2023年5月3日水曜日

米銀破綻予備軍は186行(日刊ゲンダイ)/「米銀破綻の衝撃」(しんぶん赤旗)

 3月中旬、米国のシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行が相次いで経営破綻したのに引き続き、5月1日にはファースト・リパブリック銀行が経営破綻しました。

 これについて日刊ゲンダイは「2カ月で米銀3行破綻はリーマン級危機の前夜なのか… アメリカには破綻予備軍186行!」という記事を出しました。
 昨年来の金利上昇によって債権の含み損が膨らんでいて、3月に発表された学術調査によると、米国内にはシリコンバレー銀行と同様のリスクを抱えた銀行が186行に上るということです
 厄介なのが米国の3月の消費者物価指数は50%上昇と高水準なことで、インフレ抑制にパウエル米連邦準備制度理事会議長がさらに追加利上げに踏み切るのかが注目されています。

 しんぶん赤旗は、米国のシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行2行が経営破綻した時点で、『米銀破綻の衝撃』を3回シリーズで取り上げています。併せて紹介します。
 新型コロナウイルス禍に対応するため、各国は大量の資金を市場に供給し、同時にインフレを抑制するために積極的に金利を引き上げてきました。金利が引き上がれば、債券の時価は下がるので、金融機関の含み損が拡大します
 米連邦預金保険公社によると、米銀が保有する証券の含み損は、22年末で83円に達し、1年前の78倍に拡大しました満期まで保有できずに売却することとなれば価格時価で評されることになり更に損失が拡大)。
 と同時にパウエル議長はシリコンバレー銀行の経営陣の経営の失敗を強調し、「彼らは銀行を非常に急速に成長させ、銀行を重大な流動性リスクと金利スクにさらし、そのリスクを回避する措置をとらなかった」ための破綻で、「銀行システム全体に広範に存在する弱点ではな」く「経営失敗の教科書のような事例だ」との見解を示しました
 それに対して議員からは、「なぜ強制執行の教科書的な事例がなかったのか」と追及されました。
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2カ月で米銀3行破綻はリーマン級危機の前夜なのか…
        アメリカには破綻予備軍186行!
                          日刊ゲンダイ 2023/05/01
 欧米メディアは4月29日、経営不安が高まっている米中堅銀行ファースト・リパブリック銀行(FRC)が30日にも経営破綻し、米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に置かれると報じた。リーマン・ショック後で最大規模の破綻となる。シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行に続き、わずか2カ月足らずで米銀3行が破綻。何が起きているのか。
  ◇  ◇  ◇
 サンフランシスコに拠点を置くファースト銀行は資産規模全米14位(2126億ドル=約29兆円)。昨年来の金利上昇によって債権の含み損が膨らみ、市場では警戒が広がっていた。3月にシリコンバレー銀行が破綻すると、ファースト銀行でも取り付け騒ぎが発生し、3月末時点の預金残高は昨年末より4割も減少していた。ファースト銀行は公的管理を経て金融大手に売却される方向だ。
含み損を抱える米国の中小銀行は少なくなく、信用不安はまだまだくすぶっている。大口預金が引き出され、破綻に追い込まれる銀行は今後も続く恐れがあります」(金融ジャーナリスト・森岡英樹氏)
 3月に発表された学術調査によると、米国内にはシリコンバレー銀行と同様のリスクを抱えた銀行が186行に上るという。
 預金者がナーバスになっているだけでなく、金融当局も銀行に対するチェックを厳しくしている。経営の健全性を示したい銀行は、信用の低い企業や個人に対して融資態度を硬化。貸し渋りや貸しはがしが横行し、米国の中小銀行の融資残高は激減している。

