コロナ第8波は、政府は何の対応策も採りませんでしたが、医療機関の必死の努力で沈静に向かいつつあります。現時点の第8波の死者数は23,914人(22/11/1~23/2/11)に達しました。因みに過去最高だった第7波の死者は15,054人(22/7/21~22/10/31)なので既にそれを大幅に上回っていて、この先どこまで増えるのか分かりません。
岸田政権は、専門家から「必要な対応策を固めてからでないと…」という意見が出ていたのに、いち早く5月8日からコロナを「2類から5類に下げる」ことを決めました。
分類を5類に下げても感染力が落ちるわけでもなく致死率が下がるわけでもありません。医療機関は患者の治療に忙殺されているので、5類移行に伴う医療機関の新体制は政府が行うしかないのですが、それを分かり何かを進めているとは思えません。
介護老人保健施設に入所していた武藤きよ子さんの夫(85歳)は去年12月、同室のコロナ患者から感染して死亡しました。
同室者4人の内の1人がコロナに感染したと分かったのが11月25日でしたが、カーテンで仕切っただけの処置だったので夫も27日には感染し、28日には重症(肺が真っ白)と確認され29日夜に近隣の病院に移されましたが12月3日に死亡しました。感染は同室者全員に広がっていました。
施設は満室で隔離する居室がないなか、感染対策を指導・助言する保健所から、マスクを着用しベッドの間のカーテンを閉める「カーテン隔離」でも良いと指示されたと釈明しました。また県の長寿福祉課は、「オミクロン株は感染しやすく、多床室で発症した場合、周りを調べると症状があるなしにかかわらずほぽ感染しているのが実態」などと述べ、仕方がないという態度でした。
武藤さんは「高齢者を施設に閉じ込め亡くなっても仕方ないという『確信犯』にすら思えてきます」と怒ります。
いまのままでコロナが5類になればこうした悲劇はさらに広がります。
しんぶん赤旗が取り上げました。
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「力-テン隔離」夫は死んだ コロナ患者 施設への留め置き深刻
国も県も高齢者軽視 遺族が人権侵害を告発
しんぶん赤旗 2023年2月12日
政府・厚生労働省は2021年1月、自治体に「事務連絡」を出し、高齢者施設で新型コロナ感染症にり患した入所者の〝施設内療養″を認め、支援策を示して推進をはかりました。「原則入院」で、〝施設内療養″は「病床ひっ迫」時、「医師が入院の必要がないと判断した場合」としました。しかし政府がコロナ病床確保を怠るなか、複数の県が「原則、施設内療養」を掲げ施設への留め置きが広がりました。施設で適切な「隔離」や治療がされず、命を落とした入所者の遺族が「人権侵害」を告発しています。 (内藤真己子)
「夫は偶然コロナで亡くなったのではなく、政府や行政に見殺しにされたようなものです」。茨城県ひたちなか市の武藤きよ子さん(79)は訴えます。冷静な語り□に深い悲しみがにじみます。近隣の介護老人保健施設に入所していた夫(享年85)が昨年12月、コロナ肺炎で亡くなりました。
武藤さんによるとー。11月25日、夫のいる4人部屋のうち1人が発熱しコロナ陽性だと知らされました。濃厚接触者とされた夫は2日後の27日に発熱。翌28日には熱が39度近くに上がりました。
29日に家族が呼ぱれ医師からレントゲン写真を見せられて「肺が真っ白。肺炎を起こしている」と告げられました。PCR検査で陽性と分かり同日夜、隣接する水戸市内の病院に搬送されました。
すでに手遅れでした。翌30日には同病院医師に「血圧が上がらず血中酸素飽和度も芳しくない。数日がヤマ場」と宣告されます。12月2日には子や孫が集まり、リモートで「じいちゃん頑張って」と激励しました。夫は酸素マスクの下で口を開け、舌を動かし答えようとしていましたが3日、死亡しました。
有症状者と同室
あまりに突然であっけない夫の死。納得できない武藤さんは施設に経過説明を求め、驚くべき事実を知ります。4人部屋のうち1人が陽性と分かったあとも隔離せず、同じ部屋で過ごさせたというのです。
隔離は感染対策の基本です。施設内療養を認めた厚労省「事務連絡」(21年1月14日)も、感染者と濃厚接触者は「生活空間」を「分けること」と明記。同県が施設に通知した「療養の手引き」も同様です。
