2024年4月8日月曜日

経済秘密保護法案ここが問題 身辺調査・刑事罰の対象 一挙拡大

 しんぶん赤旗日曜版4月7日号で、今国会で審議されている経済秘密保護法案(重要経済安保情報保護法案)問題点について、ジャーナリストの青木理さんが分かりやすく語っています(法案は5日、衆院内閣委で可決されました)。
 同法案は14年12月に施行された特定秘密保護法(=国の安全保障に著しい支障を与えるとされる情報が対象)の「秘密の範囲」を経済分野に拡大するもので、秘密の対象は政府の一存で決められる上に何が秘密なのかは明らかにされません。
 そして秘密の対象が分からないままで秘密に触れたり情報漏えいした場合、5年以下の拘禁刑または500万円以下の厳罰が科されます。まさに無法状態を地で行くもので「戦争への地ならし」「戦争前夜」とも言われます。

 この法案が成立すれば、対象とされた物資等の研究開発や製造に関わる人たちについては、30頁にも渡る調査事項による身辺調査が行われ、しかも内容に変更がある都度それを申告する義務が課せられて、公然と官憲の監視下に置かれます。
 政府は国(と米国)からの要求で同制度の導入を急いでいますが、これは報道や国会による行政監視一層困難にするもので、国民の知る権利が大きく侵害されるだけでなく、基本的人権や国民主権、平和主義という日本国憲法の基本原理を根底から覆す危険な法案です。
 しんぶん赤旗の3つの記事を紹介します。
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経済秘密保護法案ここ問題 身辺調査・刑事罰の対象 一挙拡大
民間社員や研究者、果てはメディア記者や市民運動まで標的に
                    しんぶん赤旗日曜版 2024年4月7日号
 経済秘密保護法案(重要経済安保情報保護法案)が国会で審議されています。問題点をジャーナリストの青木理さんに聞きました   田中倫夫記者

ジャーナリスト 青木理さんに聞く
              あおき・おさむ=1966年生まれ。共同通信記者を経て、フリーのジャ
            ーナリスト、ノンフィクション作家。『日本の公安警察』『日
            本会議の正体』など著書多数。新著に『時代の反逆者たち』
            (河出書房新社)
 経済秘密保護法案を一言でいえば、特定秘密保護法(2013年成立)の大幅強化・拡大版です。特定秘密保護法が対象とする「秘密」は①防衛 ②外交 ③スパイ防止 ④テロ対策 -の4分野。その指定は時の政府が行い、市民には何が秘密かも秘密という不透明さで、刑事罰付きの秘密保持義務を課されるのは主に公務員でした。
 それが今回は「経済安全保障」にかかわる「重要情報」を政府が指定し、秘密保持義務を課される対象は大を問わぬ民間企業の社員、技術者、研究機関や大学の研究者などへと一挙に広がります。防衛関連産業などはもちろん、重要インフラやサイバー、人工知能(AI)、先端半導体等々、民生と軍事の両目的に使用できる技術-デュアルユース(軍民両用)の分野も対象となる。
 しかも「秘密」の具体的な範囲が示されていないため、対象は際限なく広がりかねず、「漏洩(ろうえい)」者には最大5年の拘禁刑が科され、その「教唆」や「共謀」も処罰されます。ならばメディア記者や各種の市民運動まで刑事罰に問われかねません

病歴や酒癖も
 もう一つ大きな問題は、「セキュリティークリアランス」(適性評価)制度を導入し、「秘密」情報を扱える民間人、技術者、研究者らを調査・選別することです。
 特定秘密保護法も同様でしたが、相当機微なプライバシーが調べられます。犯歴や精神疾患などの病歴に加え、借金などの経済状況や酒癖、さらには配偶者や家族、同居人の身上や国籍まで調査対象とされます。
 特定秘密保護法の際の議論では、配偶者が米国籍なら問題ないが、中国籍や朝鮮籍だったりするとアウト、などという話が政府関係者から伝わってきました。明白な国籍差別、人権侵害です。
 調査には本人同意が必要、といいますが、たとえば企業や研究機関の社員が「適性評価を受けてくれ」と言われて断れますか? 断ったら担当を外されるかもしれない。結果的に優秀な技術者、研究者が排除され、自由な企業活動や研究開発がシュリンク(縮小)していくことにもなりかねません。

