2023年2月8日水曜日

敵基地攻撃能力の危険 志位委員長質問が明らかにしたもの(上)(中)

 しんぶん赤旗が「敵基地攻撃能力の危険 志位委員長質問が明らかにしたもの」という3回ものの連載記事を出しました。
 共産党の志位委員長は1月31日の衆院予算委で、「安保3文書」の核心である「敵基地攻撃能力」保有の根本問題をただしました。「安保3文書」が「専守防衛」を謳った日本国憲法に違反していることは明らかですが、中でも重大視すべきことは、国際法違反の「先制攻撃」を前提とする米国の「統合防空ミサイル防衛」(IAMD)を導入するとしたことで、それには攻撃対象として軍事拠点やその指揮機能に留まらず、鉄道や道路、港湾、空港なども含まれていて、先制攻撃から全面戦争に至るまでが想定されていることです。
 志位氏によれば「米軍のIAMDに参加しようとすれば、敵基地攻撃能力を持つことが参加資格となっている」ということです
 これは敵基地攻撃能力を持っていなければIAMDのメンバーとしては役に立たないからで、岸田首相が憲法違反の敵基地攻撃能力を持つことに執着しているのは、IAMDへの参加資格を得るためと見れば納得がいきます。
 首相は国会で自衛隊は米軍とは異なる独自の行動が出来るかのように述べましたが、それは勿論あり得ないことです。連載記事の(上)と(中)を紹介します。
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敵基地攻撃能力の危険 志位委員長質問が明らかにしたもの(上)
先制攻撃前提の米と融合
                        しんぶん赤旗 2023年2月6日
 「専守防衛」から米国とともに先制攻撃へ―。日本共産党の志位和夫委員長は1月31日の衆院予算委員会で、戦後の安全保障政策の大転換をもたらす「安保3文書」の核心「敵基地攻撃能力」保有の根本問題をただしました。そのポイントを振り返ります。
 最大の問題は、岸田政権が保有を宣言した敵基地攻撃能力(反撃能力)が、憲法違反であるだけではなく、日米が「融合」する形で運用され、米軍の先制攻撃への参加の危険があることです。
 志位氏は、1月13日の日米共同声明や同11日の日米安全保障協議委員会(2プラス2)共同発表で、日本の「反撃能力の効果的な運用」のため、日米間の協力を深化・強化することを明記していると指摘。さらに、2プラス2共同発表は「日米同盟の抑止力・対処力」の強化の冒頭に、「統合防空ミサイル防衛」(IAMD)をあげているとして、その危険性を告発しました。

インフラまで攻撃対象広く
 IAMDは米軍が地球規模で空域を支配するため、「ミサイル防衛」などの防御と、相手国のミサイル基地攻撃などを一体的に駆使する「攻守一体」のシステムです。米インド太平洋軍は2014年、ハワイの司令部に「太平洋IAMDセンター」を設置するなど具体化を加速。念頭にあるのは中国との覇権争いです。
 政府は今回の安保3文書で、IAMD導入を初めて表明しました。日本のIAMDも「防空」「ミサイル防衛」と一体で、敵基地攻撃能力の保有・行使を明記しており、米軍と同じ構造です。
 米軍のIAMDの最大の問題は、国際法違反の先制攻撃が前提になっていることです。志位氏は、IAMDの基本原則を示した米統合参謀本部のドクトリン(教義)「対航空・ミサイル脅威」(17年4月)を明らかにしました。この文書には「攻撃」部分(攻勢対航空)に関して二つの原則が示されています。
 第一は、「ミサイルサイト、飛行場、指揮統制機能、インフラストラクチャー」を攻撃対象としていることです。軍事拠点にとどまらず、「指揮統制機能」=政府機関や省庁、「インフラ」=鉄道や道路、港湾、空港などをあげています。
 第二は、「敵の飛行機やミサイルを離陸・発射の前と後の双方において破壊、または無力化する」「先制的にも対処的にもなる」などとし、先制攻撃を明示していることです。これが米軍の基本原則なのです。