施設は武藤さんに満室で隔離する居室がないなか、感染対策を指導・助言する保健所から、マスクを着用しベッドの間のカーテンを閉める「カーテン隔離」でも良いと指示されたと釈明しました。感染は同室者全員に広がっていました。
検査の遅れもありました。施設が夫に抗原検査したのは同室者の感染判明から2日後で発熱していました。陰性。PCR検査は3日後で高熱を出していました。「PCR検査が遅れ、抗ウイルス薬の投与もされませんでした。あまりにずさんです」と武藤さん。同施設は本紙の取材に「個人情報で答えられない」と回答しました。ホームページによるとクラスター収束は1カ月後の12月末でした。
武藤さんは管轄の県の保健所に赴き訴えました。「陽性者を大部屋に置き続けるなど信じられない」
応対した保健所は、施設から満床の報告を受け「カーテン隔離」を指示したと認めました。最初の患者を入院させ隔離する方策もありましたが、入院調整した形跡はありません。前出の厚労省「事務連絡」は、施設で「適切なゾーニングが困難な場合」などを勘案した「入院措置」を都道府県に求めており、県・保健所の対応が問われます。
対応の後退続く
1月末、武藤さんの姿は日本共産党茨城県委員会による同県への第17次コロナ対策申し入れの場にありました。亡くなった夫の経過を示し「高齢者施設の感染者や濃厚接触者は、命の問題として必ず個室や別室に隔離・管理してほしい」。切々と訴えました。
ところが県長寿福祉課は「オミクロン株は感染しやすく、多床室で発症した場合、周りを調べると症状があるなしにかかわらずほぽ感染しているのが実態」などと述べ、無反省な態度を示しました。
江尻かな党県議は、「『高齢者は亡くなっても仕方ない』とのメッセージに受け止められかねない}と県の対応に抗議。「高齢者は原則入院だったはずが、『施設内療養』となり、さらに『カーテン隔離』で良いなど対応がどんどん後退している」とし、有症状患者の入院と隔離の徹底を求めました。
県は施設にコロナ患者は「原則として福祉施設内で療養」するよう通知していました。江尻県議は指摘します。
「感染予防では、高齢者施設の職員に週2回分の抗原検査キットが配られていますが不十分です。精度の高いPCR検査を頻回にやらないと入所者への感染は止められません。県は介護付き医療施設もつくらないまま、施設に『原則施設内療養』を押しつけてきました。隔離ができないのに施設内療養させた責任は重大です」
こうした事態を厚労省はどうとらえているのか。カーテンで仕切り陽性者と濃厚接触者を同室に置く対応への見解を尋ねました。また驚くべき回答が返ってきました。
老健局老人保健課は「感染対策をきっちりして、ほかにどうしてもスペースがない状況なら、やむを得ずそういうことをするのは当然現場の判断としてあり得る」などと言明したのです。「事務連絡」の内容と異なります。「施設内療養先にありき」の姿勢が如実です。
底が抜けている
これを聞いた武藤さん。「底が抜けている。高齢者を施設に閉じ込め亡くなっても仕方ないという『確信犯』にすら思えてきます」と怒り心頭です。コロナ8波では週当たりの高齢者施設クラスター数や、1日の死者数が過去最多を更新しました。死者の9割は高齢者です。
老健施設の元相談員で全日本民医連事務局次長の加藤久美さんも、先月末、共産党の宮本徹衆院議員事務所が行った厚労省レクチャーに参加したときのことを振り返ります。
「私が『7、8波で施設の留め置きが大変な状況。施設で亡くなっている』と訴えたのに、厚労省医政局は『施設で頑張ってみてくれたので医療崩壊が防げた』と述べ驚きました。留め置きは医療崩壊です」
本紙が確認すると担当官は「言葉足らずだった」「病床ひっ迫状況で頑張ってもらい医療の負荷が一定数軽減された」と釈明しました。
自公政権が20年にわたって社会保障予算の「自然増」を毎年削減し、病床を減らし続けた結果コロナ禍で医療崩壊が起き、高齢者が犠牲になっています。
加藤さんは「岸田文雄政権はコロナの感染症法上の位置づけを5類にすると決め、行政による入院調整も段階的になくす方向です。これではコロナ病床が減り、高齢者施設の留め置きがますますひどくなります。人権と国民の命を守る政治への転換が必要です」と訴えます。