2023年5月1日月曜日

停戦を睨んで準備を始めたゼレンスキー 中ウ首脳会談の意味(世に倦む日々)

 世に倦む日々氏が26習近平とゼレンスキーの電話首脳会談があったことについて、「日本の専門家とマスコミは口を揃えて意義を過小評価しているが、この会談はウクライナの方から中国に持ちかけたもので、会談後のゼレンスキーの発言も中国の役割に対して期待感を表明する積極的な内容になっている」と評価しました

 東野篤子氏などの常連のコメンテイター達が従来の見方の延長で軽視しているのとは対照的です。
 中国「出たとこ勝負」のアドリブの首脳外交はやらず、必ず事前に「結果」を詰め会談後に発表する声明入念に調整し合意内容を固めた上で会談本番に臨むので、双方のウインウインが果たされた外交だったとも述べました
 ゼレンスキー内心では中国への期待持っていることは、3月にも垣間見られたことで、客観的に見てロシアとウクライナの間に入って調停役実力と立場を持っている国は中国しかなく、ウクライナとしてもロシアに影響力を持つ中国を頼りにせざるを得ない現実があるとして、3月時点でゼレンスキーは習近平を袖にしたが、その後状況が変わり、中国の役割を積極的に認める方針になったのだろうとしています。そして今回はカービー米報道官が首脳会談を歓迎するコメントを発しているのでアメリカの態度も変わったと見ています
 なぜゼレンスキーわったのかについては、「これからウクライナは反転攻勢の大きな作戦に出るが、それが成功すればそのときロシアを停戦協議の場に連れ出しプーチンに全占領地からの撤退の決断をさせるためには、仲介役として中国の力が必要であるし、逆にこの反転攻勢が失敗しウクライナ軍に継戦続行する余力がなくなったときも、やはり中国に間に入ってもらいたいからだ」と見ています
 いずれにしてもウクライナ軍の反転攻勢のあとは、その結果如何にかかわらず中国と国連を調停者にした一刻も早い停戦実現を希望すると、世に倦む日々氏は述べています。

 因みに、両者の電話会談があった26日は、16~19中国国防相のロシア訪問の1週間後で、米国は中国国防相の訪露中「ウクライナ紛争で中国がロシアに致死的な軍事援助を提供する準備をしていると繰り返し主張していました。もしもそうなればウクライナ戦争の帰趨は明白です。

 記事紹介の前書きは以上で尽きているのですが、敢えて蛇足を加えるとウクライナ戦争について国際ニュース解説者の田中宇氏は26日付の記事「決着ついたウクライナ戦争。今後どうなる?」で、ロシアが既に勝ったと見ていて、その後はウクライナは西部だけが残り、米国と西欧の崩壊が顕在化し、東欧は非米側に転じ、NATOが解体すると見ています。
 また「耕助のブログ」No. 1773 ウクライナの終焉を告げるリーク情報 によれば、例のリークされた秘密文書では、「米国はウクライナが行う反攻が大きな利益をもたらす可能性について疑問を持ってて「主流メディアがウクライナについて戦争に勝っており最終的な勝利につながる攻撃を開始する態勢にある、と報道してきたことは基本的に嘘のかたまりであったことを認めている」となっています。米国は大慌てで「公開された文書には虚偽の内容が含まれている」としているので、その分を差し引いて考えなくてはいけないのかも知れませんが・・・。

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停戦を睨んで準備を始めたゼレンスキー - 中ウ首脳会談の意味
                         世に倦む日日 2023年4月29日
4月26日、習近平とゼレンスキーの電話首脳会談があった。この会談について、日本の専門家とマスコミは口を揃えて意義を過小評価するコメントを並べている。山添博史は「中国がウクライナの呼びかけにしぶしぶ応じた」と言い、東野篤子は「(中国が何を考えているのかウクライナ側が)見極め(ただけ)」だと述べた。27日の報道1930の堤伸輔も右に同じ。が、これらのコメントは会談の真実を捻じ曲げたプロパガンダの言説であり、正確な解説とは言えない。今回の会談はゼレンスキーの側から申し込んでいる。ここに注目する必要がある。ウクライナの方から中国に会談を持ちかけて実現したものだ。ウクライナが会談を要請し、中国が応じて開催に至った。だから、会談後のゼレンスキーの発言も中国の役割に対して期待感を表明する積極的な内容になっている

中国は国際舞台で巨大な影響力を発揮している」「中国が平和の回復のために外交的な手段を通じて危機の解決に重要な役割を発揮することを歓迎する」と言っている。中国の場合、日本と同じで「出たとこ勝負」のアドリブの首脳外交はやらない。必ず事前に「結果」を詰めた上で行う。つまり、会談後に発表するステイトメントを入念に調整し、合意内容を固めた上で会談本番に臨む。これらのゼレンスキーの発言内容は、事前に中ウ間で詰められたもので、ウクライナが発表を合意したものだ。こうしたゼレンスキーの言葉が並ぶ「結果」でなければ、すなわち中国にとって「成功」の会談でなければ、中国は首脳会談に応じなかっただろう。したがって、事実は山添博史が言う「中国がしぶしぶ応じた」ものではなく、双方の WinWin が果たされた外交だった。

