しんぶん赤旗が、敵基地攻撃の保有と大軍拡に反対する各界識者のインタビューシリーズを始めました。第1回目は憲法学の重鎮 長谷部恭男氏です。
長谷部氏は、論理的整合性がない理屈で集団的自衛権の行使を一部認めた、安倍内閣時代の14年の閣議決定に問題の根源があるとして、それによってどういう場合に武力が行使できて、どういう場合には行使できないのか、その限界がさっぱりわからなくなってしまったと指摘します。
そして政府は敵基地攻撃能力で反撃すると言うが、「敵国」として想定されている国々は、核兵器を持っているので、敵の攻撃能力を残らず破壊できなければ、核を含む猛反撃で日本は壊滅し自殺行為になると述べています。
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岸田大軍拡異議あり 日本壊滅の自殺行為
早稲田大学教授 長谷部恭男さん
しんぶん赤旗 2023年2月22日
岸田政権が狙う敵基地攻撃の保有と大軍拡に反対する各界識者のインタビューシリーズ「岸田大軍拡 異議あり」。第1回は、2015年の安保法制=戦争法に反対する運動が列島を揺るがす規模に広がる一つのきっかけとなった、衆院憲法審査会での〝戦争法は違憲″とする陳述を行った憲法学者3氏の一人、長谷部恭男・早大教授に聞きました。(若林明)
敵基地攻撃能力の保有や防衛予算の2倍化で抑止力を向上させるという議論の中で、政府から憲法との関係の議論がさっぱり聞こえてこない。それは〝タガ″が外れているからです。
論拠が不十分
私は、論拠が十分説明されているのであれば、武力行使は認められると考えています。しかし、その限度=〝タガ″を外したのが、論理的整合性がない理屈で集団的自衛権の行使を一部認めてしまった2014年の閣議決定です。それまで政府は、日本が直接武力攻撃を受けた場合は、国民の生命・自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるおそれがあるから武力行使が認められるとしてきました。14年の閣議決定は、同様のおそれがあるときは、集団的自衛権も行使できるとしましたが、集団的自衛権は、日本に対する武力攻撃がない場合の話ですから、そんなおそれが生ずるはずがない。そのため、どういう場合に集団的自衛権を行使できて、どういう場合にできないか。もう少し一般的に言うと、どういう場合に、武力が行使できて、どういう場合には行使できないのか。その限界が、さっぱりわからなくなってしまった。そういう意味で、武力行使に対する憲法上の〝タガ″が外れてしまいました。
軍事力の行使や防衛予算の問題について、憲法であらかじめ〝タガ″をはめておくのは「合理的自己拘束」という考えです。例えば、お酒を飲むときに、誰かに、友人に車のキーを預けておく。「返してくれと言っても、絶対返しては駄目だよ」と頼んでおく。あらかじめ自分の手を縛っておくことを「合理的自己拘束」と言います。これが憲法9条の役割です。自公政権は集団的自衛権の行使を容認したことで、自己拘束を外してしまった。
米国と一体化
タガが外れたことの一つの帰結として、米国とのー体化の問題があります。なぜ、今まで個別的自衛権しか行使できませんと言っていたかというと、いわゆる,ー体化論と関連していたのです。集団的自衛権といっても、念頭にあるのは、米国です。自衛隊が米国軍とー体化して、軍事行動をするということは自衛隊が米軍の指揮下に入ることです。それは危険ではないかということから、個別的自衛権しか行使できませんということだったのです。米国は、日本が集団的自衛権の行使を可能にしたことを「これ幸い」と思っていることは間違いありません。
今回の敵基地攻撃能力の保有と大軍拡で来国と完全に一体化して、米国の戦争に巻き込まれるリスクはより高くなっていきます。
政府は、敵基地攻撃能力で反撃すると言います。「敵国」として想定されているかに見える国々は、核兵器を持っています。その敵国を攻撃する場合、敵の攻撃能力を残らず破壊できなければ、自殺行為です。核を含む猛反撃で日本は壊滅です。敵国のあらゆる兵器を全て破壊できるような大量破壊兵器を備えるのか。そんなことは、防衛予算を2倍にしても無理です。軍事超大国になるということです。
止めるため野党結集を
政府は、なぜ防衛予算を2倍にしないといけないか、なぜ敵基地攻撃能力を備えて抑止力を高めなければならないのか、その説明をまったくしません。政府は、「外国に手の内を見せることになる」と言います。もちろん、安全保障に関する問題が、「保秘」を必要とする点は確かです。公開の場では議論ができないこともあるでしょう。だからこそ、合理的でない決定を政府が勝手にしてしまうというリスクが大きいので、〝タガ″を設けていたのです。いかなる場合に武力行使するかのタガを外した状態で、「説明しません」と言って、勝手なことをいろいろ決めはじめているのが今の状況です。現在の国会論議を見ていると、首相などの答弁で、危険性は明らかになっていると思います。
軍事力に対する憲法の〝タガ″が外れた危険な流れを止めるには、政治を変えざるを得ません。そのためには野党は結集するべきです。バラバラのままでたたかっては、選挙で自公に勝てません。結束できる範囲内で結束するということだと思います。