2024年3月14日木曜日

生活保護「水際作戦」は桐生市だけじゃなかった・・・(東京新聞)

 生活保護制度は憲法25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」に基くもので 政府の義務であり国民の権利です。
 日本では本来生活保護を受けるべき人たちの2割(捕捉率)しか受給していません。海外での生活保護受給世帯の比率はドイツ9・7%、イギリス9・3%、フランス5・7%であるのにに対して、日本は僅かに1・6%に過ぎません17年ベース)。
 これは別に国民が豊かだからではなく、この異常な低さは福祉担当部署における「生活保護の水際作戦」(=生活保護の申請に来た市民に対し申請書を交付せず追い返す)によるもので、新自由主義路線を敷い小泉・竹中政権の時に生れました。
 この「水際作戦」は国民の権利を奪うもので決して許されませんが、自民党は在野時代の12年に生活保護給付水準を10%削減する案を作り、同年末の総選挙で政権に返り咲くと、すぐさま13年に平均6・5%、最大10%という過去最大の給付水準引き下げを強行しました。世耕弘成議員や片山さつき議員が生活保護バッシングの論陣を張って、唯さえ生活保護を受けることを潔しとしない風潮を助長しました。
 自民党はさらに生活保護申請時に、親類縁者からの生活支援を受けられないことの証明を添えることまで求めています。
 
 群馬県桐生市の福祉担当部署は「水際作戦」を徹底しているところとして知られていますが、それは決して桐生市だけに留まるものではありません。
  23.12.30)5人がかりで怒鳴られ 生活保護の水際作戦 常態化 桐生市(しんぶん赤旗)
 東京新聞が、「生活保護水際作戦は桐生市だけじゃなかった…関係者が明かした申請書を渡さない手口の実態」(14日付)とする記事を出しました。
 福祉担当の職員らが生活保護の申請者を弱者と見做して、如何に非常識なことを口にして申請書の渡すことを拒んでいるかが分かります。ただ司法書士などの一定の資格を持つ人が同行すると渋々申請書を渡すところを見ると、いわゆる「水際作戦」が違憲・違法なものであることを自覚していることが分かります。

 東京新聞のもう一つの記事「生活保護費『1日1000円では生活できない』と訴えたのに…桐生市は『同意得て分割したという認識』」を併せて紹介します。

 なお東京新聞は、<砂上の安全網>シリーズ①~④(24年2月16日~19日)で、群馬県桐生市の生活保護申請者への冷淡で人権無視の対応を特集しているので、こちらは別掲の記事で紹介します。
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生活保護「水際作戦」は桐生市だけじゃなかった…関係者が明かした「申請書を渡さない」手口の実態
                         東京新聞 2024年3月14日
 群馬県桐生市で生活保護制度の不適切な運用が次々に発覚した問題。「1日1000円に分割して満額を支給しない」「預かった他人の印鑑を書類へ無断押印」など、違法性を強く疑われる対応が明らかになった。ところが、生活保護受給者の権利を侵害するかのような対応は「桐生市に限った問題ではない」という声が東京新聞に寄せられた。関係者が明かした「水際作戦」の実態とは。(小松田健一)

◆申請希望者に同行した市役所で門前払いに
 何がなんでも申請をさせないという意思を感じました。窓口で生活保護の申請書を渡さないんです」
 渋川市で社会福祉に関わる仕事に従事する大石雅美さん=仮名=は、かつて経験した、市側が申請を拒むいわゆる「水際作戦」の実態をこう語った。
 小さなまちのため、「自分が話せば周囲に迷惑がかかるのではないか」と証言することにためらいもあったという。しかし、「桐生市だけの特異事例ではないことを知ってもらうことで改善につなげたい」と、年代・年齢と性別、具体的な職業や勤務先を記事化しない条件で取材に応じた。
 大石さんは、体調不良などで生活に困窮した人の生活保護申請に同行することがある。「単独で申請しようとしても窓口で追い返されてしまうので、同行は必須です」と力を込める。

◆「却下されますよ」申請書を受け取るまでにも長時間
 初めて水際作戦に直面したのは2016年秋だった。障害があって就労困難な50代男性の申請に同行した際で、「まずは生活を見直すように」と窓口で門前払いだった。数日後に再び窓口を訪れ、職員と押し問答になり、1時間半が経過したころようやく申請書を持ってきたという。

