しんぶん赤旗日曜版2月19日号に、日本総合研究所会長・寺島実郎氏による「衰退する超大国の『力こそ正義』 アフリカ、中南米、アジア、中東の諸国が存在感 これからは『グローバルサウス』がカギ」と題した「近未来の世界」について語った記事が載りました。
寺島氏は、「これから10、20年先の見通しとしてロシアが世界史の正面に登場してくることはない。プーチン自身はソ違時代のKGB(国家保安委員会)出身でありながら、社会主義や共産主義に何の郷愁も持っていない。
第2次世界大戦で唯一無傷で勝利した米国は、国際連合の理念とは裏腹に米国1強の世界秩序を作ったが、今では「唯一の超大国」でも「世界の警察官」でもなくなり、世界をまとめあげ牽引していく力を失いつつある。
今日の中国経済発展を支えてきたのは世界に7千万人以上いるといわれる華人・華僑の存在であるが、彼らは強権化する習近平体制に距離をとりはじめたので、中国の経済発展がピークアウトするのは時間の問題である。
そしてこれからは「グローバルサウス」=アフリカ、中南米、アジア、中東などの諸国が台頭し、『二極の覇権国家』ではなく『多極』を通り越して『全員参加型秩序』に向かう」と予測しています。
中・露を軸とする「グローバルサウス」が隆盛して来るという見方は、フリーの国際情勢解説者・田中宇氏などが繰り返し強調しているところですが、日本の中心的位置にあるシンクタンクのトップがこうした見解を表明するのは珍しいことです。
日本については、寺島氏は「アジア諸国が日本に期待しているのは、対米過剰依存から脱皮し、アジアをどうしたいのか、その構想を示し、国際社会で役割を果たそうとする日本の行動」であると述べています。それにもかかわらず、日本の官僚、自民党、そしてそのトップにいる岸田氏はいまだに米国だけを後生大事にしてその顔色だけを窺っています。これが情けない日本の実態です。
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衰退する超大国の「力こそ正義」 アフリカ、中南米、アジア、中東の諸国が存在感 これからは「グローバルサウス」がカギ 日本総合研究所会長 寺島実郎 さん
しんぶん赤旗日曜版 2023年2月19日版
24日でロシアによるウクライナ侵略開始から1年です。力で相手をねじふせようとするロシアの横暴を前にして「力こそ正義」「力には力で」といった主張が横行しています。こうした見方に対し、「いま世界は、『全員参加型秩序』に向かっている」と力説するのは、日本総合研究所会長の寺島実郎さん。寺島さんの目に映る世界と日本の今とは ー 。
田中一郎記者
てらしま・じつろう
1947年北海道生まれ。三井物産常務執行役員など歴任。一般財団法人・日本総
合研究所会長。多摩大学学長。近著に『ダビデの星を見つめて』(NHK出版)
プーチン大統領がどうあがこうと、これから10、20年先の見通しとしてロシアが世界史の正面に登場してくることはないでしょう。ロシアに対する国際社会の制裁と孤立が、ものすごくロシアのボディーに効いています。
ロシアは世界の1万2700発の核弾頭のうち約6千発を保有しています。一点豪華主義のような核大国です。
一方で、資源大国ではあるものの、付加価値をつける経済基盤が極めて弱く産業小国と言えます。2021年のGDP(国内総生産)は世界11位で韓国よりも下。しかも昨年はマイナス成長に落ち込みました。
プーチン自身はソ違時代のKGB(国家保安委員会)出身でありながら、社会主義や共産主義に何の郷愁もありません。彼の心象風景は、ソ違時代の歴史を消し去り、旧ロシア帝国時代への回帰を夢みているように見えます。
プーチン大統領は100年前の「力こそ正義」という旧世界秩序の世界観に染まっています。しかしウクライナ戦争でいまロシアは、その間違いを思い知らされています。
帝国崩壊の歴史
