内閣支持率が上昇し「解散するなら今しかない」と自民党内で「早期解散」を求める声が強くなっています。岸田首相の本心も同じはずです。
ところがここにきて連立を組む公明党との間に亀裂が走り、多くの自民党議員が、当落を左右する公明票を失う可能性が大きくなりました。
その“震源地”は選挙区の区割り変更に伴い新設された衆院東京28区(練馬区東部)で、公明は25日、東京28区への候補擁立を断念したうえで、東京では自民党の候補者に推薦を出さない方針を決定し、自民党に伝えました。
公明側によれば自民は当初28区の候補者はいないと説明したため、いち早く候補擁立を決定したのですが、その後になって自民が「昨年末に自民都連が候補を決定した」と異なる説明をして公明党が補候者を立てるのを拒否したということです。
自民党が28区に拘ったのは、東京都連会長の萩生田政調会長が懇意にしている安藤高夫元衆院議員(64)を擁立したいためです(日刊ゲンダイ)。
公明党は1選挙区当たり1万~2万の固定票を持っていると言われているため、2位と1万票乃至2万票差以内で当選した議員にとっては、公明票が当てにならなくなれば一大事です。現時点では「東京都では」公明党が自民への推薦を出さないと限定されていますが、全国的に影響を及ぼさないという保証はありません。
日刊ゲンダイの調査では前回(21年衆院選)次点と2万票差未満で当選して自民議員は57人で、1万票差未満だと33人ということです。
日刊ゲンダイの2つの記事を紹介します。
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東京28区めぐり自公に亀裂で「解散」不能…岸田自民57人が次期衆院選で“討ち死に”落選危機
日刊ゲンダイ 2023/05/25
「解散するなら今しかない」──。広島サミットの効果か、内閣支持率が上昇し、自民党内で「早期解散」を求める声が強くなっている。しかし、総選挙に突入して勝てるのかどうか。連立を組む公明党との間に亀裂が走り、多くの自民党議員が、当落を左右する公明票を失う可能性が大きくなったからだ。
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自公亀裂の“震源地”は、衆院選挙区の区割り変更に伴い新設された衆院東京28区(練馬区東部)だ。これまで選挙協力してきた自公双方が、独自候補の擁立を譲らず、揉めに揉めていたが、公明は24日、28区の候補者調整に関する自民党の回答を受け入れられないとして、東京都内の選挙区で自民候補を推薦しない方向で調整に入った。同区での独自候補の擁立は見送るという。
すでに公明は、比例東京選出の現職を擁立することを自民側に伝達済み。しかし、自民党の茂木幹事長は23日、公明党の石井幹事長と会談し、28区での公明候補の擁立受け入れは困難と伝えていた。自民は元職を擁立する方針だ。公明は現職の擁立が認められなければ、解散総選挙となっても都内の選挙区では自民候補を「推薦しない」とタンカを切っていたが、その通りになった。
自民党都連関係者はこう憤る。
「公明は一方的に28区での擁立を言ってきた。あまりにフザケたやり方だ。唯々諾々と従うなんて受け入れられない。公明の推薦など破棄したってかまわない。絶対に折れてはダメだ」
大物落選の可能性もある
自民は28区を公明に譲らない代わりに、他の選挙区を差し出す代替案を検討。東京12区を譲る案が浮上していたが、公明は拒否した。
このままだと、東京選挙区の自民候補は、公明党の支持ナシで次期衆院選挙を戦うことになりかねない。自民党関係者はこう言う。
「正直、公明票がゼロとなると、当選が危うい候補がゴロゴロいる。『こちらが折れるしかないんじゃないか』という声も上がっています。ヤバいのは、今回のゴタゴタが他の県にも波及することです。公明の支持母体・創価学会は、今回の一件を冷ややかな目で見ているはず。全国レベルで選挙協力が崩れれば、一大事です」
