2024年3月4日月曜日

04- 中国に棚ボタな紅海危機(田中宇氏)

 田中宇氏が掲題の記事を出しました。
 中東諸国がイスラエルによるガザ大虐殺に対し一致した反撃の行動がとれていない中で、唯一具体的に実力を行使してガザのパレスチナ人を応援しているのがイエメンのシーア派です。
 これに対して米国は英国などと有志連合を組んでイエメンを盛んに空爆しています(国連憲章違反)が、イエメンは弱小国でありなが敗けることはないと見られています。

 この米国(または有志連合国)対シーア派の戦争?は今年中に終わらず、来年も再来年も続きそうだということで、この間スエズ運河経由の紅海の航路を使えない西側諸国にとっては既に大変な経済的損失が生じているということです。。
 それにしても中東諸国には様々な立場があってこの時点でも、イスラエルに対して一枚岩になれないのは残念なことです。
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中国に棚ボタな紅海危機
                  田中宇の国際ニュース解説 2024年3月3日
「紅海危機」の長期化が必至になっている。この危機は、昨年10月から続くイスラエルによるガザの虐殺に対抗して、イエメンを統治するシーア派イスラム主義の武装政治組織であるフーシ派が11月以来、イエメン沖の紅海を航行するイスラエル友好諸国(英米欧)の船舶を無人機などで攻撃し続け、欧米のタンカーなど商船が紅海を通れなくなっている事態だ。
Reports Say Israeli Ship "Galaxy Leader" Hijacked By Houthi Terrorists
Houthi: Yemen to introduce ‘military surprises’ in Red Sea operations

米英軍が紅海に出向き、イエメンの海岸地帯のフーシ派拠点を攻撃しているが、ゲリラ出身のフーシ派の兵器の多くは可動式で逃げ足が早い。フーシ派の兵器は2-3割しか壊されていない。フーシ派は米軍の攻撃を乗り越え、昨年来50隻以上の紅海沖の欧米の商船を攻撃し続けている。 US strikes on Yemen won't solve anything
Houthis’ Offensive Capabilities Not Significantly Damaged by US Airstrikes

フーシ派によると、紅海を通るイスラエル友好諸国の船のほとんどを攻撃している。紅海の奥にあるイスラエルのエイラト港の扱い高が85%減った。紅海は、欧州から地中海、スエズ運河を通ってインド洋、アジア方面に向かう世界最重要の航路にある。世界の商船の3割が紅海を通るThe US and Israel face a powerful new enemy in the Middle East

フーシ派の攻撃で紅海危機が始まった後、紅海を通る欧米系の商船が激減した。欧米商船は紅海を回避し、アフリカの喜望峰回りを余儀なくされ、アジアへの航海にかかる日数が2週間ほど伸びている。
欧米系は、船の運賃や保険料が高騰し、商船の回転率が下がって船舶の確保が難しくなっている。年末年始には、欧亜間航路の運賃が3-4倍に値上がりした。運賃の高騰は、欧州のインフレに拍車をかけている。米国の貿易は紅海をあまり通らないので影響が少ない
Shipping rates via Red Sea surge by 310% amid region militarization
Red Sea crisis runs risks of new inflation

フーシ派は非米側の勢力だ。彼らが紅海で攻撃しているのは、欧米系の船だけだ。中国や印度、アラブ、ロシアなど、非米諸国の船は攻撃されていない
フーシ派は、中国やロシアの船を攻撃しないと正式に宣言している。1月にフーシ派がロシアのタンカーを誤爆してしまう事件があり、フーシ派はこれを誤爆と認め、露中の船を攻撃するつもりがないと表明した。Houthis Declare Safe Passage For All Russian, Chinese Ships In Red Sea)(Houthis mistakenly target tanker carrying Russian oil, security firm says

フーシ派は、2022年2月のウクライナ開戦で作られた米国側と非米側の決定的な対立構造の中で、非米側に味方し、米国側を潰そうとする動きをし続けている。そして、米軍はフーシ派の攻撃能力を潰せていない
フーシ派は今後もずっと米国側の船を攻撃し続け、米国側の船は紅海やスエズ運河の欧亜航路を通れない状況が続き、船賃が高騰したまま、欧州のインフレがひどくなる。スエズ運河の欧亜航路は非米側のためだけのものになっている。
これは、ウクライナ戦争の長期化で欧米の経済と覇権が自滅し、非米側の相対的な繁栄が大きくなり、世界の多極化と非米化に拍車がかかる構図と同期している
紅海危機は、ウクライナの戦争構造の一部になっている。米国中心の世界のグローバル経済体制は、フーシ派という一見ショボいゲリラ勢力によって壊されている。
How Yemen changed everything

フーシ派は、世界を多極化する作業に参加している。これは、偶然の結果なのか??。そうではない。フーシ派の後ろには、同じシーア派の大本山であるイランがいる。11月初めにイラン外相が「すべてのイラン系民兵団がイスラエルと戦う準備をしている」と表明した後、フーシ派が「イスラエルと戦う」と宣言して欧米船への攻撃を開始した。
Iran: Resistance groups fully prepared to counter any Israeli moves