約100年前の第1次世界大戦(1914~18年)で、四つの帝国が消えました。ドイツ帝国、オーストリア・ハンガリー二重帝国、オスマン帝国が敗戦国として消滅。ロシア帝国が17年のロシア革命で崩壊しました。
第1次大戦前の旧世界秩序のテーゼは「力こそ正義」でした。自分たちが掲げる「正義」の実現のための戦争は当然という時代でした。
それが第1次大戦を境に変わり始めました。当時のウィルソン米大統領が「力こそ正義」ではない国際連盟の構想を提唱し、米国が「理念の共和国」として世界史に登場してきました。第2次世界大戦中にはルーズベルト米大統領が英国とともに大西洋憲章を発表し、大戦で勝っても領土を拡大しないなどと宣言しました。この精神が今日の国際連合(45年設立)につながりました。ただ、掲げた理想はともかく、実態は米国中心の世界秩序でした。
その米国は91年のソ連崩壊で冷戦の勝利を誇りましたが、今では「唯一の超大国」でも「世界の警察官」でもなくなりました。迷走のあげく中東でのプレゼンスをいかに後退させたかは、アフガニスタンからの撤退(2021年)でも示されています。米国は、世界をまとめあげ、けん引していく力を失いつつあります。
中国はどうか。中国の経済発展を支えてきたのは、世界に7000万人以上いるといわれる華人・華僑の存在です。その軍人・華僑ネットワークが、強権化する習近平体制に距離をとりはじめました。中国は今後成長軌道を見失い、不安定化は強まるでしょう。中国のピークアウト(頂点から下落に転じること)も間違いありません。
全員参加型秩序
米国もロシアも中国も世界を束ねるリーダーとなる構想力、理念性はありません。世界は「二極」でもなく、「多極」を通り越して、「全員参加型秩序」に向かっているのです。
これからの世界のキーワードは「グローバルサウス」(途上国、新興国)です。アフリカ、中南米、アジア、中東などの諸国が台頭し、存在感が徐々に高まってきています。かつて米国の「裏庭」と呼ぱれた中南米ではブラジルで左派のルラ政権が発足し、「ピンク・タイド」と呼ばれる左派政権の広がりが注目されています。
グローバルサウスは、ロシアのウクライナ侵略を厳しく批判する目線は持ちつつ、制裁で締め上げることには慎重です。これはウクライナ戦争を契機に世界を「権威主義陣営対民主主義陣営のたたかい」と分断する米国のやり方への異議申し立てです。ロシアの影響で腰が引けているのではなく、主体的意思で「世界を二極に分断するな」とメッセージを発しているのです。
それにもかかわらず、日本のメディアも政権も「米中二極の対立」という表面的な見方で「ウクライナの次は台湾だ」と防衛力強化の議論にひた走っています。
日本に足りていないのは
戦争回避する戦略構想力
ここで考えてほしいのは、台湾には米軍基地は1つもないことです。台湾をめぐる衝突に介入する米軍は、沖繩から出撃するのです。
政府は「敵基地攻撃能力を持つといいます。しかし、「日本が持つ」と強調すれば、相手が持つことも認めることとなります。相手にとっての「敵地」は米軍が出撃する沖縄も含まれることになります。愚かにも戦争を自ら沖縄に招き込むロジックをいっているようなものです。
年末の沖縄での講演で私は「日本は『厄介な同盟国』になるべきだ」といいました。たとえばイスラエルは自国の利害のためには同盟国の米国を引きずり回す国です。一方、日本は「従順な同盟国」として米国に過剰同調し、振り回され、世界で埋没しています。日本に足りないのは、この地域で戦争を起こさせない戦略構想力です。
例えば、提案したいのは、東南アジア諸国連合(ASEAN)をはじめ世界各国を巻き込み、軍縮を軸とする「国連アジア太平洋本部」を設立し、沖縄に誘致することです。沖縄を戦争に巻き込んではいけないという空気を醸成しようということです。
米国にとっては厄介なことを言う存在だ、と思われるかもしれません。しかしアジア諸国が日本に期待しているのは、対米過剰依存から脱皮し、アジアをどうしたいのか、その構想を示し、国際社会で役割を果たそうとする日本の行動ではないでしょうか。