2024年3月18日月曜日

統一協会 有田芳生氏スラップ訴訟で敗訴(東京地裁)

 旧統一教会(以下 当記事では原記事の「統一教会」に合わせます)は、自身への批判の言論を嫌って、これまで下記の5人(と関係メディア)を名誉毀損で提訴しています。
 これらはいずれも批判者に対して高額な損害賠償を請求することで、批判を封じることを目的としたいわゆる「スラップ訴訟」といわれるものです。
  被告 紀藤正樹・讀賣テレビ (請求額2200万円)23年9月29日提訴
  被告 本村健太郎・讀賣テレビ(請求額2200万円)23年9月29日提訴
  被告 八代英輝・TBSテレビ(請求額2200万円)23年9月29日提訴
  被告 紀藤正樹・TBSラジオ(請求額1100万円)2310月27日提訴
  被告 有田芳生・日本テレビ (請求額2200万円)23年10月27日提訴

 この5件のうち、八代英輝氏の件はすでに地裁と高裁で、また本村健太郎氏の件は地裁でそれぞれ統一教会が敗訴しています。
 12日、有田芳生と日本テレビの両者を被告とした東京地裁のスラップ訴訟において、統一教会の全面敗訴の判決言い渡されました。当然のことながら教会側の連戦連敗です。
 17日付のブログ:「澤藤統一郎の憲法日記」を紹介します。
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「統一教会スラップ・有田訴訟」で敗訴の統一教会 ―― 反省も謝罪もなき判決批判
                     澤藤統一郎の憲法日記 2024年3月17日
 3月12日、統一教会は、有田芳生と日本テレビの両者を被告として仕掛けた東京地裁のスラップ訴訟において、全面敗訴の判決を言い渡された。単なる敗訴というだけではなく、これ以上はない徹底した負けっぷりと言ってよい。
 この訴訟は、当初から本来提訴すべきではない違法なスラップであることが明らかではあったが、そのことが統一教会にも分かるような東京地裁判決となっている。原告(統一教会)には、本来提訴すべきではない提訴をしてしまったことについての反省や、被告両名に対する誠実な謝罪があってしかるべきである。なお、控訴期限は3月26日(火)であるが、控訴などとんでもない。
 にもかかわらず、一昨日(3月15日)統一教会は、この判決を不当と非難するプレスリリースを公表し、その旨を教団のホームページにも掲載した。この一文を見る限り、この教団に敗訴判決を真摯に受けとめて反省する姿勢は見受けられない。有田や日テレに多大な迷惑をかけたこと、さらには報道の自由や国民の知る権利を侵害したことなどについての自覚も皆無のようである。あるいは、この提訴の違法性を重々自覚しながら、敗訴確定まで時間を稼いで、被告両名や言論界全体を威嚇し続けようとしているのかも知れない。
 このプレスリリースにおいて、統一教会は「当法人は控訴して判決の不当性を争う予定です」と述べている。しかし、この訴訟の提起自体が既に違法である。一審判決でこのことが明白となっている。にもかかわらず、敢えて控訴することは、違法に違法を重ねることであり、スラップの故意を推認させることにもなる。控訴は両被告にとって面倒極まりないだけでなく、統一教会にとっても決して賢明な選択ではない。

 あらためて確認しておきたい。この訴訟で角逐しているのは、被告両名の「言論の自由」と、原告統一教会の「法人の名誉」である。どちらが優越するのかという価値判断が求められている。
 言論の自由とは、誰の権利も侵害せず誰にも迷惑をかけない言論について論じることは無意味である。必ず、その言論によって権利を侵害され、その言論を不都合とする誰かが存在する場合にのみ、その言論の自由や権利性が問題となる。端的にいえば、有田と日テレの当該言論は、「言論の自由」の名の下に「統一教会の名誉」を侵害しても良いのか、が問われている。
 名誉毀損訴訟においては、まず原告が被告の名誉毀損文言を特定する。普通、特定された名誉毀損文言は、原告の社会的な評価を貶めるものとして違法が推定される。しかし、社会に有用な言論を違法としてはならない。それでは言論の自由を保障した憲法の規定が無意味になってしまう。そこで、法と訴訟実務は、被告・言論者側に、当該言論の公共性・公益性・真実性(あるいは真実相当性)の立証を求め、その立証が成功した場合に当該の原告の名誉を侵害する言論を、「言論の自由」の名において保護することとしている。

