2024年4月13日土曜日

日米共同声明 日米軍事同盟の歴史的大変質(植草一秀氏)

 岸田首相は10日(日本時間11日未明)、ホワイトハウスでバイデン米大統領との首脳会談に臨み共同声明を発表しました。共同声明は、米国が岸田政権が進めてきた軍事費の2倍化や敵基地攻撃能力の保有などを「歓迎」した上で、(1)米軍・自衛隊の指揮統制の枠組み強化 (2)米英豪の枠組み「AUKUS」への軍事協力 (3)武器の共同開発・生産の拡大  など、日米同盟のさらなる強化を謳いました。

 声明は、敵基地攻撃能力の保有をはじめ、岸田政権が憲法を蹂躙し強行してきた数々の安全保障政策の大転換を持ち上げ、今後も、米軍と自衛隊の「切れ目のない」統合など、憲法破壊の一層危険な政策を推し進めていくことを表明しました。
 声明は、米軍と自衛隊の「作戦及び能力の切れ目のない統合を可能」にするために「それぞれの指揮・統制の枠組みを向上させる」と明記しました。それは米軍と自衛隊を事実上統合し、日本が導入を決めた敵基地攻撃能力の共同運用などを進めるという意味に他なりません。
 岸田首相は、「米軍と自衛隊の指揮系統はそれぞれ独立している」と繰り返しますが、情報でも、装備でも、圧倒的に優越的な力を持つ米軍と「切れ目のない統合」をはかるならば、対中国軍事戦略を推進する米軍の事実上の指揮下に自衛隊が組み込まれるのは明らかで、 日本国憲法と相いれない日米軍事同盟の歴史的大変質です。
 声明が、対中国の軍事的抑止をはかる軍事同盟である「AUKUS」と日本が先端軍事技術での協力の検討を宣言したことは重大で、軍事ブロック的対応の拡大は、地域における軍事的緊張と対抗を激化させ悪循環を招く危険な道です。
 日米共同で「日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議(DICAS」を開催し、ミサイルの共同開発、共同生産を進めることを宣言したのも重大で、「平和国家の理念」を投げ捨て米国従属のもとでの「武器輸出国家」への道を歯止めなく進もうとするものです。

 何よりも、戦争国家である米国に追随してこれほど露骨に米国の中国包囲網の一員になることを表明することは、憲法9条を持つ日本が採るべき道ではありません。
 日本共産党の田村智子委員長は11日、国会内で記者会見し、「日米軍事同盟の歴史的大変質に抗議する」とした談話を発表しました。
 しんぶん赤旗の3つの記事を紹介します。
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(主張日米首脳共同声明 危険な安保大変質に未来なし
                       しんぶん赤旗 2024年4月12日
 岸田文雄首相とバイデン米大統領は10日、米ワシントンのホワイトハウスで会談し、「日米首脳共同声明」を発表しました。
 共同声明は、敵基地攻撃能力の保有をはじめ、岸田政権が憲法の平和主義をじゅうりんし強行してきた数々の安全保障政策の大転換を持ち上げ、今後も、米軍と自衛隊のシームレスな(切れ目のない)統合など、憲法破壊の一層危険な政策を推し進めていくことを表明しました。
 声明のタイトルは「未来のためのグローバル・パートナー」ですが、それが指し示す方向は、アジア太平洋地域の分断と軍事的緊張を激化させ、平和と安定を脅かす未来なき道です。

■戦争国家化を加速
 今回の岸田首相の訪米は、米国の招待による国賓待遇での公式訪問です。日本の首相としては、2015年4月の安倍晋三氏以来9年ぶりです。両氏の公式訪米はいずれも、戦後日本の安保政策を大転換したさなかに行われ、「戦争国家づくり」をさらに加速する跳躍台となっています。

