2023年2月13日月曜日

「建国記念の日」戦争あおった歴史繰り返さず/「建国記念の日」反対 研究者ら集会

 紀元前660年(縄文時代晩期)の元日に初代の神武天皇が橿原の宮で即位したという明治政府の説話は今では小学生も信じません。縄文式土器の時代に鏡や剣が存在したということについても同じです。
 思想・信条の自由はあるにしても、いまなおそれを重要な史実として後生大事にしないと主張が成り立たないというのであれば、思いを致すべきはその非科学性です。
 しんぶん赤旗は11日の主張で、明治時代から昭和の時代に至るまで、開戦などの日本の重大事を紀元節に絡めて行ってきたことを明らかにしました。それは当時如何に紀元節の重みが国民に浸透していたかを示すものです。
 同紙は過去の侵略戦争が日本国民とアジア諸国に与えた惨禍を直視し、岸田政権の「戦争国家づくり」を阻む世論と運動を広げることを呼びかけました。

 東京では11日、歴史に学び軍拡・改憲を許さず平和な世界と日本をめざそうと、「建国記念の日に反対する集会開かれ、オンラインも含め約120人が参加しました。

 ブログ「憲法日記」を1日も欠かさずに出し続けている澤藤統一郎弁護士は12日、「愛国心は危険だ。触ると火傷する。暴発して身を滅ぼすことにもなりかねない」とする記事を出しました。
 そのなかで右派の論調のトレンドを見るには産経新聞」が最適であるとして、11日付の社説を取り上げて手厳しく批判しました。文中の着色・太字強調部は原文に拠っています。
 3つの記事を紹介します。
    お知らせ
   都合により14日は記事の更新が出来ません。ご了承ください。
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主張「建国記念の日」 戦争あおった歴史繰り返さず
                       しんぶん赤旗 2023年2月11日
 きょうは「建国記念の日」です。この日は、戦前に「紀元節」として制定されました。明治政府が1873年、天皇の支配を権威づけるため、「日本書紀」に書かれた建国神話をもとに、架空の人物「神武天皇」が橿原宮で即位した日としてつくりあげたものです。科学的・歴史的根拠はありません

ドイツ人医師の日記に
 戦前の天皇制政府は、ことあるごとに「紀元節」を国家主義と軍国主義を国民に浸透させるために利用してきました。国を統治する全権限を天皇が握る専制政治の仕組みを法制的に確立した大日本帝国憲法(明治憲法)の公布も、1889年のこの日でした。
 当時、東京帝国大学の教授として着任していたドイツ人医師エルウィン・ベルツは、同年2月9日の日記に、こう書きました。「東京全市は、十一日の憲法発布をひかえてその準備のため、言語に絶した騒ぎを演じている。到(いた)るところ、奉祝門、照明、行列の計画。だが、こっけいなことには、誰も憲法の内容をご存じないのだ」(菅沼竜太郎訳『ベルツの日記』)
 1週間後の2月16日には、こうも記しています。「日本憲法が発表された。もともと、国民に委ねられた自由なるものは、ほんのわずかである。しかしながら、不思議なことにも、以前は『奴隷化された』ドイツの国民以上の自由を与えようとはしないといって憤慨したあの新聞が、すべて満足の意を表しているのだ」
 国民の権利と自由を奪った明治憲法体制は、こうして「紀元節」を節目に確立したのです。
 その後、朝鮮半島の支配をめぐり清国と対立が激化し、日本の軍事費は増大します。93年、帝国議会の衆議院が政府を追及し、予算案から軍艦建造費を削除しました。これに対して明治天皇は、2月10日に「和協の詔勅」を出して政府への協力を求めました
 「詔勅」は「紀元節」の日の新聞に掲載され、議会は政府と妥協し、軍拡予算を承認します。94年に始まった日清戦争では、95年2月11日に清国艦隊の拠点・威海衛の陥落が公表され、新聞は日本軍の勝利を書きたてました。
 1904年の日露戦争開戦にあたっても「紀元節」が利用されました。日本海軍が仁川と旅順にいたロシアの軍艦を奇襲攻撃して戦闘が始まりましたが、宣戦布告は2月10日でした。翌11日の新聞は、日露開戦と仁川・旅順の勝利を大々的に報道しました。
 41年に始まったアジア・太平洋戦争でも、英国海軍の根拠地であるシンガポール攻略作戦を42年の「紀元節」にあわせて実施し、戦意高揚をはかりました。