イランは、1979年のイスラム革命以来、米国に敵視制裁されて戦ってきた筋金入りの反米勢力だ。2015年には、米国がサウジの権力を握ったばかりのMbS皇太子を陥れる目的でサウジとフーシ派を泥沼のイエメン戦争に陥れ、イランがフーシ派をこっそり支援する態勢が強まった。
米国に相談せずイエメンを空爆したサウジ

フーシ派を支援するイランの、さらに後ろには中露がいる。ウクライナ開戦後、中露は、それまでのゆるやかな非米傾向を劇的に強め、中露とイランが急接近し、一緒に米覇権潰しや世界の非米化(多極化)をやるようになった
習近平やプーチンはサウジに接近し、米覇権を見限って非米側に転向した方が得だと説得し、同じことを考えていたMbSは中露の誘いに乗って非米側に転じた。習近平はサウジとイランの劇的な和解を仲裁し、サウジはフーシ派と停戦和解してイエメン戦争を終えた。米軍と米覇権の中東撤退が加速したサウジをイランと和解させ対米従属から解放した中国

この流れの先に、昨秋のイスラエルによるガザ虐殺・パレスチナ抹消策と、それに呼応したフーシ派による紅海危機が起きている。
パレスチナ問題は、英米がイスラエルの対アラブ協調を阻止して台頭を制限する「びんのふた」であり、米英覇権衰退とともにイスラエルはパレスチナ抹消の完遂を進めている。
イスラエルに牛耳られている米国は、ガザ虐殺という巨大な人道犯罪を積極的に支持支援させられ、国際信用を失って覇権衰退を加速している。イスラエルは、世界の非米化・多極化に貢献しており、中露もイラン・トルコ・サウジも、表向き虐殺に反対しつつ事実上黙認している。 消されていくガザ

イスラエルのガザ虐殺は、中東諸国や非米側がイスラエルを制裁して潰すといった展開でなく、イスラエルを支持している米欧の国際信用と覇権を潰す展開になっている。
同様に、ガザ虐殺への反撃として始まったはずの中露イラン傘下のフーシ派による紅海危機も、イスラエルでなく米英覇権の経済体制に大打撃を与えている。イスラエルとフーシ派(イラン)は仇敵のはずだが、実際にやっていることは米英覇権の引き倒しと多極化推進という、同じ行為である。イスラエルでなく米覇権を潰すガザ戦争

船舶業界は、紅海危機が今後も数か月かそれ以上続くと予測している。フーシ派は米軍の攻撃を乗り越えており、イランなどからこっそり兵器弾薬を支援され続けているので、紅海危機は今年中に終わらず、来年も再来年も続きそうだ。
その間、米国側の船は、紅海からスエズ運河の欧亜航路をほとんど通れず、米経済覇権に打撃を与え続ける。その陰で中国や印度などの非米諸国は、この航路を使い続けて発展する。中国から欧州への輸出品の大半がこの航路を通る。世界経済の非米化と多極化に拍車がかかるChina Is Winning the Battle for the Red Sea, America Has Retired as World Policeman

以前、この海域の船舶航行を妨害していたのは、米諜報界が裏から支援するアルカイダ系のソマリアの海賊など、米国側の武装組織だった。米国は、傘下の勢力に海賊をやらせ、それを退治するために米軍が出ていく体制を作ることで、世界を軍事的に支配していた。
この米覇権体制は、2011年から米国が起こしたシリア内戦で米国側が勝てず、米国から後始末を頼まれたロシアがイランと組んでシリアを再安定化させていくあたりから崩れた。ウクライナ戦争で露中など非米側の地政学的な優勢が加速すると、米国の中東覇権の崩壊も早まった
そして今回、イラン中露が、傘下の武装勢力であるフーシ派に紅海危機を起こさせ、中東の航路から米国側を追い出して非米化した。世界は大きく転換し、もう戻らない
シリアをロシアに任せる米国

米軍は紅海をウロウロしているがフーシ派を倒せない。それを尻目に、中国は、紅海のイエメン対岸にあるアフリカのジブチに軍港を作り、中国などの船の航行を守るために駐留兵力数を増やしている。中国軍は、2月にも新たな艦隊を紅海の入り口に増派した。
China sends new naval fleet for escort mission in Gulf of Aden

中国はフーシ派をイエメンの政権としてまだ認知していない。表向き中立を保ちつつ、中国は非公式にフーシ派と協議を重ねている。タリバン政権のアフガニスタンと同様、フーシ政権のイエメンも、これから安定していくと中国が経済支援を増やして発展させていき、その過程で中国と正式な国交を結ぶ流れになるChina's unexpected gains from the Red Sea crisis

中国は、紅海に面したサウジやエジプトの港に工業団地を作って投資もしている。これらの拠点を含む貿易活動のために、中国の船会社は紅海と中国を往復する新たな商船団を作っている。中東では米欧が出ていき、中露が入ってきている。
日本の自衛隊も、ジブチの港を借りて紅海を通る日本などの船の安全を守っている。日本の軍勢は従来、米軍の傘下で動いてきたが、これから米国の中東覇権が失われていくと、日本は米国でなく中国と協働していくことになる
日本にとって中国は、嫌いだが付き合い続けねばならない相手だ。フーシ派が起こしている紅海危機は、中東の非米化を加速しつつ、ずっと続いていく