 安倍氏の公式訪米は、歴代政府が憲法違反としてきた集団的自衛権の行使を認める閣議決定(14年7月)の翌年でした。安倍氏は首脳会談や米議会での演説で、閣議決定に基づき、海外での米軍の戦争に自衛隊が参戦することを可能にする安保法制=戦争法の成立を誓約しました。
 岸田氏の公式訪米も、歴代政府が違憲としてきた敵基地攻撃能力の保有などを盛り込んだ安保3文書の閣議決定(22年12月)を受けたものです。
 米国のエマニュエル駐日大使は岸田氏の国賓待遇での米国招待について、安保3文書に明記された軍事費の国内総生産(GDP)比2%への増額や敵基地攻撃能力の保有、そのための米国製巡航ミサイル・トマホークの購入を挙げ、「岸田政権は2年間で、70年来の(日本の安全保障)政策の隅々に手を入れ、根底から覆した」と述べています(「産経」5日付)。

 実際、共同声明も、安保3文書に基づく「防衛力の抜本的強化」の取り組みが「日米の防衛関係をかつてないレベルに引き上げ、日米安全保障協力の新しい時代を切り拓(ひら)く」などと強調しています。

■阻止の国民運動を
 重大なのは、共同声明が日米同盟をさらに危険な段階に引き上げ、大変質させようとしていることです。
 岸田政権は、安保3文書に基づき、陸・海・空自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を24年度中に創設します。これを踏まえ、共同声明は、「日米同盟をさらに前進させる」とし、米軍と自衛隊の作戦や能力をシームレスに統合し、平時でも有事(戦時)でも共同して計画を練り、一体となって動けるように、「それぞれの指揮・統制の枠組みを向上させる」と表明しました。

 狙いは、米軍が進める対中国軍事戦略に、長距離ミサイルなど敵基地攻撃能力を持ち、南西地域での態勢強化を図る自衛隊を組み込むことです。平時から自衛隊が米軍の指揮下に置かれ、有事になれば有無を言わさず動員される危険があります。急加速する「戦争国家づくり」阻止の国民的な運動が求められます。


日米軍事同盟の歴史的大変質に強く抗議する
                       しんぶん赤旗 2024年4月12日
日本共産党 田村委員長が談話
 一、4月10日に行われた日米首脳会談は、日米軍事同盟の歴史的大変質を宣言するものとなった。
 共同声明は、米側が岸田政権による軍事費倍増や「敵基地攻撃」能力の保有を「歓迎」したうえで、「作戦及び能力のシームレスな統合を可能」にするため「それぞれの指揮・統制の枠組みを向上させる」と明記した。
 岸田首相は、「米軍と自衛隊の指揮系統はそれぞれ独立している」と繰り返しているが、情報でも、装備でも、圧倒的に優越的な力を持つ米軍と、「作戦及び能力のシームレスな統合」をはかるならば、自衛隊が、対中国軍事戦略を推進する米軍の事実上の指揮下に組み込まれることになることは明らかである。
 これは日本国憲法と絶対に相いれない日米軍事同盟の歴史的大変質であり、断じて許すことはできない。

 一、日米共同声明で、米英豪による対中国の軍事的抑止をはかる事実上の軍事同盟である「AUKUS(オーカス)」と日本が先端軍事技術での協力の検討を宣言したことは重大である。軍事ブロック的対応の拡大は、地域における軍事的緊張と対抗を激化させ、悪循環を招く危険な道であり、わが党は強く反対する。

 一、日米共同声明は、岸田政権がこの間、殺傷武器の輸出拡大を強行したことを「歓迎」し、日米共同で「日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議(DICAS)」を開催し、ミサイルの共同開発、共同生産を進めることを宣言した。
 これは、武器の輸出を「国是」として全面的に禁止してきた「武器輸出三原則」が根本理念としてきた「国際紛争の助長を回避する」という「平和国家の理念」を根底から投げ捨て、米国従属のもとでの「死の商人国家」への道を歯止めなく進もうというものであり、憲法にてらして絶対に許されるものではない。

 一、日米共同声明で、日米同盟の抑止力を理由に、沖縄県辺野古新基地建設を「唯一の解決策」として強行することを明記したことは、沖縄県民多数の意思に反するものであり、断固として抗議する。