景気後退と物価高が同時に起こる
 イエレン米財務長官は銀行が融資をさらに引き締める可能性を指摘し、「追加利上げの代わりになる可能性がある」と発言。信用のない低所得者やベンチャー企業は融資を受けにくくなっているのだ。
 「FRB(連邦準備制度理事会)は2023年後半から緩やかな景気後退に入るとの見方を示していますが、すでにリセッションの“入り口”に差し掛かっていると言う人もいる。厄介なのがインフレです。米国の3月のCPI(消費者物価指数)は上昇率50%と依然高い水準です。景気後退でありながら物価が高止まりする可能性があります。08年のリーマン・ショックも当初、局地的とみられていましたが、あれよあれよと大きな世界的危機に発展してしまった。今はリーマン級危機の前夜なのかもしれません」(森岡英樹氏)
 2日から2日間、FOMC(連邦公開市場委員会)が開かれる。こんな状況でもパウエルFRB議長は追加利上げに踏み切るのか。


『米銀破綻の衝撃』(上)
                       しんぶん赤旗 2023年4月27日
 3月中旬、情報授権(IT)企業やベンヂャー企業を主要顧客とするシリコンバレー銀行(SVB)と暗号資産(仮想通貨)関連業者との積極的な取引で知られたシグネチャー銀行が相次いで経営破綻しました。一連の出来事は、金融当局者らに2008年の世界金敵危機を想起させるのに十分でした。 (金子豊弘)
 新型コロナウイルス禍に対応するため、各国は大量の資金を市場に供給しました。足元では、インフレを抑制するために積極的に金利を引き上げてきました。金利が引き上がれば、債券の時価は下がります。その結果、金融機関の含み損が拡大。国際通貨基金(IMF)が4月11日発表した金融安定報告書は、「金融安定性リスクが急速に高まっている」「インフレ抑制と金融安定の両立が困難になっている」と警告しました。
 米連邦預金保険公社(FDIC)によると、米銀が保有する証券の含み損は、2022年末で200億ドル(約83兆3000億円)に上ります。1年前の78倍に拡大しました。これは、資金運用の目的で保有され、売買時に損益が発生する売却可能証券と、満期まで所有する意図をもって保有する満期保有証券の合計の含み損です。しかし、満期保有目的であっても、満期まで保有できずに売却することとなれば、価格時価で評されることになり損失発生します。

膨らんだ損失
 SVBは、ハイテク業界が主な取引相手の銀行でした。数百億ドルに上る顧客の預金を、金利が上昇すれば価格が下落する金利リスクのある債券に大量に投資していました。そのため、金利上昇局面で損失が一気に膨らみました
 金融システムの安定のたの活動を行っている国際機関の金融安定理事会(FSB)は、4月中旬に開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議への手紙を発表しました。その中で、08年に続く金融改革をテストするものになったとして、次のように指摘しました。
 「グローバルな金融システムは、銀行の自己資本と流動性の大幅な向上、破綻した機関を効果的に解決するための国際的な枠組み、国境を越えた規制と監督の協力の強化などの改革の結果として、負のショックを吸収するのに適したものになっている」

危機終わらず
 FSBは、改革の成果を誇っているものの規制と監督が十分機能していれば、一連の事態も、信用不安の世界的広がりも起こらなかったはずです。
 米連邦準備制度理事会(FRB)が公開した3月2122両日の連邦公需市場委員会(FOMC)の議事要旨には、米中堅銀行2行の経営破綻による信用不安の広がりにより景気後退の見通しも示されていました。
 米国の金融最大手JPモルガン・チェースのダイモン最高経営責任者(CEO)は、4月4日付の年次報告の中で、「危機はまだ終わっていないし、過ぎ去ったとしても、その影響は何年も続くと指摘しました。    (つづく)(3回連載です)


『米銀破綻の衝撃』(中)
                       しんぶん赤旗 2023年4月28日
 3月10日の金曜日早朝、米国の金融市場に衝撃が走りました。米国の中堅銀行の一つ、シリコンバレー銀行(SVB)が破綻したのです。同社の総資産は2022年年末時点で2090億ドル(約28兆円)。全米16位の資産規模を持つ銀行でした。続く12日には、シグネチャー銀行が経営破綻しました。