 4年ほど前、病気入院中の別の男性の申請に同行した際は、入院前に親族と同居していたことを理由に申請を拒まれた。地域包括ケア課の職員が数人出てきて「申請しても却下されますよ」と告げられた。
 大石さんは「申請をいったん受理した上で、正式に審査してほしい」と再三主張し、市が申請書を受け取るまで30分を要した。後日に保護決定は出たものの、窓口での対応を「非常に威圧的に感じた。口調は丁寧だが、拒否の一点張りだった」と振り返る。

 「仕事をしていると受給できない」と、申請を拒まれたこともあった。実際は、就労中でも収入が国の定めた最低生活費を下回っていれば保護を受けられる。大石さんは「職員の恣意(しい)的な判断が横行しているように思います。利用希望者の多くは制度に関する知識が乏しいので、そこに付け込んでいる」と批判する。

◆渋川市役所は「申請権の侵害、確認できなかった」
 本紙の取材に対し、渋川市地域包括ケア課は「保存年限内の18年度までの相談記録を確認し、前任職員への聞き取りをしたが、申請権の侵害、または侵害と疑わしいケースは確認できなかった。県による監査でも特に問題となるような指摘は受けていない。生活保護は憲法で保障された権利であり、今後も丁寧な説明に努めたい」と回答した。
 大石さんへ市の見解を伝えると、首をかしげた。「私が経験したこととあまりに違いが大きい。水際作戦は現在も続いています

◆新型コロナに物価高…生活保護世帯はこの10年で最多に
 渋川市地域包括ケア課によると、23年度12月末時点で生活保護世帯は485世帯、利用者は537人。いずれもこの10年間で最も多く、コロナ禍や物価高、コロナの5類移行による国の支援策終了などで生活困窮者が増えているためとみられる。8割弱は高齢者単身世帯という。
 人口に対する利用者数の割合を示す保護率は毎年度0.6〜0.7%程度で推移している。2018年度末と23年度12月末時点の保護世帯、利用者の増加率を比較すると世帯が21.6%増、利用者は15.0%増で、いずれも県内12市で最も高い伸び率を示した。最も低かったのは桐生市で、それぞれ21.6%減、24.1%減だった。


生活保護費「1日1000円では生活できない」と訴えたのに…桐生市は「同意得て分割したという認識」
                          東京新聞 2023年11月21日
 群馬県桐生市が50代男性に、生活保護費を1日1000円ずつ手渡して満額支給しなかった問題で、男性が21日、市内で記者会見し「『1日1000円では生活できない』とケースワーカーに言っても、一方的に分割された」と主張した。男性側は、国家賠償請求訴訟を検討していることを明らかにした。

◆その日の求職活動を確認してから1000円手渡し
 男性は糖尿病を患い、生活に困窮して今年7月に生活保護を申請。8月に月約7万1000円の支給が決定した。市は男性に、毎日の求職活動状況を書面で提出するよう求め、ハローワーク担当者の押印が書面にあるのを確認後、1000円を手渡したという。
 金曜日は週末分を含め3000円、光熱費や携帯電話料金は請求書を提示すれば別途支給されたが、支給額は合計で8月が3万3000円、9月も3万8000円にとどまった。男性は司法書士と市福祉事務所を訪ね、未支給分を10月に受け取った

◆「桐生市の対応は自立を妨げる。国賠訴訟も検討」
 男性は「仕事を毎日探しても、パートタイムしか見つからなかった。ケースワーカーには『フルタイムの仕事に就かなければ、生活保護を打ち切る』と言われた」とも明かした。
 会見に同席した男性を支援している仲道宗弘司法書士は「市の対応は生活保護の目的である利用者の自立を妨げる。弁護士と相談し、国賠訴訟も検討している」と述べた。

◆未支給分、市は「預かったという認識」
 仲道氏は同日、群馬司法書士会として運用改善を市に申し入れた。市福祉課の小山貴之課長は取材に「受給者の事情に沿って対応している。本人の同意を得て分割し、決定額に満たなかった分を市が預かったという認識だ。申し入れは真摯(しんし)に受け止める」と話した。
 県健康福祉部は「未支給分があったのは問題で、日割り支給も生活に支障をきたし、不適切と考える。市に状況を確認したい」としている。(小松田健一)

◆あってはならない対応で人権侵害
 吉永純・花園大教授(公的扶助論)の話 仮に合意を得ていたとしても満額を支給しなかったのは、男性の最低生活費を侵害するあってはならない対応で、生活保護法違反の疑いが強く人権侵害だ。市は同法に基づく指導と主張するが、食うや食わずの状態での就労指導は問題だ。フルタイムの仕事に就かなければ支給を打ち切るというのも問題で、現在の雇用情勢だと50代では非常にハードルが高い。