2024年4月1日月曜日

「マイナス金利に幕」で国民生活はさらに悪化する(孫崎享氏)

 孫崎享氏が掲題の記事を出しました。
 先日 日銀は2007年以来17年ぶりに金利をゼロ以上に引き上げ世界最後のマイナス金利に幕を降ろしました。

 しかし円安は一向に改善しないだけでなくむしろ進む傾向を見せています。その理由は明らかで、欧米の金利水準が約5%という中で、日本が金利を0~0・1%に上げたところでどうにもならないからです。日銀がその程度に金利を抑えざるを得なかった理由について孫崎氏は
金利の上昇は当然、物価高を起こす。その時、多くの労働者にとって、実質賃金は物価高に追いつかない。また年金も追いつかない。今以上に中間層が貧者に脱落し、豊かな者と貧者の格差が拡大するだろうし、本業の利益では借金の利払いができないゾンビ企業約25万社は倒産に追い込まれる(要旨)だけでなく、現行予算の22・6%を占める国債の利払い額が更に急上昇する」からと述べています。

 要するに「あちらを立てればこちらが立たず」で身動きがとれないということで、当初からの「異次元緩和は軟着陸ができない」という指摘がついに現実の問題となったということです。
 しかもその大惨事が「軍事を倍増させる」という岸田政権の軍事強化政策の中で起きたのですから、この先庶民の生活がどんなに悲惨なことになるのか分かりません。
 責任は挙げて「アベノミクス」にありますが、岸田政権の軍備拡張政策はその傷をさらに広げる役目をしています。
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日本外交と政治の正体 孫崎享
「マイナス金利に幕」で国民生活はさらに悪化する
                     孫崎享 日刊ゲンダイ 2024/03/28
                        (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
<日本の中央銀行は火曜日(19日)、2007年以来、初めて金利をゼロ以上に引き上げ、長らく成長に苦戦してきた経済を刺激する積極的な取り組みの一章を終えた>(NYタイムズ紙)
日銀が17年ぶり利上げを決定、世界最後のマイナス金利に幕>(ブルームバーグ)

 日銀の「マイナス金利」政策転換について、複数の米大手メディアがこう報じた。
 長く続いてきた金融政策の歪みを正常化する動きは、日本経済にとって好ましいはずだが、19日のニューヨーク外国為替市場では、円はドルに対して一時、前日比12%安の1ドル150円96銭まで下落した。
 なぜ、こうした現象が起きたのだろうか。理解するには「マイナス金利に幕」の政策について、短期と長期に分けて考える必要がある。

 日銀は大きなショックを与えないため、短期的には、ほぼ現状維持の政策を取る。日銀が政策金利として「0~01%」と示した無担保コール翌日物金利は、マイナス金利政策下ではマイナス01~0%で推移してきている。つまり、実質利上げ幅は01%である。
 他方、米国のFRB(連邦準備制度理事会)が行ってきた変動は1回当たり025%であり、「マイナス金利に幕」の政策で大きな政策の変動を期待した層には、現時点の政策にあまり変化がないとの失望売りが出たわけだ。

 長期的にみると、どうなるか。「マイナス金利」という枠が取り払われた後は、日銀は将来、タイミングをみて必ず金利を上げてくる。その時、どうなるかが問題となる。
 金利の上昇は当然、物価高を起こす。その時、多くの労働者にとって、実質賃金は物価高に追いつかない。また年金も追いつかない。今以上に中間層が貧者に脱落し、豊かな者と貧者の格差が拡大するだろう。
 日経は<「金利なき社会」の弊害。本業の利益では借金の利払いができないゾンビ企業が約25万社ある。これで産業の新陳代謝が遅れる。金利の復活は日本経済に構造改革をもたらす>と報じた。

 高金利になれば、「ゾンビ企業約25万社」が潰れるのである。
 日本は国債発行額が10年で4割増え、今、1000兆円超である。
 22年度予算の226%を国債費が占める。金利が上がれば(利払いを含めた)国債費が増え、それを埋めるには社会保障費の減額や増税しかない。多くの国民が苦しい生活を余儀なくされるのである。

孫崎享 外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。