2015年2月4日水曜日

古賀茂明氏 報道ステーション発言の真意を語る


 安倍首相は3日、危険な国には大使館に武官を駐在させることに言及しました。官邸は「日本はアルカイダなどに10年前から敵国視されていた」として、首相の中東での発言に問題はなかったとしていますが、ああした発言があったからこそ「武官駐在」の必要性が生じたのでした。
 首相は新しく生じたこの危機を絶好のチャンスだとして、自らの思いの方向に歩を進めていますが、武官の駐在など安倍首相の自己満足にはなっても、俄かに安全が脅かされることになった現地の人たちにとっては何の足しにもなりません。 
 
 ところでイスラム国による人質事件が最悪の結末を迎えたのちも、マスメディアの報道姿勢は「政権批判は的外れ、『テロと同じ』」といわんばかりの論調のままだそうです。
 
 元通産官僚の古賀茂明氏は、評判になっている覆面官僚若杉冽氏によるリアル告発小説「原発ホワイトアウト」に唯一実名で登場する人物だそうですが、彼は1月23日の「報道ステーション」に登場して、中東での安倍首相の言動を痛烈に批判しました。
 それは多くの人たちが漠然と思っていたことを、非常に鋭く且つ分かりやすく語ったもので、聞く人を十分に納得させるものでした。しかし意外なことにテレビ局にはその後ものすごいバッシングの電話等が寄せられたということです。それは官邸が同番組に激怒したことと気脈を通じたかの如くにでした。
 
 先月27日に「生活の党と山本太郎となかまたち」の小沢一郎、山本太郎両共同代表が、他の野党が「イスラム国」による日本人殺害脅迫事件の解決を目指す政府への追及を抑えている現状を批判したときにも、バッシングの嵐が起きたといわれています
    ※ 1月28日 小沢・山本両氏が共同代表に、野党の姿勢を批判 
 
 いま官邸・メディアそして安倍首相を批判する人たちをバッシングすることに狂奔している一部の人たちのあり方は異常です。そしてそれが常態化しようとしています。
 
 日刊ゲンダイが「古賀茂明氏が語る am not Abe 発言の真意」と題して、報道ステーションでの発言の真意を報じました。
 
 註.なお当日の番組における古賀氏の発言内容は次の記事で紹介します。
      2月4日 古賀茂明氏発言(報道ステーション1月23日放映)
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古賀茂明氏が語る「I am not Abe」発言の真意
日刊ゲンダイ 2015年2月2日
 
安倍首相は「有志国連合」の有力メンバーになりたかった
 イスラム国の人質事件では、ほとんどの大メディアが安倍政権批判を控えている。そこにあるのは、「人質が殺されそうなときに足を引っ張るな」という情緒論だが、そんな中、敢然と、しかも痛烈な言葉で安倍首相を批判したのが、元経産官僚の古賀茂明氏(59)だ。
 「フランス人は『Je suis Charlie(私はシャルリー)』というプラカードを持って行進したけど、日本人は今、『I am not Abe』というカードを掲げる必要があると思う」
 テレビ朝日系の「報道ステーション」での発言に官邸は激怒、ネトウヨたちは大騒ぎとなった。一方、「よくぞ言った」という支援の輪も広がりつつある。古賀氏が改めて“過激発言”の真意を語った。
 
――あの発言が出た直後から、大変な反響だったと聞きましたよ。官邸の秘書官筋からテレビ朝日の上層部に抗議の電話が入り、大騒ぎになったとか。古賀さん自身には何かありましたか?
 局に対してはいろいろな声があったようですが、僕には直接ありません。でも、誰かが声を上げて、「これはおかしい」と言わなければ、太平洋戦争と同じ状況になってしまう。だから、注目度が高い番組に出た際、考え抜いて発言したわけで、反論は予想通りですし、むしろ反響の大きさに驚いているくらいです。
 
――戦前と同じ状況というのは、ついに日本も米国と一緒に泥沼のテロとの戦いに引きずり込まれてしまった。キッカケは安倍首相の軽率としか思えない中東歴訪と、イスラム国と戦う国への2億ドル支援表明です。多くの日本人が不安を抱えているのに、声に出せない。そんな状況ということですか?
 今度の人質事件では、いろいろな報道がされていました。でも、必ず最後の方は「テロは許しがたい行為だ」「いまは一致団結して、安倍さんの戦いを支持すべきだ」というところに帰結してしまうんですね。そうなると、あらゆる議論が封じ込まれてしまう。今は戦前のように治安維持法もないし、特高警察もいませんが、安倍政権のテロとの戦いに異論を挟むのは非国民だ、みたいな雰囲気が醸成されつつある。テロリストを擁護する気は毛頭ありませんが、日本が米国と一緒になって世界中で戦争に参加する国だというイメージをつくっていいのか。多くの人が違うと思っているのに、誰も声を出せない。それってやっぱり、おかしいでしょう。
 
――順番に伺います。古賀さんは安倍総理が中東歴訪以前に後藤さんが人質になっていることを知っていたという前提で話された。「臆測でものを言うな」という批判もありました。一部報道では当初10億円、その後20億円の身代金要求があり、奥さんは外務省に相談していたと報じられたからですか?
 政府はずっと前から知っていたことを認めましたよね。でも、それは官僚だった私から見れば当たり前のことでした。こうした情報に接した官僚が上に上げないということはあり得ません。あとで情報を上げなかったことが分かったら、大変な失態になるからです。大臣秘書官、次官、官房長にはすぐ上げる。同時に官邸の外務省出身の秘書官にも連絡がいくはずです。その秘書官が安倍首相に伝えないということもあり得ない。伝えなければ、大きなリスクを背負うし、伝えて損をすることはないからです。
 