東野篤子の言うように、ウクライナは中国の調停の中身を探っただけという見方も当を得てない。中国側にはそれほど新規で具体的な停戦案はなく、その準備もなかった。抽象的な和平案である点は前回の3月の訪露のときと同じだ。ステイタスは変わっていない。今回の電話会談はウクライナの方が頼み込んだものであり、中国側からの呼びかけではない。中身は変わってないのに、今回はウクライナの方から会談を求めている。前回は、会談を呼びかけたのは中国の方だった。ウクライナの方が態度が変わったのであり、この点を看過すべきではない。前回、中国側が会談を持ちかけたとき、ゼレンスキーは、中国がロシアの侵略戦争を非難することが先決だとか、まず完全撤退せよと言えとか、会談したいのなら習近平がキエフに来いと高飛車に出て、事実上、持ちかけられた首脳会談を蹴っていた。アメリカからの指示に従ったのだろう。

ゼレンスキーとウクライナ政府そのものは、内心では中国に期待する意向を持っていて、2月3月のときもその気配が見え隠れしていた。客観的に見て、戦争するロシアとウクライナの間に入って調停役ができるのは、その実力と立場を持っている国は中国しかない。ウクライナにとっても中国は頼りになる国であり、ロシアに影響力を持つ中国を頼りにせざるを得ない現実がある。実際にロシアと停戦協議を始めて、合意を実効あらしめるものにするには、中国を仲介者にするのが最も合理的で妥当な選択だ。3月時点でゼレンスキーは習近平を袖にしたが、おそらく事情と状況が変わり、中国の役割を積極的に認める方針になったのだろう。前回は、ゼレンスキーもアメリカも中国の仲裁にネガティブな反応を返していたが、今回はカービーが首脳会談を歓迎するコメントを発している。アメリカの態度も変わった

変化を分析解読しよう。ゼレンスキーの意図はこうだ。これから反転攻勢の大きな作戦に出る。それが成功すればロシア軍は決定的な打撃を蒙り、南部2州の占領地を追われ、ドンバスとクリミアを繫ぐ補給回廊を失う敗北となる。クリミア奪還作戦の段階に進む。そのとき、ロシアを停戦協議の場に引っ張り出し、プーチンに全占領地からの撤退の決断をさせるためには、仲介役として中国の力が必要なのだ。反転攻勢の戦略を外交サイドからも万全にするために、中国を調停役として指名し、役割を担わせる思惑なのだろう。逆にまた、万が一反転攻勢が失敗し、ロシア軍に巻き返され、ウクライナ軍に継戦続行する余力がなくなったとき、最悪のケースの想定だが、そのときも中国に割って入ってもらう腹なのに違いない。どちらに転んでも、ウクライナには中国の出番が必要となる。同じ動機と論理はロシアのプーチンも共有している。

西側の報道では、ウクライナ軍の戦況有利と士気旺盛の情報ばかりが宣伝散布されているが、ウクライナの実情は決してそうではない。反転攻勢も地上戦であり、陣地を固めて守備するロシア兵との熾烈な攻防となる。確実に大量の兵員を消耗する。4月13日の報道1930では、ウクライナで徴兵逃れが横行していて、1年前のようなスムーズな兵員補充が難しくなった現状が報告されていた。武器と資金はアメリカとNATOから青天井で入って来るけれど、兵員補充はそうはいかない。ウクライナもどこかで停戦を考えないといけないのであり、その外交準備が必要なのである。仮に反転攻勢が大成功してクリミア奪還作戦の段になっても、ウクライナ軍はまた新たな流血を覚悟し、成年男子を徴兵して前線に送り出さないといけなくなる。ロシアとロシア系住民が諦めずに抵抗と反撃を続ければ、戦争はさらに続く。死傷者は増え続ける

膠着している戦況は、ウクライナ軍の反転攻勢のあと、その結果如何にかかわらず、中国と国連を調停者にした停戦協議の幕となるだろう。ロシアも疲弊している。ウクライナも疲弊している。来年4月のウクライナの大統領選で、停戦和平を求める候補が出馬する可能性も十分ある。首脳会談の結果、中国の特別代表がキエフに派遣され、常駐して和平交渉の作業に当たる進行となった。この特別代表がキエフとモスクワを繫ぐパイプ役となり、北京をブリッジにした意思疎通のチャンネルとなる。ゼレンスキーにとっては重大な価値のある外交リソース(⇒資産)の獲得で、プーチンの意向をダイレクトに探ったり、騙し合いや駆け引きも含めての意思を伝達することができる装置だ。プーチンの側も同じ。キエフの中国特別代表の存在と動向は、国連(グテレス)にとってもきわめて重要なものとなるだろう。

一刻も早い停戦実現を希望する。戦いは外交の場で存分にやればいい。武器による攻撃と殺傷ではなく、言葉による応酬と妥協で決着させることだ。