田中宇氏は13日付の記事「トランプがウクライナ戦争を終わらせる?」(有料記事)の説明文に「欧州諸国やEUの上層部は、米国がトランプになってNATOをやめていくことに猛反対だ。だが、米国がNATOをやめる代わりにウクライナが停戦和解して欧露の緊張が緩和され、欧州がロシアからの資源輸入を再開できるようになるトランプ案と、米国がNATOを率いて負け続けるウクライナ戦争が長期化し、戦争がエストニアやモルドバ、ポーランドに拡大していくバイデン案のどちらが良いかと問われたら、欧州はどう答えるか」と記述しています。
14年のウクライナ・クーデター(に至るまでの経過及び)以降の経過に照らせば、ゼレンスキーと米国/NATOが一体となって準備してきた「ウクライナ戦争」はそれを機会にロシアを疲弊させようとして企んだもので、決して西側メディアが強調しているような「ウクライナの正義の戦争」などではありません。
その後の経過はひたすらウクライナ勢が劣勢で、ゼレンスキーが今なお勝てる見込みのない戦争で国民を犠牲にし続けているのは勿論間違っています。
櫻井ジャーナルの記事を紹介します。
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敗北が決定的になったアメリカ/NATOとウクライナにローマ教皇が降伏勧告
櫻井ジャーナル 2024.03.14
ウクライナを舞台にした戦闘でアメリカ/NATOはロシアに敗北したことは決定的で、残された道は限られている。3月9日にはローマ教皇フランシスコもウクライナ政府に対し、敗北して物事がうまくいっていないと分かった時、交渉する勇気を持たなければならないと語った。
教皇は国を「自殺」に導かない勇気を持てと言っているのだが、それをアメリカやイギリスの支配層は許さず、ここまで事態を悪化させたのである。米英支配層はウクライナ軍に「バンザイ突撃」を繰り返させ、ウクライナ人に「総玉砕」を要求してきた。
その要求に従ってきたウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は勿論、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長も教皇の意見を拒否、軍事的支援を強化するべきだとしているのだが、それはウクライナ人に対して「玉砕」しろと言っているに等しい。最後までロシアを疲弊させることに徹しろということにほかならない。
そもそも、ウクライナでの戦闘は1992年2月にネオコンがアメリカ国防総省のDPG(国防計画指針)草案という形で作成した世界制覇計画から始まったのだ。その時の大統領はジョージ・H・W・ブッシュ、国防長官はディック・チェイニー、国防次官はポール・ウォルフォウィッツ。このウォルフォウィッツが中心になってDPG草案は書き上げられたことから「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。
(中 略)
ウクライナでは2004年から05年にかけて新自由主義の手先を大統領に据えるために「オレンジ革命」が実行された。この工作を指揮していたのはアメリカ政府で、現地の拠点はアメリカ大使館だ。
新自由主義は富を外国の巨大資本やその手先に集中させ、国民を貧困化させるが、ウクライナでもそうしたことが起こった。そこでウクライナの有権者はビクトル・ヤヌコビッチを大統領に選ぶのだが、それをアメリカやイギリスの支配層は受け入れることができない。そこでバラク・オバマ政権は2014年2月にクーデターを成功させた。
そのクーデターで実働部隊として利用されたネオ・ナチのメンバーは2004年からバルト3国にあるNATOの訓練施設で軍事訓練を受けていたと伝えられている。またポーランドの外務省は2013年9月にクーデター派の86人を大学の交換学生を装って招待、ワルシャワ郊外にある警察の訓練センターで4週間にわたり、暴動の訓練を受けさせたとも報道されていた。
そうした訓練だけでなく、オバマ政権はCIAやFBIの専門家数十名を顧問として送り込み、傭兵会社「アカデミ(旧社名はブラックウォーター)」の戦闘員約400名もウクライナ東部の作戦に参加させていた。2015年からはCIAがウクライナ軍の特殊部隊をアメリカの南部で訓練しているのだが、それでも戦力は反クーデター勢力に劣っていた。
ヤヌコビッチの支持基盤であり、ロシア文化圏でもある東部や南部の住民はクーデター体制を拒否、クリミアはロシアの保護下に入り、ドンバス(ドネツクやルガンスク)では内戦が始まった。クーデター後、軍や治安機関メンバーの約7割が離脱、一部は反クーデター軍に合流したと言われている。ドンバスを制圧する戦力がないと判断した西側は「ミンスク合意」という形で停戦という形を作るのだが、キエフ政権は合意を守らなかった。
それから8年かけてアメリカ/NATOはクーデター体制の戦力を増強するために武器を供給、兵士を訓練、さらにドンバスの周辺に要塞線を構築、アゾフ大隊が拠点にしたマリウポリ、岩塩の採掘場があるソレダル、その中間に位置するマリーインカ、そしてアブディフカには地下要塞が建設された。
ウクライナの政治家オレグ・ツァロフは2022年2月19日に緊急アピール「大虐殺が準備されている」を出し、キエフ政権の軍や親衛隊はこの地域を制圧、自分たちに従わない住民を「浄化」しようとしていると警鐘を鳴らしている。その5日後にロシア軍はウクライナに対するミサイル攻撃を始めた。
攻撃の際、ロシア軍はウクライナ側の文書を回収、それには親衛隊のニコライ・バラン上級大将が1月22日にドンバスへの攻撃命令書へ署名し、ドンバスを攻撃する準備が始まったとされている。2月中に準備を終え、3月に作戦を実行することになっていたという。ウクライナでの戦闘を「ロシアによるウクライナ侵攻」という表現は正しくない。戦争に反対している風を装いながらアメリカを支持しているにすぎない。
ロシア軍が負ければ西側は好き勝手な物語を語ることができたのだろうが、ウクライナの要塞戦が突破され、ロシア軍の勝利は決定的になった。
フランスの雑誌「マリアンヌ」によると、フランス国防省の分析でもウクライナ軍の敗北は決定的。西側で宣伝されていた「反転攻勢」は泥と血にまみれて泥沼化、いかなる戦略的利益も得られなかったとしている。将兵の訓練が不十分で、3週間も訓練を受けていない状態でロシアの防衛ラインに対する攻撃に駆り出され、死傷者の山を築いた。
それに対し、ロシア軍は部隊が完全に消耗する前に補強し、新兵と経験豊富な部隊を融合させ、後方での定期的な休息期間を確保し、不測の事態に対処するために常に予備部隊を用意していると指摘している。現実は西側の有力メディアや「専門家」の主張とは全く違うのだ。フランス国防省もウクライナ軍の勝利は不可能と思われるとしている。
その報告を見てマクロンはパニックになり、ゼレンスキーを支援するために軍隊を派遣するかもしれないと発言したのかもしれないが、それで戦況が変わるとは思えない。
スコット・リッター元国連兵器査察官もアメリカ国防総省の幻想は崩壊しつつあると語っている。ウクライナでの惨状を作り出したのはウクライナ政府に戦闘を強要したアメリカ政府であり、ウクライナ政府がアメリカの戦術的アドバイスを聞かなかったからではない。
「国防総省はウクライナの巨大なファンタジーが崩壊しつつあるため、政治的な隠れ蓑を作ろうとしているのは間違いない」とリッターは分析している。
アメリカやイギリスの好戦派がNATOの大陸諸国を操り、ロシアと核戦争させて共倒れにしようとしているのかもしれない。マクロンは、ロシアがこの戦争に勝つのを阻止するためならフランスはあらゆることをすると述べた。正気ならこうした主張に同調しないだろう。