2015年2月7日土曜日

首相は人質犠牲事件の検証を事実上拒否

 朝日新聞の1月24日号に、「イスラム国の外国人拉致と結果」というグラフが載り、各国の人質の拘束期間が棒の長さで示されています。それを見て驚くことは湯川さんと後藤さんが拘束されてから殺害されるまでの時間が、他の外国人(米・英・露・独・仏・伊・デンマーク・スイスなど米英露以外は生還)に比べて異常に短いことです。
 
 日本はこれまでアラブの国々に対して決して敵性国ではなく友好国と見られていたにもかかわらず、こんなに短期間のうちに「処刑」されてしまったのは何故なのでしょうか。こんなあるべきでないことが起きてしまったのは、中東訪問中や帰国してからの安倍首相の一連の言動がイスラム国を激高させた(心象を大いに害した)からとしか考えられません
 せめて二人のいたましい犠牲を生かすためにも、何故こんな結果になってしまったのかをキチンと検証することが必要です
 
 しかし安倍首相の国会での質疑応答などを見ているとそうした自覚は露ほどもなく、これはいまに始まったことではないのですが、自分の不利になることについては決して答えずに、関係のない事柄だけを繰り返し延々と話すことの連続です。これではどんなに時間をかけても何も深まりません
 
 日本共産党の志位委員長は5日の記者会見で、政府の検証姿勢について「この間の首相の答弁をみる限り、冷静な検証をしようとすると、『テロに屈することになる』の一言で、検証を拒否する態度をとっている」と述べました。
 これは決して「この態度は良くない」ですまされることではないので、国民になりかわってキチンと追及して欲しいものです。
 ・・・とはいえ安倍首相の対応は多分変わらないことでしょう。彼には何かが欠落しているとしか思えません。
 
 高知新聞は5日の社説で、首相が、政府として検証した上で有識者の意見聴取も検討する考えを示したことに触れて、それが首相が多用する有識者会議のように偏った人選では意味は薄れると述べています。
 
 国会で埒のあかない問答を続けるよりも、公正に選ばれた有識者による検証の方が実が挙がるかも知れません野党もその設置を検討してみてはどうでしょうか。 
 
 しんぶん赤旗の記事と高知新聞の社説を紹介します。
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「テロに屈する」の一言で検証を拒否する態度 志位委員長が批判
しんぶん赤旗 2015年2月6日
 日本共産党の志位和夫委員長は5日の記者会見で、過激組織「イスラム国」による日本人殺害事件をめぐる政府の検証姿勢について問われ、「二度と犠牲者を出さない、世界から過激武装グループ、テロリズムをなくしていくための教訓を、冷静に引き出すことがいま大事です。この間の首相の答弁をみる限り、冷静な検証をしようとすると、『テロに屈することになる』の一言で、検証を拒否する態度をとっています。この態度は良くない」とのべました。
 
 志位委員長はこのなかで、三つの問題点を指摘しました。
 
 第一は、政府が早い段階から本腰を入れた対応をしてきたのかです。
 政府は、昨年8月に湯川遥菜さん、同11月に後藤健二さんが拘束された情報をつかみ、現地対策本部をつくっていながら、今年1月20日に「イスラム国」が2人の動画を公開するまで人的体制の増強をしてこなかったことを認めています。
 志位氏は「1月20日までの時期に、本腰を入れた、真剣な対応が行われたのか、検証されなければなりません」とのべました。
 
 第二は、1月20日に前後した中東歴訪での首相の言動です。
 首相は、カイロで「ISIL(イスラム国)とたたかう周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」と発言。その後、イスラエルでネタニヤフ首相と会談し、両国の軍事協力の促進を表明しています。
 志位氏は「そういう言動が(拘束された)日本人の生命に危険を及ぼす認識があったのか、首相に再三聞いても答えません。“そういう質問をすること自体がテロに屈することになる”という答えでした。冷静な検証を、『テロに屈する』の一言で拒否するという姿勢です。これは良くない。引き続き検証が必要です」と厳しく指摘しました。
 
 第三は、より大きな角度から歴史的な検証をする必要性です。
 志位氏は、2003年に米国が始めたイラク侵略戦争が「地獄の門」を開き、シーア派とスンニ派との泥沼の内戦のなかから、「イスラム国」が生まれたと指摘しました。
 「こういうモンスターのようなテログループをつくったきっかけは、イラク侵略戦争です。この戦争に日本は支持を与え、自衛隊を派遣しました。テロリズムを国際社会から一掃するためにどういう対応が必要かを考えるうえでも、イラク侵略戦争の歴史的検証をおこなうことは不可欠だと考えます」とのべました。
 
 
人質事件検証 冷静に教訓を酌み取れ  
高知新聞 2015年02月05日
 中東の過激派「イスラム国」が2邦人に続いて、ヨルダン軍パイロットを殺害したとする映像を公開し、残虐さをあらためてみせつけた。 
 日本人を標的にした事件の再発防止に向け、対策を強化しなければならないが、そのためにも今回の事件をめぐる政府の対応をしっかりと検証することが重要となる。 
 対応の一端は国会論戦などを通じて明らかになりつつある。ポイントの一つは、政府が湯川遥菜さんの行方不明を把握した昨年8月以降の初動態勢が十分だったかという点だ。関係各国などに頼らざるを得なかった情報収集の能力にも課題が残る。 
 先月の中東歴訪やエジプト・カイロでの演説にも疑問の声がある。政府は12月初めに後藤健二さんの家族に脅迫メールが届いていたことを把握していたから、当然の疑問だろう。 
 安倍首相は国会質疑でテロのリスクを勘案したことを認めた上で、「テロの脅威を恐れること自体、既にテロリストの思惑にはまっている」と反論している。 
 カイロの演説では「イスラム国と戦う周辺各国」への2億ドルの支援を表明した。首相は「テロリストに過度な気配りをする必要は全くない」と述べたが、同時に「避けなければならない」とした「いたずらに刺激する」面もあったのではないか。 
 これらを含め、検証すべき点は数多くあるだろう。首相は政府として検証した上で、有識者の意見聴取も検討する考えを示している。むろん、首相が多用する有識者会議と同じような、偏った人選では意味は薄れる。 
 検証の結果は可能な限り公表しなければならない。協力を得た国との関係などから表に出せない部分はあるにせよ、教訓を今後に生かすためには結果を幅広く共有する必要がある。 
 気掛かりなのは、安倍首相が人質事件と絡めて、自衛隊任務の拡大を視野に入れた憲法9条改正に意欲を示していることだ。また、今国会に提出する安全保障法制では、イスラム国を空爆する米英軍などに対する自衛隊の後方支援なども視野に入っている。 
 首相が力説する「積極的平和主義」には、日本と日本人のリスクが増しかねない危うさもある。過激派の「恐怖の支配」に屈してはならないのは当然だが、冷静に教訓を酌み取る作業をまずは急ぐべきだ。