公安の活動に。お墨付き″
 特定秘密保護法と同様、この法案は警察庁警備局を頂点とする公安警察の活動に新たな権限、相当に強力な武器″が与えられることにもなります。
 従来は公安警察が一般市民のプライバシーをむやみに調べれば批判されるので隠密にやっていた。私が30年近く前に公安警察を取材していた当時、彼らは中央省庁の幹部などはもちろん、基幹産業の内部に「共産主義者」や「左翼」がいるかをひそかに調べていました。事件や犯罪の嫌疑もないのにです。ある意味で法的にグレーな活動でした。
 今回の法案はそれに公的なお墨付きを与え、グレーな活動を合法的」に堂々とやれることになります。
 今度の法案も何が秘密なのかわからず、メディアや市民団体にとってはいつ地雷″を踏むかわかりません
 何が秘密かがわからず、「知りたい」「教えてくれ」と聞きまわれば、それが秘密漏洩の教唆」や「共謀」になりかねない。国民の知る権利や市民運動が制限されてしまいかねないのです。

冤罪が横行 経済活動脅かされる
 今回の法案の露払い役″になったのは、内閣に設置された「セキュリティ・クリアランス制度等に関する有識者会議」です。昨年秋の答申に沿って法案は作成されました。
 会議のメンバーには北村滋・元国家安全保障局長がいます。故・安倍晋三氏の最側近で公安警察の外事部門を歩んだ人物です。同氏は最近、『外事警察秘録』という本を出しました。そこでは、特定秘密保護法成立のためにはメディア対策が大事だ″として「読売」主筆代理らに「反対の論陣を張らないでくれ」と頭を下げにいったということが公然と書かれています。
 経済安保」の動きをめぐっては、警視庁公安部の信じがたい暴走も起きています。「大川順化工機」事件です。優秀な技術を持つ同社が中国や韓国に化学機器を不正輸出した、と社長らが逮捕され、1年近くも勾留され、しかし初公判直前に検察が起訴を取り消す醜態を演じた冤罪(えんざい)事件です。
 その背後には「経済安保」の旗を振るなか、組織拡大をもくろむ外事部門の存在意義をアピールしたい公安警察の思惑がありました。こんな事件が横行すれば、日本の産業を支えてきた中小企業や技術開発がつぷされてしまいかねません。

 時の政権と警察の一体化が強まり、この十数年で特定秘密保護法や共謀罪法、通信傍受法(盗聴法)の大幅強化など、かねてから公安警察が欲しくてたまらなかった治安法が続々と整備されています。こうした「警察国家」化と防衛費の倍増など「軍事大国」化への動きはもちろん表裏一体、同時進行的なものと捉えて批判の目を注ぐべきです。


経済秘密保護法案 成立急ぐ政府・与党 米・財界が望む武器商人国家に
                        しんぶん赤旗 2024年4月4日
塩川衆院議員に聞く
 「秘密の範囲」を経済分野にまで拡大する経済秘密保護法案(重要経済安保情報法案)。政府が秘密を指定し、国民への身辺調査=「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」も行うという重大な法案ですが、政府・与党は来週にも衆院での採決を狙っています。日米の軍事一体化を背景にした同法案の危険性について、日本共産党の塩川鉄也衆院議員(党国会議員団内閣部会長)に聞きました。(田中智己)

秘密指定 際限なく拡大
 経済秘密保護法案とはどんな法案なのでしょうか。
 同法案は、何が「秘密」なのか、国民には一切知らせないまま、政府の一存で「秘密」指定する秘密保護法と同じ法体系です。重大なのは秘密の範囲を経済分野にも拡大することです。その範囲は経済安保推進法の基幹インフラ(電気、ガス、水道、運輸、通信など14分野)や重要物資(半導体など)より広く、秘密保護法制に新たに組み込まれる食料なども含みます。
 意図していなくても秘密に触れたり、情報漏えいした場合、5年以下の拘禁刑、または500万円の厳罰が科されます。漏えい未遂、過失、共謀、教唆、扇動、取材などで秘密を取得する行為も処罰対象です。
 秘密指定された情報は、国民の代表である国会議員にすら明らかにされません。報道や国会による行政監視は一層困難となり、国民の知る権利への侵害がより深刻化していくことは明らかです。
 秘密を扱う人は民間労働者、技術者、研究者などへと、秘密保護体制が際限なく拡大できることも重大です。