米軍の原則を首相も「承知」
 「米軍がこうした原則を持っていることをご存じか」。志位氏の追及に岸田文雄首相は「承知している」と述べ、先制攻撃を含んでいることを認めました。
 重大なのは、米軍は先制攻撃を前提としたIAMDを強化するために、同盟国の参加を求めていることです。

統合防空ミサイル防衛(IAMD)切れ目なく
 「統合防空ミサイル防衛」(IAMD)への同盟国の参加について、米統合参謀本部ドクトリン(教義)は「最大限の戦闘能力を発揮するため、米軍と同盟国の能力を統合」する方針を明記。北大西洋条約機構(NATO)軍では、既に統合司令部の下でIAMDを運用する態勢が確立しています。
 岸田文雄首相は「米国のIAMDに統合される、参加することはない。日本は独自に行う」と明確に否定しました。しかし、首相自身が、1月13日のバイデン米大統領との会談で、日本の敵基地攻撃能力(反撃能力)に関して米国との協力の強化を明記している以上、「独自に行う」ことはありえません。

一緒に訓練し一緒に作戦へ
 首相の答弁に対して、日本共産党の志位和夫委員長は、米空軍が発行している機関誌『航空宇宙作戦レビュー』の2022年夏号に掲載された、米インド太平洋軍の「IAMD構想2028」を明らかにして反論。そこでは、こう述べられています。
 ▽インド太平洋軍の広大な管轄で「統合防空ミサイル防衛能力」を高めることは、米国単独では不可能であり、同盟国や友好国が絶対に重要である。
 ▽同盟国との協力のあり方は「サイド・バイ・サイド―隣に並んでの統合」でなく、「シームレス―切れ目のない融合」が必要だ。
 志位氏は、その意味を、次のように解明しました。
 ▽従来の米国と同盟国との協力は「サイド・バイ・サイドの統合」だった。第2次世界大戦のノルマンディー上陸作戦では、それぞれの同盟国が、それぞれに上陸する海岸を担当した。イラク戦争、アフガニスタン戦争の際にも、多国籍軍は各国の責任地域に分かれてたたかった。
 ▽しかし、IAMDでは、すべてのプレーヤー・コーチが、同じプレーブックを持ち、一緒に訓練し、一緒に作戦を実行し、敵からは米軍と同盟国が一つのチームとして見られる。
 志位氏は「これが米軍の方針だ。自衛隊だけ、独立した指揮系統に従って行動することはあり得ない」と述べ、こう迫りました。
 「アメリカが、この方針に基づいて先制攻撃の戦争に乗り出した時に、自衛隊も一緒に戦争することになる。つまり、憲法違反であるだけでなく、国連憲章と国際法に違反する無法な戦争に乗り出すことになる」

能力の保有が参加する資格
 首相はそれでも、参加を否定し続けます。志位氏は質疑終了後の記者会見で重ねて指摘しました。
 「米軍は『シームレスな融合』が必要だと言っている。『ミサイル防衛』と敵基地攻撃を一体にやるのだから、瞬時の軍事的な対応が必要だ。おのおのバラバラにやっていたら、軍事作戦として成り立たない」
 実は、政府は18年の「防衛計画の大綱」改定時、既にIAMD導入を検討していました。しかし、当時は敵基地攻撃能力の保有まで踏み込めなかったため、断念しています。今回、岸田政権が安保3文書を強行したことで、“晴れて”導入を表明したのです。
 志位氏は記者会見で、こう述べました。
 「米軍のIAMDに参加しようと思うと、これまでの自衛隊では参加できない。敵基地攻撃能力を持つことが『エントリー=参加資格』となっている。敵基地攻撃能力を持って参加し、『融合』する形で軍事活動をやっていく。ここに核心がある」 (つづく)



















