2023年2月25日土曜日

25- ロシアのウクライナ侵略 大軍拡推進に悪用の愚(しんぶん赤旗)

 ロシアのウクライナ侵攻から1年が経ちましたが、戦争終結に向かわせる勢力がないためいつまで続くのか、その見通しさえもありません。極めて不幸なことです。
 しんぶん赤旗に「ロシアのウクライナ侵略1年」を冠した2つの記事が載りました。
 ひとつは「大軍拡推進に悪用の愚 岸田政権『明日の東アジア』」で、
 もうひとつは綴織厚・山口大学名誉教授の寄稿文「平和構築を外交の基本に」です。
 岸田首相はこの1年、「ロシアのウクライナ侵略」を奇貨として、「ウクライナは明日の東アジアだ」大軍拡推進の絶好の口実としてウクライナ侵略を悪用してきました。

 昨年6月、日本の首相として初めて対露軍事同盟・NATO首脳会議に出席し、「国家安全保障戦略」など安保3文書の改定や、軍事費の大幅な増額を公約し12には国会や国民への説明もないまま閣議決定で3文書の改定を強行し、違憲である敵基地攻撃能力の保有や、5年以内の軍事費の2倍化=GDP比2%への引き上げを決定しまし
 しかしそもそも「ウクライナは明日の東アジアだ」という主張は、(1)ウクライナをめぐる複雑な歴史と地政学的な背景(2)アジアには、東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心とした平和の枠組みが存在している(3)日米中の貿易総額が過去最高水準で推移するなど、相互依存関係が年々深化している  などの諸条件を無視した暴論で、一国のトップが口にできるようなものではありません。
 日本がウクライナ情勢から学ぶべき教訓は、いったん戦端が開かれれば、国土が戦場となり、大量の犠牲者が避けられないということで絶対に戦争を起こさせないための外交努力を強めることである筈です。
 それが何よりも憲法9条を掲げる国のトップの在り方ですが、隣国である中国やロシアを悪しざまに言って憚らないというのが岸田首相です。本人の視線が米国にのみ向いていて、バイデンの好感が得られればわが身は安泰と考えているのであれば、それは売国の所業というべきです。

 綴織厚・名誉教授はそれに対してウクライナ情勢と東アジア情勢は全く異なるとして、ウクライナには東部ドンバス地方を中心にシア関係を重視する人が多い一方、西部は親欧米的で、ゼレンスキー政権がこうした複雑な関係を武力で清算しようとしたことに、ロシアは反発したもので、こうした両国関係の背景は、日中、東アジア諸国との関係には当てはまらないとして、それを「安全保障環境は変わった」と緊張をあおるのは「扇動政治」であると述べています。
 そして政府が軍拡の口実とする[抑止力」は幻想で、必要なのは軍事力ではなく平和力の構築であると述べます、
 台湾問題も、中国に武力侵攻は絶対に許されないと正面から主張し、戦争を起こさせないのが本筋でASEANを基軸にした平和ブロックの構築を外交の基本に据えるべきあると明快に述べています
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ロシアのウクライナ侵略1年
大軍拡推進に悪用の愚 岸田政権「明日の東アジア」
                        しんぶん赤旗 2023年2月24日
 「ウクライナは明日の東アジアだ」―。岸田政権はこう繰り返し、大軍拡推進の絶好の口実として、ロシアのウクライナ侵略を悪用してきました。
 岸田文雄首相は昨年6月29日、日本の首相として初めて、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席。中国を念頭に、「東シナ海・南シナ海で力を背景とした一方的な現状変更の試みが継続されている。ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と演説し、「国家安全保障戦略」など安保3文書の改定や、軍事費の大幅な増額を公約しました
 そして昨年12月、国会や国民への説明もないまま、3文書の改定を強行。歴代政権が違憲としてきた敵基地攻撃能力の保有や、5年以内の軍事費の2倍化=国内総生産(GDP)比2%への引き上げを決定したのです。
 新たな国家安保戦略も、「(ウクライナ侵略と)同様の深刻な事態が、将来、アジアにおいて発生する可能性は排除されない」と明記し、首相演説を追認しています。この理屈は、(1)ウクライナをめぐる複雑な歴史と地政学的な背景 (2)アジアには、東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心とした平和の枠組みが存在している (3)日米中の貿易総額が過去最高水準で推移するなど、相互依存関係の深化―といった諸条件を無視した暴論です。