強制的調査 生涯監視も
―「セキュリティー・クリアランス(適性評価)制度」の問題点とは?
 今回とくに重大な論点となっているのが、「セキュリティー・クリアランス制度」の導入です。「秘密」を扱う人に対する身辺調査として、政治的思想、精神疾患などの病歴、借金などの信用情報といった機微な個人情報を根こそぎ調べ上げるものです。家族や同居人の氏名、国籍、住所なども家族本人の同意なく調査されます。秘密保護法に基づく「適性評価」として、公務員を中心に約13万人がすでに対象となっています。本人に回答の提出を求める質問票は30ページに及び、海外渡航歴やそううつ病の治療歴、家賃の滞納状況まで書かせます。上司による回答も求めており、変更事項がある際には「速やかな」報告が必要です。継続的な監視を行うということです。これが民間労働者にまで大きく拡大することになります。
 調査は本人同意を前提としていますが、拒否すれば職場などで不利益を被る恐れがあり、事実上の強制です。しかも、本人や上司などから提出された調査票に疑問が生じれば、再調査や警察、公安調査庁を含む公的機関や医療機関などへの照会なども行うとしています。何重にもチェックする仕組みがつくられます。
 政府は収集した情報は10年の保存期間後に廃棄するとしていますが、照会情報を削除するための規定は設けていません。政府が本当に情報を廃棄したのか、確かめるすべもなく、保管し続けることもできます。一度でも秘密に触れた人は、秘密を漏らしていないか生涯監視が続く恐れがあります。思想、良心の自由、プライバシー権を踏みにじる憲法違反そのものです。

武器輸出・共同開発狙う
 次期戦闘機など国際共同開発をめぐる武器輸出との関係は?
 岸田政権は英国、イタリアと次期戦闘機の国際共同開発を進めています。先月26日には共同開発した次期戦闘機の第三国輸出を解禁するため、「防衛装備移転三原則」の運用指針を改定しました。
 岸田首相は「セキュリティー・クリアランスは、同盟国・同志国との円滑な協力のために重要」だと述べています。日米同盟のもと、2014年に集団的自衛権の行使を可能とする流れの中で、日米の軍事一体化が進められ、米国要求に応える形で秘密保護体制を構築してきました。今回は、英国等も含めた同盟国・同志国との連携強化を図ることが最大の狙いではないかとも見ることができます。
 駐日英大使のジュリア・ロングボトム氏は、毎日新聞(2月14日付)への寄稿で、次期戦闘機の共同開発を進める「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」に関連して、「セキュリティー・クリアランス制度」は「機密技術の共同開発を促進するために欠かせない」と語っています。こうした発言を背景に考えると、政府は武器輸出の推進や連携強化を念頭に、英国からの要求で、政府は同制度の導入を急いでいるのではないかと思います。
 日本国内の財界からも「相手国の国防省関係の業務獲得・円滑化のためにはクリアランスが必要」との声があがっています。英伊との次期戦闘機や、米国との極超音速兵器を迎撃する滑空段階迎撃用誘導弾(GPI)の共同開発に加えて、極超音速兵器やAIの共同開発を柱とする米英豪の安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」との協力が進められることも報じられています。

 米国など同盟国・同志国と財界の要求に応えて、殺傷性のある兵器の共同開発・輸出を進め、日本を「死の商人国家」にしようという法案の正体を追及していくことが、今国会の大きな焦点の一つです。基本的人権や、国民主権、平和主義という日本国憲法の基本原理を根底から覆す危険な法案を成立させてはなりません。国民世論を結集し、廃案へ追い込むことが絶対に必要です。