2024年4月20日土曜日

20- イスラエルの窮地(田中宇氏)/ウクライナにおける西側の敗北は予想以上に大きい

 シリアのイラン大使館が4月1日イスラエルに爆撃された報復として、イランは14日に、間接的に予告した上でイスラエルに限定的な報復攻撃をしました。
 それに対してイスラエルは19日にイランのイスファハンなどを「限定的な」空爆で報復しましたが、国内ではこの攻撃が弱すぎたという批判が上がっているということです。
 この件について田中宇氏が掲題の短い記事を出しました。
 田中氏は19日のイスラエルの反撃が抑制されていた理由は、イランを本気で大規模に攻撃してしまうと、イランからの本気の反撃を誘発し、あとに引けない全面戦争になりイスラエルが滅びるからと見ています。「もうイスラエルは、簡単にイラン側を攻撃できない。したら亡国のリスクに直面すると述べ、イランの軍事力はそこまで巨大になっているとしています。
 その一方で「イスラエルの方からゴルダ・メイア方式でそれを誘発した可能性もある」とも述べています(「ゴルダ・メイア」については文中を参照)。
 記事は「延々と書いて結論がうまくいかずボツにするのは馬鹿馬鹿しいので、とても短いけどここで配信してしまう」と結んでいますが、その辺のことを指しているのでしょうか。

 併せて「耕助のブログ」記事:「ウクライナにおける西側の敗北は予想以上に大きい」を紹介します。
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イスラエルの窮地
                 田中宇の国際ニュース解説 2024年4月19日
4月1日以来、イランとイスラエルが互いに攻撃し合っている。私は、この事態の意味を考えて書いてはボツにしているうちに無駄に時間が過ぎた。だから今回は、最初の4月1日の話から書かず、まずは4月19日にイスラエルがイランのイスファハンなどを空爆した件の分析をする。
この攻撃は、意外にショボいものだったようだ。イスラエルの過激な極右の閣僚ベン・グビール(Ben Gvir)は、この攻撃について「弱すぎだ」と不満を表明している。ネタニヤフ政権を握るリクード極右(入植者たち)は、もっと攻撃対象を増やすなど徹底的にイランを攻撃すべきだったと考えている。
Israel’s hawkish national security minister, Itamar Ben Gvir, just suggested he’s not happy with his country’s apparent response.

イランは4月14日の攻撃で、イラン本土からイスラエル本土を破壊できる攻撃力を持っていることを示した。この示威が攻撃の目的だった。イランは事前にアラブ諸国を通じて米イスラエルに攻撃の日程や対象を伝えて迎撃を許すなど手加減をしていた
4月19日にイスラエルがイランを思い切り攻撃していたら、次回イランは間違いなく、4月14日よりはるかに強く広範に、事前通告なしにイスラエルを攻撃する。より大きな破壊を受けたイスラエルはあとに引けなくなり、自滅的なイランとの全面戦争に入っていかざるを得ないUS call delayed Israeli ‘response’ to Iran attack - media

それを防ぐためネタニヤフは、4月19日のイラン攻撃を、与党内の極右から批判されるぐらい弱く小規模な範囲で挙行した。米バイデン政権はネタニヤフに反撃するなと加圧していたが、これは無視した。「必要な攻撃は米国に反対されてもやる」という態度を見せる必要があった(イスラエルは米国を見下すことで強い政治力を持てている)。
だが、イランを本気で大規模に攻撃してしまうと、イランからの本気の反撃を誘発し、あとに引けない全面戦争とイスラエル亡国(とイランの大破壊)を引き起こす。国土が広いイランは大破壊、狭いイスラエルは国家滅亡になる。イスラエルがレバノンみたいになり、テルアビブがガザみたいになる。これはまずい。
だからネタニヤフは、イランに反撃したものの、イランが自重してくれてイスラエルを再反撃しない程度の限定的な攻撃にした。ということでないか。
Futures Tumble, Oil And Gold Soar On Reports Of "Huge Explosions" In Central Iran, Israeli Airstrikes In Iraq And Syria

