2024年4月13日土曜日

13- ウクライナがオデッサを失う可能性(孫崎享氏)

 ウクライナ議会は11日、軍に所属する兵士の数の増強を意図した法案を可決しました。これは徴兵逃れをより困難にするほか、前線で長期間戦っている兵士らに交代、帰還の機会を与える計画を破棄するもので、そうした軍が強く求める兵員増強を実現させようとするものです
 しかしウクライナの劣勢は明らかで、そうしたところで戦況は改善しません。衛星ネットワーク「スターリンク」を持つイーロン・マスク氏昨年のウクライナの「反撃計画」について、「ウクライナが装甲車や制空権を欠いている時に、深層防御、地雷原、強力な大砲を備えた大軍(ロシア)を攻撃することは、ウクライナにとって悲劇的な命の無駄であった」と批判します
 秋の米大統領選で優勢が伝えられるトランプは、「自分が当選すれば、一部の領土をロシアに割譲することで直ぐに戦争を止めさせる」と述べています。
 それは「侵攻したロシアが一方的に悪く、ウクライナは正義の戦争をしている」と見ている西側の「思い」に反するでしょうが、客観的には、米国と共に7年を掛けて軍備を増強し、ロシア人が居住するドンバス地方の制圧に乗り出したゼレンスキーの側に非があります。彼は決して「無辜のリーダー」などではありません。
 戦争に至った経緯を見れば、開戦前の領土を保全することで終戦させることは不可能であって、事態をいたずらに長引かせるだけのことです。
 孫崎享氏が掲題の記事を出しました。正義も無く勝てない戦争でいたずらに国民の生命を損耗するのは愚かであり、犯罪的です
 併せてCNNの記事「ウクライナ議会、兵士の動員解除計画を破棄 軍増強の法案可決」を紹介します。
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日本外交と政治の正体 孫崎享
ウクライナがオデッサを失う可能性
                          日刊ゲンダイ 2024/04/11
                        (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 ロシア軍の攻撃が激化、3月はウクライナ軍兵士の死亡が急増した
 ウクライナとロシアの戦争が今もなお続いている。戦況の1次情報に接し最も把握している人物は誰であろうか。
 プーチン、ゼレンスキー両大統領のいずれか。それとも、ロシア国防相かウクライナ軍総司令官か。あるいはロシア、ウクライナの情報機関のトップだろうか。
 この戦争の特徴は高度な情報戦にある。情報衛星で敵軍兵器の配備、軍の配備を把握し、ミサイルや無人機で的確に攻撃する。衛星情報が不可欠なのだ。

 ロシア軍が侵攻した当時、ウクライナはロシア軍の配備を把握し、集中的に攻撃を行い、ロシア軍の大量撃破に成功した。
 この情報はイーロン・マスク氏の衛星ネットワーク「スターリンク」による。そして今も、ウクライナ軍、ロシア軍の配備を1次情報として最も豊富に入手しうるのはマスク氏なのである。
 彼は3月末に自身のX(旧ツイッター)で、次のような発言をした
<ウクライナが装甲(車)や制空権を欠いている時に、深層防御、地雷原、強力な大砲を備えた大軍(ロシア)を攻撃すること(注:ウクライナは昨年、大規模「奪回作戦」を展開)は、ウクライナにとって悲劇的な命の無駄であった。そんなことはいかなる愚か者でも予想できたことである>
<1年前の私の勧告は、ウクライナが陣地を固め、あらゆる資源を防衛に投入することだった。それでも、強力な自然の障壁がない土地を保持するのは困難である。ウクライナの西部では地元の抵抗が激しいため、ロシアがウクライナ全土を占領する可能性はないが、ロシアが現在よりも多くの土地を獲得することは確実だ>
戦争が長引けば長引くほど、ロシアが獲得する領土が増える。ドニプロ川に到達するであろうが、これを克服するのは困難である。しかし、戦争が十分長引けばオデッサも陥落するだろう。私の考えでは、ウクライナが黒海へのアクセスを完全に失うかどうかが、本当に残された問題である。そうなる前に、交渉による解決を勧める

 兵員数、砲弾数、無人機、航空機などで圧倒的に劣るウクライナ軍は、ロシア軍を侵攻前の国境線まで押し戻すことはあり得ない。ロシア軍を元の国境線まで押し戻す戦いを続ければ、ウクライナ軍は兵を失い、国土は荒廃。ロシアの占領地は拡大する
 ウクライナ軍と国民の明白な利益は終戦しかない。

孫崎享 外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。


ウクライナ議会、兵士の動員解除計画を破棄 軍増強の法案可決
                             CNN 2024.04.12
(CNN) ウクライナ議会は11日、軍に所属する兵士の数の増強を意図した法案を可決した。前線で長期間戦っている兵士らに交代、帰還の機会を与える計画を破棄した形だ。

ウクライナ軍の兵士は本来、36カ月以上従軍すれば動員が解除され、帰還できることになっていた。しかし今回採決された法案からは、そうした条項が削除された。ウメロウ国防相とシルスキー軍総司令官による介入の結果だと、国会議員らは明かしている。
11日に賛成多数で可決した法案には、徴兵逃れをより困難にするなど、軍が強く求める兵員増強を目的とした方策が数多く盛り込まれている。同法を巡ってはこの数カ月間で議論が交わされ、4269件の修正が施された
新法により兵士らの賃金は上がり、休暇期間も長くなるが、戦場での配備を義務づける期限は設定されなかった。「戒厳令下での軍要員の交代」を改善するには政府が新たに法案を提出する必要があると法律は定めていることから、動員解除の問題は今後も動く公算が大きい。
ウクライナ軍のソドル統合軍司令官は10日、国会議員らに対し「(ウクライナ東部での)敵の兵力は我が軍の7~10倍。兵員が足りない」と発言。法案の可決を強く求めていた。
11日には議会の外に兵士の妻や親類数十人が集まり、法案の可決に対する抗議活動を実施。動員解除の期限を法案に盛り込むよう要求した。

夫が2022年2月のロシアによる全面侵攻開始直後に軍に志願したというアナスタシア・ブルバさんはCNNの取材に答え、ウクライナ軍の兵士らには従軍の条件が示されていないと指摘。「いつ家族の下に帰れるのか、全く分からない」「国の守護者たちが欺かれている。国全体の独立は彼らにかかっているというのに」と訴えた。

砲兵部隊に所属する兵士の1人もCNNに対し、軍の士気を低下させる決定だとして法案可決への怒りを吐露した。