敵基地攻撃能力の危険 志位委員長質問が明らかにしたもの(中)
「脅威でない」首相説明不能
                        しんぶん赤旗 202327
 「平和国家として、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を堅持するとの基本方針は今後も変わらない」。安保3文書の最上位文書である「国家安全保障戦略」はこう述べ、敵基地攻撃能力(反撃能力)についても「専守防衛の考え方を変更するものではない」としています。本当にそうなのでしょうか。

3000キロ射程や極超音速兵器
 日本共産党の志位和夫委員長は1月31日の衆院予算委員会で、政府が狙う軍事費の2倍化=「国内総生産(GDP)比2%」を達成すれば、世界第3位の軍事大国になると指摘しました。
 さらに、政府が米国製の長距離巡航ミサイル・トマホークや12式地対艦誘導弾の長射程化などといった大量の長射程ミサイルと、それらを発射する戦闘機、イージス艦、潜水艦の大増強を狙っていることをあげ、射程は最大で3000キロにまで達すると指摘。「『他国に脅威を与える』ことはないと、どうして言えるのか」と追及したのに対し、岸田文雄首相はまともに答弁できませんでした。
 志位氏は、敵基地攻撃兵器のなかでも重要な位置づけを与えられている「極超音速兵器」を取り上げました。同兵器は (1)低高度をスクラムジェットエンジンで飛行する「極超音速誘導弾」 (2)高高度を上下動しながら滑空する「極超音速滑空弾」―の2種類あり、日本では防衛装備庁が開発を進めています。
 極超音速兵器は音速の5~20倍で飛行し、軌道も自在に変えられます。現在のミサイル防衛網では迎撃不可能とされ、まさに「脅威」そのものです。
 志位氏は、海上自衛隊幹部学校がホームページに掲載したコラムで、中国やロシアによる極超音速兵器の開発は、日本にとって「脅威」だと述べていることを紹介。さらに、国家安保戦略も、日本の周辺国が極超音速兵器を保有していることに言及し、「質量ともに(周辺国の)ミサイル戦力が著しく増強」「わが国へのミサイル攻撃が現実の脅威に」なっているとして、極超音速兵器を含む「反撃能力」保有を正当化しています。

歓迎するのは同盟国ばかり
 中ロが持つことが『脅威』で、日本が保有することが『脅威』にならないとどうしていえるのか」。志位氏の追及は、まさに急所を突いたものでした。これに対する首相の答弁は、驚くべきものでした。
 「わが国の防衛力強化について、いくつかの国は否定的コメントを発表しているが、私が訪問した欧州、北米やG7(主要7カ国)各国は歓迎している」
 首相がここであげたのは米国を中心とした軍事ブロックです。その中で「歓迎」されれば、中国や北朝鮮が反発して緊張が高まろうとかまわないという、驚くべき論理です。
 結局、首相は敵基地攻撃能力の保有が他国への「脅威」にならないという理由をまともに説明できなかったといえます。

抑止の本質 昔も今も恐怖
 一方、首相は「抑止力・対処力を強化することは、わが国に対して不当な武力攻撃をする国々の行動を抑止・対処する上で重要だ」と述べ、敵基地攻撃能力の保有を「抑止力・対処力」であるとして正当化しました。
 抑止力とは何か。志位氏は、防衛大学校が公開している論文『日本の防衛政策と抑止』を紹介し、「抑止の要件の一つは敵対国に対する威嚇」「抑止の本質は、昔も今も恐怖である」としていることを引用。この論文はさらに、「抑止」は「日本の専守防衛の考え方と相容(い)れない面がある」と述べています。
 この考えに沿えば、首相が敵基地攻撃能力の保有で「抑止力・対処力」を強めると言いながら、「専守防衛に徹する」と述べることは、成り立たないことになります。
 志位氏は「相手国に脅威を与える敵基地攻撃能力保有で『抑止力』を強めながら、『他国に脅威を与えるような軍事大国にならない』というのは、根本的に矛盾している」「専守防衛に徹し」とうたっている安保3文書の実態は「『専守防衛』を完全に投げ捨てるものであることは明らかだ」と迫りました。  (つづく)