 一、いま求められているのは、東アジアの軍事的緊張を激化させる“戦争の準備”ではなく、外交による“平和の準備”である。日本共産党は、「外交ビジョン」で、東南アジア諸国連合(ASEAN)と協力し、地域のすべての国ぐにを包摂する枠組みを強化し、東アジアに平和を創出していくという、憲法9条を生かした外交提言を行っている。今回の日米共同声明ではASEANの取り組みへの支持を打ち出しているが、そうであるならば軍事的対応の強化でなく、9条にもとづく平和外交にこそ力をそそぐべきである。

 軍事同盟強化や大軍拡をきっぱりとやめ、外交による平和創出に徹することこそ、平和をつくる希望であり、日本共産党はそのために全力をあげる決意である。


日米首脳会談 対中覇権争い本格動員
                       しんぶん赤旗 2024年4月12日
 10日(日本時間11日未明)の日米首脳会談では、膨大な軍事協力が盛り込まれ、日米軍事同盟の歴史的な大変質が打ち出されました。中国との覇権争いに勝利するため、「グローバルパートナー」と称して日本を主力に位置づけ、本格的に動員する狙いです。

指揮統制 シームレスな統合 可能に
 最重要項目に位置づけられたのが、米軍・自衛隊の司令部機能の強化です。
 会談後に発表された共同声明は「作戦及び能力のシームレス(切れ目のない)な統合を可能にし、平時及び有事における自衛隊と米軍との間の相互運用性及び計画策定の強化を可能にするため」として、「それぞれの指揮統制枠組みを向上させる」としています。
 具体的には5月末の日米安保協議委員会(2プラス2)で決定されます。日本政府関係者は「(現段階で)詳細は差し控える」としていますが、自衛隊の部隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」の発足(2025年3月)に合わせ、ハワイのインド太平洋軍司令部や在日米軍司令部の機能強化が検討されているとみられます。
 日米は06年、既に米軍・自衛隊の司令部間の連携を進める「共同統合作戦調整センター(BJOCC)」を設置。さらに15年、「戦争司令部」とも言われた「同盟調整メカニズム」(ACM)が設置されましたが、今回の「枠組み向上」で狙われているのは、「調整」にとどまらないレベルの連携だということです。
 そのキーワードとなるのが「シームレスな統合」です。これは、「平時」から「有事」まで、あらゆる段階で切れ目なく、事実上、一つの軍隊として行動することを意味します。英紙フィナンシャルタイムズは「1960年の日米安保条約締結以後、最大の変更」だと指摘しています。
 林芳正官房長官は11日の記者会見で、「自衛隊と米軍はおのおの独立した系統に従って行動している。統合作戦司令部が米軍の指揮統制下に入ることはない」と説明しましたが、「シームレスな統合」を進める上で、自衛隊が装備面でも情報面でも圧倒的な実力を持つ米軍の事実上の指揮下に組み込まれることは不可避です。
 とりわけ、日本が導入を決めた敵基地攻撃能力の運用にあたり、攻撃目標を定めるための情報は米側に頼らざるをえません。
 重大なのは、米軍が想定する「有事」には憲法違反の集団的自衛権の行使にとどまらず国連憲章違反の先制攻撃まで含まれていることです。つまり、米側が「平時」から「有事」への移行を決定するのです。
 「シームレスな統合」が進み、事実上の統合司令部化が進んだ際、こうした戦争への動員を日本が拒否できるのか、あるいは拒否するのか―。日本はこれまで、米国の戦争に一度たりとも反対していない国です。

米英豪協力 分断と亀裂 さらに深刻化
 格子状の同盟」。今回の日米首脳会談を前に、エマニュエル駐日米大使はこう繰り返してきました。米国が中心に座り、それぞれの同盟国と関係を結ぶ「ハブ・アンド・スポーク」から、米国の同盟国同士の連携を強めるというものです。
 その具体化の一つとして、共同声明に盛り込まれたのが、事実上の軍事同盟である米英豪の枠組み「AUKUS(オーカス)」への日本の協力検討です。AUKUSの協力分野は、(1)オーストラリアへの原子力潜水艦配備 (2)人工知能(AI)や極超音速兵器、無人兵器など先端軍事技術  の二つの柱で構成されており、日本は(2)に関与します。さらに、日米英の共同訓練の定期化も盛り込まれました。
 「格子状の同盟」とは、中国包囲のための軍事ブロック網の強化に他なりません。日米がこうした対応をとれば、中国もロシアや北朝鮮などとの連携を強め、軍事ブロック化することは避けられません。世界の分断と亀裂をいっそう深刻化し、軍拡競争の悪循環を高める危険な動きです。