イランが自重して再反撃を控えるかどうか、まだわからない。だが、もともと今回の相互攻撃で、悪いのはイスラエルの方だ。イランは悪くない。イスラエルは4月1日にダマスカスのイラン大使館の別館を空爆したが、戦時であっても大使館(外交施設)への攻撃は国際法違反だ。
イスラエルに対するイランの反撃は、国際法に沿った正当なものだった。ネタニヤフは、イランに正当性を与える失策をした(エジプトと和解するため中東戦争でわざと負けたゴルダ・メイア首相と同様の、意図的な失策だった可能性はある)。
Middle East redefined: Iran’s retaliatory attack on Israel signaled a major change in the region

イランは正しい。だから余裕がある。イランは、再度の反撃をせずに自重するのでないか(RTなどは、イランが再反撃しそうだと書いているが)。
イスラエルは米国の軍事力と諜報力を私物化して強かったので、これまでシリアやレバノンのイラン系の民兵団や軍事施設を好き放題に攻撃してきた。イラン側は、イスラエルに攻撃されっぱなしだった。
だが、今後は多分違う。4月14日のイランからイスラエルへの攻撃が、すべてを変えた。もうイスラエルは、簡単にイラン側を攻撃できないしたら亡国のリスクに直面する
イランとしては、イスラエルをそのような状態に陥れたことで、とりあえずの目的を達成している(イスラエルの方からゴルダ・メイア方式でそれを誘発した可能性もある)。IAEAも急にイランの味方をしはじめた。プーチンが満足そうに含み笑いしている。
Is all-out war in the Middle East now inevitable?)(‘No evidence’ Iran developing nuclear weapons - IAEA

延々と書いて結論がうまくいかずボツにするのは馬鹿馬鹿しいので、とても短いけどここで配信してしまう Last Weekend, Iran Changed Everything


ウクライナにおける西側の敗北は予想以上に大きい
                 耕助のブログNo. 2121 2024年4月18日
  The Magnitude of Western defeat in Ukraine is higher than expected
                           by Salman Rafi Sheikh
欧州は絶望の淵に立たされている:NATOの『強大な』力にもかかわらずウクライナで負けているのだ。そして 欧州の指導者たちは今、ウクライナでロシア軍と戦うために自国の軍隊を派遣することを含め、「より強力な」対応をとることを誓っている。しかしこの決定が最終的に下されたとして、ウクライナの緩慢な没落に意味のある変化をもたらすかどうかは疑問である。ウクライナの没落の規模は大きく、西側諸国が備蓄している武器弾薬は枯渇しており、それを補充するのがすでに困難になっているからだ。一方ロシアは、より多く、より優れた兵器システムの生産に関してすでに西側のライバルを凌駕している。ガーディアン紙の記事{1}は、「ロシアの兵器生産は欧州の戦争計画者を悩ませている」と指摘している。
EUのリーダー、ジョゼップ・ボレルは最近、EUの同盟国から、既存の在庫から2年間、高強度の武器が供給された後、欧州各国の既存の在庫が枯渇し、「紛争は在庫戦争から生産戦争へと発展した」と指摘した。つまり同報告書が示すように、明らかにロシアが勝利している。
この情報は現在公開されており、最近リークされた国防総省の文書とともに、ウクライナにおけるロシア優位という現実を強めている。プロパガンダにもかかわらず、これらのリーク文書{2}はペンタゴンがウクライナにおけるロシアの損失は、米政府高官が公言している損失よりもはるかに少ないと考えていることを示している。例えば、公に発表された様々な見積もりとは対照的に、ロシアは約20万人の兵力を失ったと言われている。しかし、2024年2月と3月の国防総省の文書では、その数字はわずか17,000人程度となっている。このようなプロパガンダの規模と、NATOの拡張計画の崩壊をめぐる恐怖の大きさから、西側諸国は現在、ロシアとの戦争に資金を提供するために、押収したロシアの資産をウクライナに引き渡す措置をとっている。おそらく、彼らは十分な資金も使い果たしているのだろう
フランスの新聞社の調査{4}によれば(多くの公式レポートを参照したとしている)、状況は危機的であり、多くのフランス軍関係者は「チアリーダー」のフランス軍は強面のロシア軍と戦うことはできないと、ウクライナにフランス軍を派遣する考えを嘲笑している。しかしフランスは例外ではない。ほとんどの欧州の軍隊はこのような状況を共有しており、現役のハードウェアはほとんどなく、提供できる兵力も少ない{5}。確かに、欧州はすべてを参入させることはできない。大陸そのものを無防備にしてしまうからだ。

