2023年2月24日金曜日

軍事力を強める日本に対し、中国が懸念を表明 (櫻井ジャーナル)

 中国の孫衛東外務次官らが来日し、22日に山田重夫外務審議官らと安全保障問題について話し合った中で、日本側は中国が日本の周辺で軍事活動を活発化させていると懸念を表明したのに対して、中国側は日本の軍事関連3文書を問題にし、日本が軍事的な状況を変えていると指摘したということです。櫻井ジャーナルが伝えました。

 先にも中国の汪文斌副報道局長が14日、「日本は客観的かつ公正な立場を維持し、米国の大げさな騒ぎに追随しないでほしい」と述べたばかりです。
「新安保」法制など、米軍の下で日本の軍備を拡大しようと画策したのは安倍元首相でしたが、「中国を敵国視している」ことは決して口にはしませんでした。彼のしたことは全てデタラメでしたが、そうした節度だけは持っていたようです。
 不思議なのは目下その構想を実行しようとしている岸田首相が、中国(やロシア)が日米安全保障の対象国(標的)であることを隠そうとしないことです。軍事同盟国家群であるNATOに評価されればそれで良いとでも思っているのでしょうか。それともレールを敷いたのは自分ではないからという気安さからなのでしょうか。
 いずれにしても外交上の基本を逸したものであって、本当に外相を長く経験した人間なのだろうかと思わせます。
 櫻井ジャーナルが、「米国の戦争マシーンとして軍事力を強めている日本に対し、中国が懸念を表明」とする記事を出しました。 
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米国の戦争マシーンとして軍事力を強めている日本に対し、中国が懸念を表明 
                          櫻井ジャーナル 2023.02.24
 中国の孫衛東外務次官らが来日、2月22日に東京で山田重夫外務審議官らと安全保障問題について話し合ったという。日本側は中国が日本の周辺で軍事活動を活発化させていると懸念を表明、中国側は日本の軍事関連3文書を問題にし、日本が軍事的な状況を変えていると指摘したようだ
 岸田文雄政権は昨年12月16日に「国家安全保障戦略(NSS)」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」の軍事関連3文書を閣議決定、2023年度から5年間の軍事費を現行計画の1.5倍以上にあたる43兆円に増額するだけでなく、「敵基地攻撃能力」を保有することを明らかにした。その決定を「手土産」にしてアメリカを訪問、ジョー・バイデン大統領と1月13日に会談した。
 アメリカの属国である日本はアメリカの命令に従って東アジアにおける軍事的な存在を高めてきた。アメリカは1991年12月にソ連が消滅した後、侵略戦争を活発化させる。ソ連というライバルが消え、アメリカが唯一の超大国になったと判断したネオコンが主導してのことだ。
 そのネオコンは1992年2月、DPG(国防計画指針)草案という形で世界制覇計画を作成した。その時の国防長官はディック・チェイニー、国防次官はポール・ウォルフォウィッツで、ふたりともネオコン。ウォルフォウィッツが中心になって作成されたことから、そのDPGは「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている

 ネオコンは国連中心主義を打ち出していた細川護煕内閣を1994年4月に倒す一方、国防次官補だったジョセイフ・ナイが1995年2月に「東アジア戦略報告(ナイ・レポート)」を発表、日本をアメリカの戦争マシーンへ引き込むための道を作ったが、日本にはその道を歩こうとしない政治家もいたようだ。
 そうした中、1994年6月に長野県松本市で神経ガスのサリンがまかれ(松本サリン事件)、95年3月には帝都高速度交通営団(後に東京メトロへ改名)の車両内でサリンが散布され(地下鉄サリン事件)た。その10日後には警察庁の國松孝次長官が狙撃されている。8月には日本航空123便の墜落に自衛隊が関与していることを示唆する大きな記事がアメリカ軍の準機関紙とみなされているスターズ・アンド・ストライプ紙に掲載された。

 その後、日本はアメリカの戦争マシーンへ組み込まれていく。つまり1997年には「日米防衛協力のための指針(新ガイドライン)」が作成され、「日本周辺地域における事態」で補給、輸送、警備、あるいは民間空港や港湾の米軍使用などを日本は担うことになる。1999年になると「周辺事態法」が成立、2000年にはナイとリチャード・アーミテージのグループによって「米国と日本-成熟したパートナーシップに向けて(通称、アーミテージ報告)」も作成された。
 2001年の「9/11」をはさみ、2002年に小泉純一郎政権は「武力攻撃事態法案」を国会に提出、03年にはイラク特別措置法案が国会に提出され、04年にアーミテージは自民党の中川秀直らに対して「憲法9条は日米同盟関係の妨げの一つになっている」と言明。2005年には「日米同盟:未来のための変革と再編」が署名されて対象は世界へ拡大、安保条約で言及されていた「国際連合憲章の目的及び原則に対する信念」は放棄された。そして2012年にアーミテージとナイが「日米同盟:アジア安定の定着」を発表している。
 安倍晋三は総理大臣時代の2015年6月、赤坂にある赤坂飯店で開かれた官邸記者クラブのキャップによる懇親会で「安保法制は、南シナ海の中国が相手なの」と口にしたというが、これはアメリカの戦略を明確に示しているとも言える。そうした流れに岸田も乗っているわけだ。
 また、アメリカは2018年5月に「太平洋軍」を「インド・太平洋軍」へ作り替え、日本を太平洋側の拠点、インドをインド側の拠点、そしてインドネシアを両海域をつなぐ場所だとしたが、インドネシアやインドはアメリカの軍事戦略と距離を置こうとしている

