24日でロシアのウクライナ侵攻から1年となり、世界の食料・エネルギー事情にも大きな影響を及ぼしています。
日本の食料自給率はカロリーベースで38%という低さですが、種やヒナはほぼ輸入という農産物が多いので、それを加味した実質的な自給率はコメ10%、野菜8%という壊滅的状況です。日本を痛めつけるには武器など不要で、食料さえ止めればいいというのが現実です。
岸田首相は対中戦争を念頭に5年間で43兆円を投じる大軍拡を目指していますが、もしも対中戦争が起きれば、シーレーンは封鎖され日本に物が入ってこなくなるし、そもそも中国が日本への食料輸出を止めたら日本は終わりです。
日本は米国に追随する中で、農業・牧畜をあまりにも軽視して来ました。この期に及んでも「コメは作るな」「牛乳は搾るな」「牛4万頭を殺せ。1頭殺せば15万円払う」と無責任な農業つぶしを続けています。
「戦争ごっこ」しか念頭にない岸田首相は真の国防が何なのかを分かっていません。
しんぶん赤旗日曜版が、鈴木宣弘・東京大学大学院教授に話を聞きました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ウクライナ侵略1年 食料供給に打撃 農業守ってこそ真の「国防」
コメの実質自給率10%なのに「作るな」と迫る日本政府
軍拡一色安全保障の基本と真逆 東京大学大学院教授 鈴木宣弘さん
しんぶん赤旗日曜版 2023年2月26日号
すずき・のぶひろ
1958年生まれ。農林水産省勤務、九州大学教授などを経て、東京大学大学院農学
生命科学研究科教授。『世界で最初に飢えるのは日本』『農業消滅』『食の戦争一
米国の罠に落ちる日本』など著書多数
24日で勃発から1年となる□シアによるウクライナ侵略戦争は世界の食料・エネルギー問題にも大きな影響を及ぼしています。ここで日本こそ切実な教訓を学ぶべきだと説く鈴木宣弘・東京大学大学院教授に話を聞きました。 坂口明記者
「世界の穀倉地帯」であるウクライナでの戦争が長引き、小麦やトウモロコシが種もまけず輸送もできない事態になりました。同国から直接輸入するアフリカ諸国などが大打撃を受けています。
相次ぐ輸出規制
日本のウクライナからの輸入は限定的です。しかしウクライナが輸出できなくなると、日本が食料を輸入してきたほかの諸国に需要が集中し、食料の争奪戦が始まってしまいました。特に人口14億人の中国が高額で大量に買い付け、穀物も肉も魚も牧草も日本が買い負ける状況が強まっています。
そのもとで小麦の生産が世界2位のインドが、自国民を守るために輸出をやめています。そういう防衛的な輸出規制をする国が30力国ぐらいになっています。これがさらに増えると極めて重大です。
日本は肥料用のカリウムをロシアやベラルーシに依存していましたが、両国は今「ロシアに敵対する日本には売らない」と言っています。食料や生産資材が武器として使われているのです。
種などほぽ輸入
さらに「台湾有事」など起こってはいけませんが、もしそんなことになればシーレーン(海上交通路)は封鎖され、日本に物が入ってこなくなります。日本の食料自給率はカロリーベースで38%という低さです。ところが種やヒナはほぼ輸入という農産物が多く、それを計算に入れた実質的な自給率はコメ10%、野菜8%という壊滅的状況です(表)。日本を痛めつけるには武器など不要で、食料さえ止めればいいというのが現実です。
不測の事態に国民の命を守るのが安全保障です。国内の食料を国民に、いつでも調達できるようにするのが、安全保障の基本中の基本です。ほかの国は全てそうしています。
ところが日本では、なぜか、その根本が飛んでしまい、防衛費を43兆円に増やし「攻めていけばいいんだ」とか、むちゃくちゃな話になっています。トマホークなど使い物にならない米国の武器の在庫処分みたいなものに膨大な金を払えと言われています。
そんなことに何十兆円も使うのなら、食料にこそしっかりと予算を付け、農家に頑張ってもらえるようにすべきです。ところが30兆円の補正予算を付けても、農家の赤字を直接的に補てんする予算はゼロです。それどころか政府は、この期に及んでも「コメは作るな」「牛乳は搾るな」「牛4万頭を殺せ。1頭殺せば15万円払う」と無責任な農業つぶしを続けています。
| 種と飼料の海外依存度も考慮した日本の実質的な食料自給率(%) |
| |||
|
| 食料国産率 | 飼料・種自 | 食料自給率 |
|
|
| (A) | 給率(B) | (AXB) |
|
| コ メ | 97 | 10 | 10 |
|
| 野 菜 | 80 | 10 | 8 |
|
| 果 樹 | 38 | 10 | 4 |
|
| 牛乳・乳製品 | 61 | 42 | 26 |
|
| 牛 肉 | 36 | 26 | 9 |
|
| 豚 肉 | 50 | 12 | 6 |
|
| 鶏 卵 | 97 | 12 | 12 |
|
2020年 鈴木信弘著『世界で最初に飢えるのは日本』に基づき作成
戦後政策の誤り米国の余剰処分場化
こんなことになったのは戦後、「農産物を犠牲にし、食料は自動車などの輸出で得た金で外国から買えばいい」という政策が続いてきたからです。貿易自由化で小麦、トウモロコシ、大豆の国内生産が壊滅的打撃を受け、日本は米国の余剰農産物の処分場にされてしまいました。
農水省が2006年に「食生活をコメ中心に見直すと食料自給率を63%まで上げられる」との試算を出したことがありますが、米国の怒りを恐れたからなのか封印されてしまいました。しかも「ミニマムアクセス」とかいって、日本より4割も高い米国のコメを無理やり買っています。
「日本は米軍に守ってもらっているから米国の言いなりにならなければ」と思考停止になっています。しかしもし「台湾有事」が起きれば米国は、日本の基地を使って日本を戦場にし、米本土に危害が及ばないようにすることは明白です。
中国を敵視して武器をそろえても、中国が食料輸出を止めたら日本は終わりです。日本は東アジア米備蓄機構構(注)の設立を主導したことがあります。東アジア諸国がコメを備蓄し、緊急時に助け合う仕組みです。食料を通じてアジア諸国が仲良くし、平和を維持することができます。
ウクライナ戦争に照らしても、軍拡でなく国内の食料と農業を守ることこそ真の「国防」であり、アジアの平和への道です。
(注)東アジア米備蓄機構構
2012年に協定が発効した「ASEAN十3緊急米備蓄」(APTERR)。東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国と日″中韓3カ国が参加。