公明票は、1選挙区に1万~2万票あるといわれている。これを失うと“討ち死に”する自民候補が続出するのは間違いない。
区割り変更が実施されたため単純比較はできないが、前回2021年衆院選では、次点と2万票差未満で辛勝した自民議員は57人もいる。1万票差だと33人だ。公明票がなければ、この57人は落選していた可能性があるということだ。今回のゴタゴタに真っ青になっているに違いない。
区割り変更後の新しい選挙区でも、公明票がなければ自民候補は苦戦を強いられるのは必至。大物落選の可能性もある。
「参議院から東京新7区に鞍替えした丸川元五輪相は盤石と思われたが、一気に黄信号がともっています。ただでさえ1区から移ってきた『日本維新の会』の小野泰輔衆院議員に勢いがあるのに、公明票が得られないとなったら、かなり厳しい。東京8区の石原伸晃氏は前回選挙で立憲に敗れ、比例復活もできなかった。次も厳しいでしょう。東京23区の小倉将信少子化担当相も、前回選挙では次点に約6000票差の薄氷の勝利。次期衆院選も盤石とは言えない」(永田町関係者)
公明票がなければ岸田自民は大ダメージ必至。「早期解散」なんてとても無理ではないか。
自公決裂の“戦犯”萩生田政調会長が頑なに…「太客」の擁立に固執し“自爆”まっしぐら
日刊ゲンダイ 2023/05/25
自公決裂に永田町が大揺れだ。
公明党が24日、次期衆院選に向け区割り変更に伴い新設された「東京28区」の候補擁立を断念。東京の選挙区で自民党候補の推薦を見送る方針を固めた。28区を巡り、選挙協力してきた自公双方が独自候補の擁立を譲らず揉めに揉め、結局「ケンカ別れ」となった格好だ。
公明側の言い分だと、自民は当初、28区の候補はいないと説明したため、いち早く候補擁立を決定。ところが、後になって自民が「昨年末に自民都連が候補を決定した」と、異なる説明をしてきたという。
その真否は不明だが、どうにも怪しいのは自民都連会長の萩生田政調会長の立場だ。個人的事情を優先させて“自爆”。決裂の原因をつくった可能性がある。
「自民都連の一部関係者からは『公明の意向をのむしかないんじゃないか』という声も上がっていました。ところが、萩生田さんは頑なな姿勢を崩さなかった。どうしても、自らに近い人物を28区に擁立したいようなのです」(永田町関係者)
3年間で計170万円の献金
萩生田氏が擁立を狙っているのは、安藤高夫元衆院議員(64)だ。前回の衆院選で東京9区から出馬。立憲候補に敗れ、今は落選中の身だ。
安藤氏は2010年参院選に比例代表から民主党公認で初出馬するも落選。その後、自民に移り17年衆院選で比例東京ブロックから出て初当選し、萩生田氏と同じ清和会に所属していた。
「萩生田さんは安藤さんに相当な思い入れがあるようだ」と言うのは、ある自民都連関係者だ。
「安藤さんは、萩生田さんの選挙区に当たる八王子市で総合病院などを運営する医療法人『永生会』の理事長。地元の名士です。萩生田さんとは親密関係にあり、むげにできないのでしょう」
萩生田と安藤両氏の蜜月ぶりは、政治資金の流れからもうかがえる。萩生田氏が代表を務める政党支部の12、14、17年の収支報告書には、3年間で計8回、総額約170万円を「安藤高朗」名義で受領したとの記載がある。永生会の住所も書かれている。
朝日新聞の人物データベースには〈安藤高朗〉と〈安藤高夫〉が併記され、永生会理事長の肩書や生年月日も記されている。両者は同一人物とみて間違いない。
つまり、萩生田氏にとって安藤氏は政治活動上の“太客”。だから、擁立に固執するあまり、自公決裂を招いたのだろう。
「早期解散」説が浮上する中、このままだと「公明票頼み」の都内の自民候補は“討ち死に”必至。落選者続出となれば萩生田氏は“戦犯”のそしりを免れない。