 アメリカは日本と中国を戦わせようとしてきたが、日本の経済にとって中国は重要な存在だった。そうしたパートナー的な関係を築いたのが田中角栄にほかならない。
 田中は1972年9月に中国を訪問、両国の関係を友好的なものにするために周恩来と尖閣諸島問題を「棚上げ」にすることで合意、日中共同声明の調印に漕ぎ着けた。
 この調印は両国の人びとにとって好ましいことだったが、その関係を2010年6月に発足した菅直人政権は壊す。まず、尖閣諸島に関する質問主意書への答弁で「解決すべき領有権の問題は存在しない」と主張、同年9月に海上保安庁は尖閣諸島付近で操業していた中国の漁船を取り締まり、漁船の船長を逮捕する。棚上げ合意を無視したのだ。
 その時に国土交通大臣だった前原誠司はその月のうちに外務大臣になり、10月には衆議院安全保障委員会で「棚上げ論について中国と合意したという事実はございません」と答えているが、これは事実に反している。

 東アジアを不安定化させたのは日本であり、そうした行動を日本に命じたのはアメリカだ。アメリカの戦争マシーンの一部として、自衛隊は2016年に軍事施設を与那国島に建設し、19年には奄美大島と宮古島に作った。2023年には石垣島でも完成させる予定だ。
 そうした軍事施設に中国を狙うミサイルを配備すると見られている。その目的はアメリカの国防総省系シンクタンク「RANDコーポレーション」が昨年に発表した報告書が明らかにしている。
 RANDの報告書によると、アメリカ軍はGBIRM(地上配備中距離弾道ミサイル)で中国を包囲しようとしているが、配備できそうな国は日本だけ。その日本には「専守防衛」の建前と憲法第9条の制約がある。そこでアメリカはASCM(地上配備の対艦巡航ミサイル)の開発や配備で日本に協力することにし、ASCMを南西諸島に建設しつつある自衛隊の施設に配備する計画が作成されたとされている。
 そこで、日本政府は射程距離が1000キロメートル程度のミサイルを開発し、艦艇、戦闘機、そして地上から発射できるようにする計画をたてた。地上発射の改良型は2024年度にも配備する方針だという。

 しかし、アメリカは自らがウクライナで仕掛けたトラップで窮地に陥る。EUとロシアを戦わせ、共倒れにしようと目論んだようだが、疲弊したのはEUだけだったのだ。
 2019年にRANDが発表した「ロシア拡張」では、ロシアを弱体化させるためにウクライナへ殺傷兵器を提供、シリアのジハード傭兵に対する支援の再開、ベラルーシの体制転覆を促進し、アルメニアとアゼルバイジャンの緊張を利用、中央アジアへの関心を強め、トランスニストリア(モルドバとウクライナに挟まれた地域)の孤立を強めるとしていた。ウクライナの戦況がアメリカにとって好ましくなくなるにつれてトランスニストリアへの戦線拡大が言われ始めたが、その理由はここにつながっている。

 ウクライナの戦いが長くなればなるほどアメリカ/NATOは苦しくなる。日本のミサイル開発を待つ余裕もなくなったようで、その後、日本政府はアメリカから亜音速の巡航ミサイル「トマホーク」を購入する意向だという話が出てきた。
 トマホークは核弾頭を搭載でき、地上を攻撃する場合の射程距離は1300キロメートルから2500キロメートル。記事では「反撃能力」が強調されているが、このミサイルには言うまでもなく先制攻撃能力がある。攻撃する相手は中国やロシアということになる。
 日本は射程距離が3000キロメートル程度のミサイルを開発し、2030年代の半ばまでに北海道へ配備する計画だとも伝えられている。それが実現するとカムチャツカ半島も射程圏内だ。岸田政権の与党である自由民主党と公明党は「敵基地攻撃能力」を日本が保有することで合意しというが、これは「先制攻撃」の言い換えにすぎない。

 アメリカの戦争マシーンがロシアや中国に対する軍事的な恫喝、挑発を進めれば、ロシアと中国との同盟関係は強まる。その戦争マシーンに組み込めれている日本はロシアと中国の連合軍と戦うことを強いられるかもしれない。