 だから、名誉毀損訴訟では、主張・立証は大きく下記の二段階に整理される。
(1) 原告が特定した被告による名誉毀損文言が、原告の社会的な評価を貶めるものであるか。
(2) 当該文言が原告の社会的な評価を貶めるものであることを前提に、当該言論の公共性・公益性・真実性(あるいは当該言論における論評の根拠たる事実の真実性)が認められるか。
 通例、(1)は当然に肯定されて問題になることは稀である。(2)だけが勝負となるのが普通の名誉毀損訴訟で、公共性・公益性のハードルは低く、主として真実性(あるいは真実相当性)が争われることになる。

 本件有田訴訟でも、原告(統一教会)は有田発言の一部を名誉毀損文言として特定した。しかし、有田弁護団はこれを、統一教会の社会的評価を貶める文言にはあたらないと、本気で否定した。俗な言葉で表現すれば、統一教会のこの点の言い分を「アラ探し」による「言いがかり」に過ぎない、と反論したのだ。
 それでも、裁判所が「有田発言を名誉毀損文言と認めた場合」に備えて、真実性の立証を積み上げた。有田発言は、(統一教会が)「霊感商法をやってきた」「反社会的集団」であり、「(このことは)警察庁ももう認めている」というものだったから、この各点についての真実性の立証は、統一教会に対する解散命令請求事件と主要な部分で主張挙証が重なるものとなった。したがって、有田事件判決は、「解散命令先取り判決」となることを期待していたが、幸か不幸か、そうはならなかった。
 異例のことだが、前述(1)の段階で勝負がついて、次の(2)の判断に進む必要はないという判断となった。これを「単なる敗訴というだけではなく、これ以上はない徹底した負けっぷり」と言ったのだ。裁判所の目からも、そもそも提訴自体が非常識で無理な代物に見えたということなのだ。
 統一教会のなすべきことは、控訴ではなく、真摯な反省と被告両名に対する誠意ある謝罪である

 なお、統一教会のプレスリリース全文は以下のとおりである。
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日本テレビ・有田芳生氏「反社会的集団」発言に関する 名誉棄損裁判の判決について
                  2024.03.15   世界平和統一家庭連合 広報局
 2022年8月19日,日本テレビが制作放送する「スッキリ」にジャーナリストの有田芳生氏がテレビ出演し,当法人に関して「霊感商法をやってきた反社会的集団だって言うのは警察庁ももう認めている」などと発言しました。このことを巡って、名誉毀損を理由に当法人が同社及び有田氏を提訴した裁判の判決が2024年3月12日に下され、当法人の請求が全面棄却されました。当法人の見解をお伝えします。
 まず、本件発言に関して、当法人が「反社会的集団」であると警察庁が認めたという事実はなく、当該判決でも認めていません。
 また、判決は、以下の5つの理由から、有田氏の発言は当法人の社会的評価を低下させるものではない(名誉毀損にもあたらない)と判断しました。
①国会議員が家庭連合と関係を持たないと断言すべきだという発言の一部分であった
②わずか8秒間の発言であった
③有田氏は本件発言を強調していない
④本件発言に関する字幕は表示されていない
⑤その後、本件発言がこの放送で取り上げられていない 

 しかし実際には、字幕なしの8秒間程度の発言であっても、名誉毀損は十分に可能であり、様々な口実を列挙して名誉毀損に当たらないと判断されたことは不当であると言わざるを得ません。したがって、当法人は控訴して判決の不当性を争う予定です。
 なお、有田氏の弁護団は判決後に発表した声明で、「本判決が、このような判断に至ったのは、有田発言に真実相当性があると判断したから故と、弁護団は考えている」と主張していますが、思い込みに過ぎません。裁判所は有田氏の発言の真実性あるいは真実相当性について何らの判断も行っていません。