日刊ゲンダイが「国会審議はスルー、五輪不正も後出しジャンケン つくづく日本を腐らせているのは大メディア」とする記事を出しました。確かに外国のメディアに比べて日本のメディアは政権に歯向かう姿勢に欠けます。
昨年末、「徹子の部屋」に出演したタモリ氏が「(来年は)新しい戦前になるんじゃないでしょうか」と述べて、その軽妙な表現が一躍有名になりました。実に見事な言い回しをするものです。
いまから80数年前の日米開戦前夜には日本のマスコミは軍部を中心とした圧力の前に沈黙を余儀なくされました。そして敗戦後、連合軍が進駐してきた中で、当時の新聞界は沈黙したことへの反省の弁を口にしました。… それから長い年月を経て現在に至りました。
岸田政権は5年後に世界第3位の軍事国家になることを(事実上)公言しましたが、何故かメディアはその大軍拡・大増税路線を前にして静まり返っています。極めて異常なことです。
理由は様々にありそうですが、安倍政権以降、メディアのトップが政権のトップと会食することに違和感を持たず、いまでは「定例化」されたことが一番大きそうです。逆に言えばメディアのトップに権力者と会食することを躊躇しないという体質があり、国民にもそれを容認する体質があったということです。しかしこのままではズルズル…というよりも、一足飛びに「戦前に戻って」しまいます。
日刊ゲンダイの怒りの記事を紹介します。
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国会審議はスルー、五輪不正も後出しジャンケン つくづく日本を腐らせているのは大メディア
日刊ゲンダイ 2023/02/17
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
3.11の教訓をどう考えているのか。なぜ、大新聞テレビは、目の前で起きている異常事態を国民に伝えないのか。
とうとう「老朽原発」の稼働期間の大幅延長が決定されそうな雲行きだ。現在、原発の稼働期間は「原則40年、最長60年」というルールになっている。60年超の原発は世界に1つもなく、重大事故を起こす恐れがあるからだ。
ところが、岸田政権は、最長60年の規制を一気に取っ払う方針だ。この通常国会に関連法案を提出する予定でいる。
15日の衆院予算委員会。立憲民主党の枝野幸男議員から「政府方針だと原発を永遠に使いつづけてもよくなってしまう」「最長期間をしっかり守るべきではないか」とただされると、岸田首相は「運転期間については“安全”の観点から設けられていたが、“利用政策”の観点から運転期間を設ける」と、「安全」より「利用」を優先させることを半ば堂々と認めたのだ。岸田本人は、さも当然という顔で答弁していたが、これはトンデモナイ話なのではないか。
さらに「原子力規制委員会」でも異例の事態が起きている。現行の原子炉等規制法は、原発の稼働期間を「原則40年、最大60年」と定めているが、13日に臨時委員会を開き、「原則40年、最長60年」という規制を削除した改正案を多数決で了承してしまったのだ。
異様だったのは、委員5人のうち、地震担当の委員が「科学的、技術的な知見に基づくものではない」と、老朽原発運転の危険性を訴えたのに、多数決で押し切ってしまったことだ。しかも、賛成した委員からも「せかされて議論してきた」と不満が出るような審議の進め方だった。
「原子力規制委員会」が、反対意見を押し切ってまで結論を急いだのは、政府の方針転換に足並みを揃えるためだ。委員長自ら「政府の法案提出というデッドラインがあり、やむを得ない」と説明している。しかし、これも驚くべき発言なのではないか。
もともと「原子力規制委員会」は、3.11の原発事故を踏まえ、「規制」と「推進」の分離を図って設立されたものだ。「原子力規制委員会」は、その名の通り「規制」のための「独立機関」のはずである。なのに「推進」を図る政府の意向に従うなら、もはや存在する意味がないだろう。
どうかしているのは、目の前で異常なことが起きているのに、大手メディアがスルーしていることだ。実際、多くの国民は、この国会でなにが起きているのか、ほとんど知らないのではないか。
「なぜ、大新聞テレビが、一連の異常事態について大きく報じないのか理解不能です。とくに独立機関である“規制委員会”が、政府の下請けのようになっているのは大変な話です。まさか、独立機関の大切さが分かっていないのでしょうか」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)