――だとすると、この時点で官邸・外務省は身代金を払わない方針を決めたのか、「放っとけ」とばかりに無視したのか。右往左往しているうちに時間が過ぎてしまったのか。
 10、20億円程度であれば、官房機密費で払えます。まして、1月には安倍首相の中東歴訪が控えている。身代金を払って解決させる選択肢もあったはずですが、官邸にそういう提案をして却下されたのか、それさえできない雰囲気だったのか。いずれにしても、人命よりも優先させたい事情があったとみるべきです。
 
――それは何ですか?
 安倍首相は対イスラム国の有志国連合の有力なメンバーになりたかったのだと思います。世界の列強と肩を並べて、認められたい。それが安倍首相の願望であるのは間違いないと思います。そんなときにイスラム国に身代金を払ったことがバレたら、米英に顔向けできなくなる。そんなリスクは背負いたくない。後藤さんの命よりそちらを優先したのです。
 
世界の大舞台で“二枚舌外交”を繰り広げる安倍首相
――なるほど。そうなると、安倍首相がエジプトでイスラム国に宣戦布告するような言い方で、2億ドルの支援表明をしたのも分かりますね。
 有志国連合として認めてもらうために空爆や武器供与をしたいけど、現行の憲法ではできない。できるのは人道支援くらいです。そこで、イスラム国を名指しして、そこと戦うためのお金であると聞こえる言い方をした。他にもテロ組織はたくさんあるのに、イスラム国にだけ言及したのは不自然ですし、本来、人道支援というのは武力紛争にはかかわらず、どちらにも加担せずに、政治的意図を排除して、人道主義の立場から行うもので、日本はいつもそれを強調していた。ところが、あの演説は人道支援というトーンを弱めて、軍事的政治的意図を込めた支援であるような言い方をした。この発言を米英は歓迎したようですが、身代金を取れずに焦れていたイスラム国にしてみれば、これで交渉の余地なしとなった。「宣戦布告された」となったのだと思います。
 
――安倍首相は動画が公開された後、盛んに人道支援だと強調していますけど?
 最初は人道支援ではなくイスラム国と戦うための支援であるかのように装い、これは失敗したと思ったら、急に人道支援を強調する。二枚舌外交です。五輪プレゼンテーションの汚染水発言もそうでしたが、世界の大舞台で大嘘をつく。それが安倍政権の特徴です。
 
――「人命第一」と繰り返していますが、これも怪しいもんですね。
 25日、NHKの日曜討論で安倍首相は「この(テロ殺害事件)ように海外で邦人が危害に遭った時、自衛隊が救出できるための法整備をしっかりする」と言いました。これは驚くべき発言で、イスラム国が聞いたらどう思うのか。人命第一と言いながら、その交渉の最中に「いまは戦争できないけど、法律を改正したら、おまえたちを叩くために自衛隊を出すぞ」と言ったわけです。普通の感覚であれば出てこない発言で、安倍首相は中東で米国と人質奪還の共同作戦をやりたいのでしょう。人命のかかった危機を「政治利用」しようとするとんでもない発言です。
 
――でも、そうなると、日本人は対テロ戦争に引きずり込まれる。世界中でテロの標的になってしまう。
 中東での日本のイメージとは「戦争をしない国」です。ポジティブな平和ブランドがあるんです。安倍さんはそれをぶっ壊そうとしている。少なくとも政治的にも軍事的にも、米国の正義=日本の正義というイメージで走ろうとしている。安倍さん自身の願望でしょう。でも、日本は米国とイコールではありませんよ。日本は世界に敵が少ないんです。一方、米国はシンパもいるが敵も多い。おそらく、米国ほど敵が多い国はないと思いますよ。途上国では中国よりも嫌われている。イスラム国がやっていることはめちゃくちゃですが、その根底には米国がイラクやアフガニスタンで無実の女性や子供、民間人を大量に殺戮した過去がある。その報復は国際法上は許されないが、メンタリティーとしては理解できる。だから、イスラム国は急拡大したのでしょう。そんな中、米国の正義=日本の正義で、米国の敵=日本の敵というイメージがつくられつつある。イスラム国のPR戦略の巧みさもありますが、安倍さん自身がそういう認識の政治家であるというのも真実だと思います。
 
――ちょっと待ってください。多くの日本人は米国の敵=日本の敵なんて思っちゃいませんよ。中東で戦争しようとも思っていない。
 だからこそ、「IamnotAbe」というプラカードを掲げる必要があるのです。私たちは安倍さんとは違う、安倍さんは変なメッセージを送ったが、彼は日本国憲法を踏みにじるおかしな人だ、普通の日本人じゃない。我々は違うということを、世界に訴える必要がある。安倍さんのもとに結束しろという意見があるが、それは危険です。「I am not Abe」ということで、日本人の命を守るには、安倍さんの考え方を否定すべきだということを言いたかったのです。憲法の前文を見てください。日本はあらゆる国と仲良くし、それを通じて、世界平和に道を開くことを基本理念にしている。日本を攻撃しない人々を敵にするのは、憲法上、許されないのです。この理念は後藤さんの考えと共通しています。「IamKenji」ですね。そうしたことを訴えるべきで、さもないと、世界中で日本人はテロの標的になってしまいます。
 
▽こが・しげあき 1955年、長崎県生まれ。東大法卒。通産省へ。行政改革などにかかわり、改革派官僚として名を馳せる。2011年に退職、評論活動へ。「日本中枢の崩壊」(講談社)が38万部のベストセラー。近著は「国家の暴走 安倍政権の世論操作術」(角川oneテーマ21)。