたのだ。
 週刊ポストは続ける。
 「慌てたのは自らの勇ましい発言を逆手に取られた安倍首相自身だ。イスラム国の身代金要求後に行ったイスラエルでの会見では、『2億ドルの支援は、地域で家をなくしたり、避難民となっている人たちを救うため、食料や医療サービスを提供する人道支援です』と非軍事面の援助である事を強調して、『イスラム国との戦い』をひっこめた
 その通りである。そして安倍首相はさらに三転する。
 これを週刊ポストの記事はこう解説して見せる。
 「ところが、である。安倍首相は人質が殺害された途端にまた主張を変えた。首相声明に『罪を償わさせるために人道支援をする』と盛り込んだことで、日本の中東人道支援はイスラム国との戦いの一環であることを明確に位置づけたのである・・・この方針転換で・・・現地で活動する日本人の危険性が一層高まった・・・」
 これもその通りだ。そしてこれからさらに四転する可能性すらあると私は思っている。
 
 つまり、邦人を危機に陥れて巻き添えにするなという批判が強くなれば、いや、これは本当に人道援助だけに使われる援助だ、と言い出しかねない。
 このブレこそ安倍首相の不甲斐なさ、覚悟のなさだ。もっとも非難されなければいけないところだ。週刊ポスト紙でさえここまで検証できるのだ。
 
 野党は国会で徹底した証拠を提示して、安倍首相が逃げられないような追及をしなければウソだ。
 そしてその追及は政局がらみに終始してはいけない。
 日本と国民の平和と安全がかかっている、極めて重要な追及なのである(了)