産業動員 「死の商人国家」の道 歩む
 共同声明はさらに、武器輸出のルールを定めた「防衛装備移転三原則」と運用指針の改定=殺傷兵器の輸出解禁を「歓迎」。日本の軍需産業を動員し、「日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議(DICAS)」を開催し、(1)ミサイルの共同開発・生産 (2)日本やグアムに前方展開している米艦船・航空機の日本での修理  などを進めることを盛り込みました。
 既に、運用指針改定の第1弾として、昨年末、米国に地対空誘導弾ペトリオットを輸出。こうした動きが加速し、日本が「死の商人国家」の道を歩むこととなります。また、米艦船の修理は、既に一部で民間委託されていますが、これを定期化することが検討されています。これにより、米軍の即応能力を高める狙いです。
 こうした動きのなかで、多くの民間技術者が米国などの機密情報に接する機会が増大します。先に述べたAUKUSへの協力を含め、軍需産業や技術者を米戦略に大規模動員する一連の動きが、「適性調査(セキュリティー・クリアランス)」を経済分野まで拡大する経済秘密保護法案を推進する大きな背景です。(竹下岳)

経済安保 先端技術 軍事動員を宣言
 「日米こそが世界の安定と繁栄に向けて国際社会をリードしていく」(岸田首相、9日の米国ビジネスリーダーとの昼食会)―。日米両首脳は、経済分野でも米国の覇権のために一体で取り組むことを確認しました。先端技術を軍事転用し、半導体や重要鉱物のサプライチェーン(供給網)を確保するなど経済安全保障政策を強化します。中国との対立を深める米国の軍事戦略に日本の学問や経済を組み込む狙いです。
 共同声明では、人工知能(AI)、量子技術、半導体など「重要・新興技術の振興および保護等によって日米の技術的な優位性を高めるとともに、我々の経済安全保障を強化する」と表明しました。本来、国民生活に資する先端科学・技術を軍事動員していくと宣言したものです。
 宇宙については、極超音速滑空兵器を探知・追尾するための衛星コンステレーション(小型衛星群)に関する日米協力を表明しました。「宇宙は、今や明白な戦闘領域である」(国防宇宙戦略)と位置づける米宇宙軍の指揮下でスパイ衛星の運用体制を強化します。
 AI・半導体の産業支援では、資金調達を含めて日米連携を強化しました。AIでは日米の大学が連携する新たな枠組みを提示。次世代半導体分野では、研究開発から人材育成まで日米の「共同技術アジェンダ(実行計画)」を策定します。非先端半導体分野では対中国を念頭に、他の同盟国と情報共有や政策調整を進め、「非市場的政策や慣行から生じる脆弱(ぜいじゃく)性に対処」すると強調しました。
 「経済安全保障」の名で学問と経済を軍事に動員し、中国との軍拡競争の悪循環にいっそうはまり込む危険な道です。世界経済に深刻な分断と対立をもたらしかねません。憲法を持つ日本は科学・技術の平和利用に徹し、その立場から米中双方に働きかけるべきです。

原発 破綻政策 固執する異常さ
 日米両首脳は原子力発電の推進を確認しました。ファクトシートによると、バイデン大統領は岸田政権の原発再稼働政策を「称賛」。電気出力30万キロワット以下の原子炉「小型モジュール炉(SMR)」などの導入に向けた取り組みを確認しました。
 小型と言っても、実現のめどが定かでなく、事故のリスクや処分の見通しもない「核のごみ」の発生など原発の本質は変わりません。昨年11月にはSMRを開発する米企業が国内の建設計画を中止したばかり。破たんした原発政策に固執する日米両政府の異常さが浮き彫りになっています。(日隈広志)