この国会では「日本学術会議」に対する政府の介入を可能とする法改正案も進められている。現在、学術会議のメンバー選考は、会員が次期会員候補を推薦する仕組みだが、岸田政権は、外部の「第三者委員会」が介在する仕組みに変えるつもりだ。この国会に法案を提出する。狙いは、アカデミズムを軍事力開発に協力させるためだ。法案が成立したら、戦後日本の形を大きく変えるのは間違いない。
しかし、大手メディアは、「日本学術会議」への介入についても、ほとんど報じようとしない。
大手メディアが沈黙しているため、岸田政権はやりたい放題である。
「五輪不正」追及も期待薄
もし、欧米先進国で同じようなことが起きたら、メディアは絶対に黙っていない。連日、大々的に報じているはずだ。
以前から日本メディアの堕落ぶりは指摘されてきたが、異常な国会審議までスルーするとは、行き着くところまできてしまったのではないか。
もはや、なにが大事な問題なのかさえ分からなくなっている可能性さえある。政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう言う。
「ジャーナリズムにとって大切なことは、たとえ地味なニュースでも、問題だと判断したら、国民のために大きく報じることです。ところが日本のメディアは、商業主義に毒されているのか、目新しい話などハデな話題にばかり飛びつくようになっている。たとえば、立憲民主党の枝野幸男さんが国会質問した15日のニュースも、質問の中身とは関係なく、自民党の石破茂さんが10年ぶりに質問に立ったことの方が大きく扱われていた。ニュース価値を完全に間違えている。ジャーナリズムの役割は、権力が隠していることを暴き、国民に伝えることです。ところが、日本のメディアは、権力が隠しているどころか、目の前に転がっている大問題さえスルーしているのだから、どうかしています」
こんな調子では、東京五輪の談合事件だって、どこまで本気で追及できるのか怪しいものだ。大手新聞社が大会スポンサーにズラリと名を連ね、民放各局の幹部が組織委員会の内部組織「メディア委員会」に所属していたからなおさらである。
実際、大メディアの「五輪不正」報道は、後出しジャンケンもいいところだ。
東京地検の動きを仰々しく報じているが、広告業界が談合を繰り返していたことも、東京五輪では電通のやりたい放題だったことも、大メディアはとっくに知っていたはずである。
「組織委の中では、五輪開催前から、いずれ談合の話が明るみに出て大騒ぎになるのではないかと危惧されていました。なにしろ、半ば大っぴらにやっていましたからね。組織委に出向していた都庁職員の一部も、以前から談合を怪しんでいた。それだけに、ほとんど政府と一体となって五輪開催を推し進めた大手メディアが、なにも知らなかったというのは疑問です」(組織委関係者)
安倍政権に骨抜きにされた
どうして日本メディアは、ここまで機能不全に陥ってしまったのか。やはり、安倍政権の10年でキバを抜かれたことが大きかったのではないか。権力に睨まれるような記事はほとんど書かなくなってしまった。
とうとう、首相の名代となって、安倍元首相のインタビュー原稿をまとめた雑誌媒体に「ゲラを見せろ」と介入する大手新聞社の幹部まで現れる始末だった。
朝日新聞元記者の鮫島浩氏は日刊ゲンダイ「注目の人直撃インタビュー」で、大メディアが萎縮する原因についてこう語っていた。
〈(記者は)出世に響くので、なるべく揉め事を起こさない。無難な記事で済ませる。そのための口実が『客観中立報道』という建前なんです〉〈その結果、発信量の多い、声の大きい自民党に有利になるのは分かっているのに、一律に横並びで、分かりやすい解説はせず、踏み込まない〉
安倍政権以降、日本メディアの堕落は急激に進んでいる。非政府組織「国境なき記者団」(本部・パリ)が発表した2022年の「報道の自由度ランキング」では、日本は世界180カ国・地域の中、71位だった。民主党政権の10年は11位だったが、安倍政権以降に急落。13年に53位に落ちて以降、下位低迷が定着するようになった。
大メディアがこんな体たらくでは、岸田政権のやりたい放題は止まらない。原発政策の大転換や大軍拡にとどまらず、今後、調子に乗って何をしでかすか分かったものではない。政治評論家の本澤二郎氏はこう言う。
「安倍政権下では、閣僚がテレビ局に対し『電波停止』をチラつかせ、党幹部が『放送の公平中立』を求める圧力文書を送りつけるなど、徹底的に抑えつける一方、首相がメディア幹部と食事するなど“懐柔”も行われてきた。完全にコントロールされるようになってしまったのです。このままメディアが機能しなければ、岸田政権の暴政は続くでしょう。日本の政治が堕落し、政権交代が起きないのは、もちろん野党がだらしないこともありますが、大メディアが伝えるべきことをきちんと報じないからです」
国民目線なき大メディアが日本を腐敗堕落に導いているのだ。