経営失敗「外れ値」
 米連邦準備制度理事会(FRB)は3月22日、2銀行破綻による信用不安の拡大よりもインフレ抑制を優先し、政策金利をO・25引き上げることを決めました。この日の会見で、FRBのパウエル議長は、「歴史が示しているように、孤立した銀行の問題が対処されないまま放置されると、健全な銀行に対する信頼が損なわれ、家計や企業の貯蓄と信用のニーズを支える重要な役割を果たす銀行システム全休の能力が脅かされる可能性がある」として、関係当局と連携して全額預金保護の措置などをとったと説明しました。
 パウエル議長はさらに、シリコンバレー銀行の経営陣の経営の失敗を強調。「彼らは銀行を非常に急速に成長させ、銀行を重大な流動性リスクと金利スクにさらし、そのリスクを回避する措置をとらなかった」「銀行システム全体に広範に存在する弱点ではない」外れ値⇒例外だ」と指摘したのです。
 米上下両院議会は3月28、29両日、公聴会を開催しました。証言したFRBのバー副議長(金融規制担当)は、今回の銀行破綻について、取引相手が特定業界に偏り、資産規模を短期間で急拡大させるなど「経営失敗の教科書のような事例だ」との見解を示しました。

全預金の85%にも
 8日の水曜日、SVBは資金繰りのための保有債券売却による18億ドルの損失を計上しました。この対応がかえって、「投資家を驚かせ、預金者を驚かせ、市場を驚かせ」(バー副議長)ました。
 それでも、9日の木曜日の朝、事態は落ち着いているように見えました。午後になって事態が動きました。木曜日の午後遅くに預金の流出が始まり、その日の夜までに、420億ドル以上が銀行から流出したのです。バ議長によると、預金流出はその後も予想されていたといいます。その額は合計1000億ドル。同行の預金ペースで85にも達します。銀行は、預金流出に対応する担保がなく、銀行閉鎖に至りました
 前例のない急速かつ大規模な銀行の取り付け騒ぎでした。米下院金融サービス委員会のマクヘンリー委員長(共和党)は声明で、「初のツイッターを利用した破綻だ」と指摘しました。デジタル化時代、SNSという通信手段が、銀行の破綻を後押ししたというわけです。
 SVB破綻の直接的引き金となった預金流出は果たして、個々バラバラで零細な預金者の行動の結果だったのでしょうか。FRBのパウエル議長は、「相互に結び付いた預金者」の行動の結果だと表現しました。しかも、同行の預金上位10口座の合計預金額は130億ドルを超えていたと言われています。
 「相互に結び付いた預金者」は、一瞬にして巨額マネーを動かすことができる経済主体であり、米国社会をむしばむ深刻な格差を映し出してもいます。   (つづく)


『米銀破綻の衝撃』(下)
                       しんぶん赤旗 2023年4月29日
 FRB)は、破綻した米堅2銀行を「外れ値だったといい、例外的な出来事だったと強調しました。ところがその「外れ値」銀行の破綻は、米国史上2番目、3番目の規模だったのです。

透明性と説明責任
 3月下旬、米上下両院で公聴会が聞かれました。28日の米上院銀行委員会の公聴会では、スコット上院議員(共和)が「米国の歴史の中で2番目と3番目に大きな銀行破綻の真っただ中にいる」「(公聴会は)米国の納税者に必要な透明性と説明責任を提供するための重要な第一歩だ」と指摘しまた。
 2日間の公聴会では、議員と規制当局者との次のようなやりとりが交わされました。
 スコット上院議員  SVBに関して三つのことがはっきりしている。第一に、銀行は誤った管理に満ちていた。第二に、監督上の失敗。規制当局は、居眠り運転をしていた。そして最後に、パイデン大統領の無謀な支出が高インフレを引き起こしている。
 パーFRB副議長(金融規制担当) 監督者は、2021年末近くに監督者による警告を出し姶めた。これらの警告が十分であったかどうか、分な手段を持っていたかどうかを検討する。最近の出来事は、技術の変化と新たなリスクに照らして、銀行業務への理解を進める必要がある。
 実際、FRBは、SVBに対して21年から22年にかけて、警告を発していました。21年には、流動性とその管理に欠陥があることを発見。その結果六つの監督上の調査結果を得ていました。22年には、規制当局は、取締役会の監督が効果的でないこと、リスク管理の弱点、銀行の内部監査機能に関連する三つの調査結果を得ていました。`
 規制当局が問題を把握していたにもかかわらず、破綻という事態にいたったことが、29日の下院金融サービス委員会で問題になりました。
 バーFRB副議長が破綻した銀行の経営について、「経営失敗の教科書のような事例だ」と発言したことに合わせて、民主党の下院議員が突っ込みました。
 パルガス下院議員(民主) なぜ強制執行の教科書的な事例がなかったのかということです。
 これに対し、バー副議長は、規制当局が監督している銀行で問題が発生した場合は規制当局の措置をより迅速に使用することなどに重点を置く必要性に言及しました。