ロシアが欧州を攻撃する可能性は極めて低いが、欧州が挑発すればこのシナリオは変わるかもしれない。しかしウクライナにおけるロシアの軍事作戦がNATOの拡大という西側の要請によって行われたという事実を考慮すれば、この拡大を阻止するロシアの成功は、その目的にかなうものである。しかし西側諸国にとっては、ウクライナでのロシアの勝利は別の意図で気に入らない。彼らは公には、ロシアの勝利はヨーロッパでのより広い戦争につながると話しているが、現実にはロシアの勝利は第二次世界大戦後の世界政治における西側の覇権の終焉を刻印することになるだろう。西側諸国はもはや世界の万能の「中心」ではなくなるのだ。

地政学的に、西側諸国は過去数十年間やってこれたように世界政治に口を出すことができなくなるだろう。経済的には、米ドルは金融の覇権を失うかもしれない。ウクライナでのロシアの勝利は、ロシアが欧米主導の金融システムを迂回する能力を持つことを意味するからである。もし西側がもはや世界的な金融システムを制御できなくなれば、自動的に代替システムが繁栄し、中心的な意義を持つ空間が作り出される。このシナリオは、新たな代替国際秩序の必然性に非常に良い兆候となる。
西側諸国、とりわけ「自由世界」のリーダーを自任する米国にとって、これは非常に困った状況である。ワシントンの2024年年次脅威評価{6}は、この不安が危機的なレベルに達していることを示している。そこでは、「モスクワは、自国の利益を促進し、米国とその同盟国を弱体化させようとするためあらゆる国力を行使し続け、世界における米国の優位性に挑むだろう」としている。そして報告書は、「モスクワが主に海上輸送される石油輸出のほとんどを成功裏に転送し、おそらく2022年12月および2023年2月にそれぞれ発効したG-7主導の原油および精製製品価格の上限を大幅に上回る量を販売している。これは、ロシアが海上輸送される石油輸出の大部分を転送するための非西側のオプションの利用を増やしていること、および昨年の世界的な石油価格の上昇のための一部である」と認めている。

2024年評価報告書によれば、ロシアは「エネルギーの影響力」を維持できているため、ウクライナでの軍事作戦の資金調達に関しては何の問題も直面していないことになる。実際、報告書は、紛争が続いているにもかかわらず、ロシアが公共支出を増やす能力があることも認めている。
これが2年連続でロシアとの戦争に資金を提供した後の西側の評価である。論理的に考えれば、このような評価が恐怖と絶望感を煽り、そのため欧州の一部のリーダーはウクライナへのNATO軍派遣を推進しているのだ。単なる脅しに過ぎないかもしれないが、敗北感の高まりと「西側の世紀」の終わりが始まったという明確な実感を示している。

Links:
{1}https://www.theguardian.com/world/2024/feb/15/rate-of-russian-military-production-worries-european-war-planners 
{2}https://apnews.com/article/leaked-documents-classified-russia-ukraine-e351c6613e69bf8d714b03e367543da8 
{3}https://www.wsj.com/world/europe/europe-will-tap-frozen-russian-assets-for-ukraine-arms-germanys-scholz-says-659ed672 
{4}https://www-marianne-net.translate.goog/monde/europe/guerre-en-ukraine-endurance-russe-echec-de-la-contre-offensive-ce-que-cache-le-virage-de-macron?_x_tr_sl=fr&_x_tr_tl=en&_x_tr_hl=en&_x_tr_pto=sc 
{5}https://www.wsj.com/world/europe/alarm-nato-weak-military-empty-arsenals-europe-a72b23f4 
{6}https://www.dni.gov/files/ODNI/documents/assessments/ATA-2024-Unclassified-Report.pdf

https://journal-neo.su/2024/03/29/the-magnitude-of-western-defeat-in-ukraine-is-higher-than-expected/