岸田政権の大軍拡阻もう
 戦争推進と深く結びついた「紀元節」は戦後、国民主権と思想・学問・信教の自由、恒久平和を掲げた日本国憲法の制定に伴い、48年に廃止されました。しかし佐藤栄作政権は66年、祝日法を改悪して「建国記念の日」を制定し、「紀元節」を事実上復活させました。
 岸田文雄政権は、憲法の平和主義を投げすて、敵基地攻撃能力保有と大軍拡にひた走っています。歴史の教訓を忘れた暴走です。
 2月11日にあたり、過去の侵略戦争が日本国民とアジア諸国に与えた惨禍を直視し、岸田政権の「戦争国家づくり」を阻む世論と運動を広げることを呼びかけます


今こそ歴史に学ぼう 「建国記念の日」反対 研究者ら集会
                       しんぶん赤旗 2023年2月12日
 歴史に学び軍拡・改憲を許さず平和な世界と日本をめざそうと、「建国記念の日」に反対する集会が11日、東京都内で開かれました。主催は歴史研究団体でつくる「2・11連絡会」。オンラインも含め約120人が参加しました。
 新井勝紘・元専修大学教授は、関東大震災直後の朝鮮人虐殺を描いた絵を示して解説しました。虐殺を目撃した当時の子どもや画家による絵は、新井氏が1990年代以降に発掘してきたものです。新井氏は、日本がこの虐殺事件に向き合わず絵が長らく埋もれていたと指摘。事件から100年にあたる今年、虐殺絵を深く読み解き、次世代に伝えていかなければならないと訴えました。
 「沖縄の風」の伊波洋一参院議員は、米国の対中戦略のもと日本の国土が軍事要塞(ようさい)化されている状況を詳述。日中の経済的な関係を壊し、日本を戦場化する流れを「どうしても止めなければならない」と強調。日本の国益を無視して米国につき従い、大軍拡を進める岸田政権を批判し、今国会での奮闘を誓いました。
 リレートークでは、米田俊彦・お茶の水女子大学教員が、政府が10兆円の「大学ファンド」で数校の「国際卓越研究大学」を支援し、大学に事業成長を求める制度の問題を解説。核兵器と戦争のない世界をめざす高校生平和ゼミナールと、アルバイト先の企業と団体交渉を進める学生ユニオンが活動の成果を報告しました。
 集会は、誠実な歴史認識でアジアと世界の平和を見据えようと呼びかけるアピールを採択しました。