規制の一部を緩和
 米国では、リーマン・ショック後にその教訓を踏まえ、金融機関への自己資本や流動性の確保などを課すドッド・フランク法(金融規制改革法)が成立しました。しかしトランプ政権時、資産規模2500億ドル以下の金融機関に対して、銀行によるストレステストなど一部を緩和しました。しかもSVBには、昨年8ヵ月間にわたり、リスク管理を担当する責任者(CRO)も不在でした。規制緩和と行内のリスク管体制の不備が、破綻の背景になったとの指摘もあります。バイデン政権は、3月30日、資産規模180億~2500ドルの金融機関を対象とした規制強化案を提案しました。一方、FRBは、5月1日までに一連の銀行破綻に間する報借書を発表する予定です。(おわり)


2カ月で米銀3行破綻はリーマン級危機の前夜なのか…
        アメリカには破綻予備軍186行!
                          日刊ゲンダイ 2023/05/01
 欧米メディアは4月29日、経営不安が高まっている米中堅銀行ファースト・リパブリック銀行(FRC)が30日にも経営破綻し、米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に置かれると報じた。リーマン・ショック後で最大規模の破綻となる。シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行に続き、わずか2カ月足らずで米銀3行が破綻。何が起きているのか。
  ◇  ◇  ◇
 サンフランシスコに拠点を置くファースト銀行は資産規模全米14位(2126億ドル=約29兆円)。昨年来の金利上昇によって債権の含み損が膨らみ、市場では警戒が広がっていた。3月にシリコンバレー銀行が破綻すると、ファースト銀行でも取り付け騒ぎが発生し、3月末時点の預金残高は昨年末より4割も減少していた。ファースト銀行は公的管理を経て金融大手に売却される方向だ。
含み損を抱える米国の中小銀行は少なくなく、信用不安はまだまだくすぶっている。大口預金が引き出され、破綻に追い込まれる銀行は今後も続く恐れがあります」(金融ジャーナリスト・森岡英樹氏)
 3月に発表された学術調査によると、米国内にはシリコンバレー銀行と同様のリスクを抱えた銀行が186行に上るという。
 預金者がナーバスになっているだけでなく、金融当局も銀行に対するチェックを厳しくしている。経営の健全性を示したい銀行は、信用の低い企業や個人に対して融資態度を硬化。貸し渋りや貸しはがしが横行し、米国の中小銀行の融資残高は激減している。

景気後退と物価高が同時に起こる
 イエレン米財務長官は銀行が融資をさらに引き締める可能性を指摘し、「追加利上げの代わりになる可能性がある」と発言。信用のない低所得者やベンチャー企業は融資を受けにくくなっているのだ。
 「FRB(連邦準備制度理事会)は2023年後半から緩やかな景気後退に入るとの見方を示していますが、すでにリセッションの“入り口”に差し掛かっていると言う人もいる。厄介なのがインフレです。米国の3月のCPI(消費者物価指数)は上昇率50%と依然高い水準です。景気後退でありながら物価が高止まりする可能性があります。08年のリーマン・ショックも当初、局地的とみられていましたが、あれよあれよと大きな世界的危機に発展してしまった。今はリーマン級危機の前夜なのかもしれません」(森岡英樹氏)
 2日から2日間、FOMC(連邦公開市場委員会)が開かれる。こんな状況でもパウエルFRB議長は追加利上げに踏み切るのか。