東奥日報は19日の社説で、安倍首相が国会提出に意欲を見せている「特定秘密保全法案」は、「情報統制国家へとかじを切る危険な法案」だと述べました。
そして同法案には書ききれないほど多くの問題があるが、秘密保護の対象に「国の安全」「外交」に加えて「公共の安全および秩序の維持」を盛り込んだのは大変な問題で、それが加わると秘密保護の対象が「無限定」になって政府にとって不都合な情報がすべて対象になりかねないとしています。
それでなくても秘密保全法が制定されれば、たとえばTPP問題も外交上の秘密事項にされて議論自体ができなくなる可能性があり、「一旦制定されれば同法の廃止を求める動き自体が監視の対象になり得るので、二度と元には戻せなくなり取り返しが付かないことになる」と結んでいます。
以下に東奥日報の社説を紹介します。
参考記事:2012年11月7日「『秘密保全法』案が動き出そうとしています」
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【社説】 日常生活も縛られる危険/秘密保全法案
東奥日報 2013年4月19日
安倍晋三首相が16日の衆院予算委員会で「特定秘密保全法案」の国会提出に意欲を示した。だが、世耕弘成官房副長官は同日の記者会見で、法案の具体的な内容や提出時期は「詰めている最中なので答えられない」と返答を避けた。国会提出に言及する段階に来てもなお、法案作成の過程も法案も明らかにしない。この一事を見ても、情報統制国家へとかじを切る危険な法案であることが分かる。
同法案は2010年9月に沖縄県の尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件のビデオ流出を契機に、民主党政権で議論が開始された。同政権は国会提出を見送ったが、安倍政権が国家安全保障会議(日本版NSC)の創設に向け復活させた。
尖閣問題などの外交情勢に鑑みれば、一見、必要な法案にも思える。また、私たちの日常生活が縛られることはないようにも思える。だが、実はどちらも違う。
防衛、外交の秘密保持法令は既にある。国家公務員法、自衛隊法、MDA秘密保護法(日米相互防衛援助協定などに伴う法)などだ。なるほど、尖閣ビデオ事件は起訴猶予になったが、それは当該ビデオが必ずしも秘密に当たらないからで、漏えい防止へ、格段に厳しい新法を制定する理由にはならない。
同法案には、ここでは書ききれないほど多くの問題点がある。例えば、重要な秘匿情報として指定する「特別秘密」に、「国の安全」「外交」のほか、過去の同種法案にはない一項が加わったこと。「公共の安全および秩序の維持」だ。
これでは事実上、「特別秘密」の範囲が無限定になる。政府にとって不都合な情報や、原発や公害など生活に関わる情報を引き出そうとするだけで、処罰されかねないのだ。
防衛や外交分野も日常生活と無縁ではない。軍事にも使えると知らずに、会社の技術を家族に話したらどうなるか。環太平洋連携協定(TPP)交渉の中身も、外交秘密として非公開になる恐れはないか。
国家公務員法の守秘義務違反が「1年以下の懲役」であるのに対し、公務員の「特別秘密漏えい」が懲役10年以下など、処罰も著しく重くなる。しかも、故意の漏えいだけでなく、過失漏えいも、あるいは未遂・共謀・教唆・扇動行為も禁止となる。一般国民までがんじがらめだ。
「特別秘密」を指定するのは国であり、何が指定されたか国民は詳しく知ることができない。政・官が都合がいいように情報操作でき、同法の廃止を求める動き自体が、監視の対象になり得る。パンドラの箱のように、開けたら二度と元には戻せない。この法案の底知れぬ怖さはそこにある。
1985年、自民党議員が提出した国家秘密法案(スパイ防止法案)は野党の猛反発を買って廃案になった。野党が弱体化した今、いったん法案が提出されれば、成立阻止は比較にならないほど困難だろう。法案提出の前に国民が声を上げなければ、取り返しが付かないことになる。