愛国心は危険だ。触ると火傷する。暴発して身を滅ぼすことにもなりかねない。
                    澤藤統一郎の憲法日記 2023年2月12日
 「建国奉祝派」というものがある。日本会議だの、神社本庁だの、自民党安倍派だの…。今年も各地で奉祝行事が報告されているが、盛り上がりには欠けるようだ。盛り上がりには欠けるものの、それなりに行事は続いているというべきか。伝統右翼のイデオロギーは、統一教会とともに健在なのだろうか。これを支える民衆の意識はどうなっているのだろうか。実はよく分からない。
 右派の論調のトレンドを見るには、まず産経新聞である。分かり易い。昨日の「主張」(社説)が、「建国記念の日 美しい日本を語り継ごう」というもの。何とも、色褪せた「美しい日本」。要するに、愛国心の押し売り、押し付けであるが、愛国心の鼓吹が国防や軍拡に直結していることに、今さらながらギョッとさせられる。
 「美しい日本」という言葉は、社説の最後の結びとして出て来る。「いまこそ、日本を美しいと思い、守ろうとする心を語り継ぐ意義は大きい」と言うのだ。自ずから湧き起こる『日本を美しいと思う心』ではなく、『無理にでも、日本を美しいと思い、守ろうとする心』である。愛国心の強制が語られている。
 建国記念の日に関してはこういう
 「国を愛するには、建国の物語を知らねばなるまい。日本書紀によれば辛(かのと)酉(とり)の年(紀元前660年)の正月、初代天皇である神武天皇が大和の橿原宮で即位し、日本の国造りが始まった。現行暦の2月11日である」
 「国を愛する」ことが当然の善だという大前提。そして、「建国の物語を知れば、国を愛するようになれる」と言わんばかりの非論理。と言うよりは、信仰と言ってよい。
 「以来日本は、貴族の世となり武士の世となっても、ただ一系の天皇をいただく国柄を守り続けてきた。19世紀に西洋列強がアジア諸地域を次々に植民地化するようになると、明治維新により天皇を中心に国民が結束する国家体制を築き、近代化を成し遂げた。時の政府が2月11日を紀元節の祝日と定めたのは明治6年で、そこには、悠久の歴史をもつ国家の素晴らしさを再認識し、国民一丸となって危機を乗り切ろうとする意味があった。」
 恐るべし産経。いやはや、目の眩むような、恥ずかしげもない皇国史観。「素晴らしい天皇」教であり、「美しい日本」教の信仰でもある。いまごろ、こんなアナクロのマインドコントロールに引っかかる、産経読者もいるのだろうか。
 美しい日本も、愛国心の押し付けも、これまで言い古されてきた。この産経主張のトレンドは、愛国心の涵養が国防や軍拡と直接に結びついていることなのだ。
 「ウクライナの戦闘は、国を愛し守ろうとする意志がいかに大切であるかを教えてくれた。寡兵のウクライナ軍と市民の懸命な戦いに世界は瞠目し、当初は及び腰だった支援が次々に寄せられた。もしも将来、日本が同じ惨禍に見舞われたとき、同じような意志を示しうるだろうか」という書き出しは、いつもながらの、「侵略されたらどうする」論の繰り返しだが、これが愛国心と結びつけられる。
 「祝日法では『建国をしのび、国を愛する心を養う』日とされている。ウクライナ情勢だけでなく、台湾有事への懸念など東アジア情勢も厳しさを増す中、改めてその思いを深める必要があろう」
 「戦争を肯定するつもりは毛頭ない。むしろその逆だ。国を愛し守ろうとする意志を持つことが、他国に侵略の野望を抱かせない抑止力となる」という論法。日本は他国に侵略の野望を一切有せず、他国のみが日本に侵略の野望を抱いているという前提。
 日本の建国を祝う会」も、明治神宮会館(東京都渋谷区)で行われた奉祝中央式典で、大原康男会長は主催者代表あいさつで、「我が国では政府主催の式典は行われていない」。教育基本法上の教育の目標「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」という項目を挙げた上で、「政府主催の奉祝式典を開催すべきだ」と強く訴えたという。こちらも、愛国心の押し売りである。
 12月16日閣議決定の「国家安全保障戦略」の中に、次の一文がある。
 「2 社会的基盤の強化
 平素から…諸外国やその国民に対する敬意を表し、我が国と郷土を愛する心を養うそして、自衛官、海上保安官、警察官等我が国の平和と安全のために危険を顧みず職務に従事する者の活動が社会で適切に評価されるような取組を一層進める」
 今や、権力をもつ者は、愛国心と国防とを、不即不離・表裏一体と意識している。これまでにも増して、愛国心の鼓吹は危険なものとなった。愛国心は危ない。触ると火傷する。暴発して身を滅ぼすことにもなりかねない。