大軍拡を正当化
 さらに、3文書の一つである「国家防衛戦略」は、ロシアが侵略に踏み切ったのは「ウクライナの防衛力が十分ではなく、ロシアによる侵略を思いとどまらせ、抑止できなかった、十分な能力を保有していなかった」「どの国も一国では自国の安全を守ることはできない」などとして、大軍拡・軍事同盟強化を正当化しています。
 これは、NATOが東方拡大を繰り返し、ロシアも核軍拡で「抑止」を強めるという悪循環に陥り、決定的な対立にいたった欧州と同じ道です。
 加えて、「ウクライナの能力不足」という認識を公然と示すことは、ロシアの侵略と命がけでたたかっているウクライナへの侮辱であり、許されません。
 一方、軍事費の2倍化をめぐっては、米国の要求に応じて「国防費のGDP比2%」への引き上げを決めたNATO諸国に足並みをそろえたにすぎず、「額ありき」であることは、多くの国民が見抜いています
 実際、各種世論調査では「防衛増税」反対が圧倒的多数を占めており、自衛隊幹部・元幹部からも「身の丈を超えている」(香田洋二・元自衛艦隊司令官)「無条件で喜ぶ気にはならない」(伊藤弘・海自呉地方総監)といった声が出ています。
 NATOは既に、来年の総会で国防費のさらなる引き上げを検討しています。このまま「右へならえ」路線を続けていれば、軍事費は際限なく膨らみ、くらしをむしばむことは目に見えています。

外交の努力こそ
 日本がウクライナ情勢から学ぶ教訓は、いったん戦火が開かれれば、国土が戦場となり、大量の犠牲者が避けられないということです。絶対に戦争を起こさせないための外交努力を強めることこそ、最大の教訓です。
 第1は、ロシアの侵略を許さない国際的な連帯を強めるとともに、米中双方に緊張緩和を求めることです。
 第2は、軍事同盟強化、中国包囲網の形成ではなく、あらゆる国が参加する平和の共同体を形成することです。東アジアでは、ASEANを中心とした多層的な平和の枠組みが発展しており(図)、紛争の平和的解決、武力による威嚇や武力行使の放棄、さらに特定の国を排除しない「包摂的」であることを原則にしています。





殺傷兵器の輸出に道
 岸田政権によるウクライナ情勢のもう一つの悪用は、武器輸出の拡大、とりわけ殺傷兵器の輸出に道を開こうとしていることです。戦後日本の平和主義を死に至らしめかねない重大な動きです。
 欧米各国はウクライナを支援するため、大量の武器・弾薬を提供しています。こうした動きを受け、政府は昨年3月8日、武器輸出の根拠となる「防衛装備移転三原則」の運用指針を改定し、防弾チョッキなどの提供に踏み切りました。

 政府は従来、「武器輸出三原則」を定め、「憲法の精神にのっとり」(1976年の統一見解)武器輸出を全面的に禁止してきました。「平和国家」として「国際紛争等を助長することを回避するため」です。こうした立場からすれば、紛争当事国であるウクライナへの装備品提供はできません
 ところが2014年4月、第2次安倍政権が新たに決定した「防衛装備移転三原則」は「憲法の精神にのっとり武器輸出を慎む」とした原則を排除。紛争当事国への武器輸出に道を開きました。
 ただ、装備移転の法的根拠となっている自衛隊法116条の3では、銃や弾薬など「殺傷兵器」の提供はできません。これに関して浜田靖一防衛相は今年2月2日の衆院予算委員会で、殺傷兵器の輸出を可能にするため、防衛装備移転三原則の見直しを、「政府主導で官民一層の連携のもとに推進していく」と答弁しました。ウクライナへの防弾チョッキ提供は、殺傷兵器移転に道を開く突破口だったことは明らかです。
 殺傷兵器移転の真の狙いはウクライナ支援ではなく、中国包囲網を形成するため、アジア地域の「同志国」の能力強化にあります。さらに、住民弾圧を繰り返しているミャンマー国軍への移転も排除はされません。まさに“死の商人”国家に道を開くものです。


構築を外交の基本に 山口大学名誉教授 綴織厚さん
                       しんぶん赤旗 2023年2月24日
 ウクライナ情勢と東アジア情勢は全く異なります。ウクライナには東部ドンバス地方を中心にシア関係を重視する人が多い一方、西武は親欧米的です。ゼレンスキー政権は、こうした複雑な関係を清算しようとします。しかし、ロシアは反発し、国際法に背く侵略を行いました。
 そうした両国関係の背景は、日中、東アジア諸国との関係には当てはまりません。日本国内に中国領土だった地域や、親中国の姿勢を表明する地域が存在しません。なのに「安全保障環境は変わった」と緊張をあおる、私はこれを「扇動政治」と呼んでいます
 政府が軍拡の口実とする[抑止力」は幻想です。軍拡が抑止力にならず、むしろ戦争や軍拡競争を招くのは歴史が教えている通りです。貧困や差別など戦争の原因を、時間をかけて減らす努力が求めれています。
 要なのは軍事力ではなく平和力の構築です。台湾問題も、中国に武力侵攻は絶対に許されないと正面から主張し、戦争を起こさせないのが本筋です。日本が軍拡すれば、かえって中国の軍拡の呼び水となります。ASEAN(東南アジア諸国連合)を基軸にした平和ブロックの構築を外交の基本に据えるべきです。