東京新聞が掲題の記事を出しました。
国際司法裁判所(ICJ)がイスラエルに対し、ジェノサイド(民族大量虐殺)の防止や人道状況の改善を求めた仮処分命令を出してから 履行期限の1カ月が過ぎましたが、イスラエルには履行しようとする姿勢は皆無です。
ところが何とイスラエルは国際司法裁判所に2月26日、「仮処分命令に従っている」という報告書を提出したということです。まさに
(23.11.04) イスラエルの欺瞞の文化(賀茂川耕助氏) を地で行くものでこれほど明白な虚偽はなく、それを堂々と提出する傲慢さには呆れるしかありません。
折しも3月は日本が国連安保理の議長国を担当する月ということです。日本はこれまでハマスによる10月7日の奇襲を「明白なテロ行為」として非難する一方で、5カ月以上に渡りガザでジェノサイドを行っているイスラエルやそれを支持する米国への批判は一切行っていません。
これでは中東諸国は勿論世界の良識人の批判に堪えられません。憲法9条を持っているにもかかわらず「中立国」という評価を失ってから久しい日本は、この先も「米国の顔色を窺っている」だけでは世界の国民から信頼を失うことになります。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ガザで今起きているのは「ジェノサイド」 死者3万人超、安保理議長国を務める日本に期待されること
東京新聞 2024年3月2日
パレスチナ自治区ガザでの戦闘を巡り、オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)がイスラエルに対し、ジェノサイド(民族大量虐殺)の防止や人道状況の改善を求めた仮処分命令を出してから、履行期限の1カ月が過ぎた。だが、ガザでの死者が3万人を超えるなど状況は悪化するばかりだ。今月、日本は国連安全保障理事会で議長国を務める。手をこまねいているばかりでいいのか。(山田祐一郎、木原育子)
◆「子どもを殺すなと言っても聞いてくれない」
ICJの仮処分命令から1カ月の節目となった2月26日、衆議院第2議員会館で、ガザの封鎖解除と即時停戦を求める集会が開かれた。参加した野党の国会議員や市民を前に、登壇した在日パレスチナ人のヌマンさん(28)は嘆いた。「私たちは停戦を求めているだけなのに、まるで存在していないかのように扱われる」
ヌマンさんは、戦闘が始まった昨年10月以降、国会や外務省の前でデモを繰り返してきた。「私たちが家族の話をしているときは耳を傾け、シンポジウムでは拍手をくれる。なのになぜ、私たちが停戦を求め、子どもを殺すなと言うと聞いてくれないのか」と日本の政府や国民に、切実な思いをぶつけた。
◆「教育が受けられるのはUNRWAがあるから」
今年1月下旬、米国や日本など10カ国以上が歩調を合わせ、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金拠出を停止した。ハマスによる奇襲攻撃に複数の職員が関与した疑いが浮上したというのが理由だが、UNRWAはガザでの教育や食料、医療支援で重要な役割を担っている。
ヌマンさんは「子どもたちにとって教育が受けられるのはUNRWAがあるから。私を呼んで拍手を送る一方で、子どもたちから教育を奪うのは矛盾している。そんな政治家はいらない」と強い言葉で、資金拠出の即時再開に向けた働きかけを議員らに求めた。
◆沈黙は「ガザの人々を2度殺す」
2年前に来日したガザ出身のアンハール・アル=ライースさん(29)は攻撃対象となったシファ病院に勤務していたといい、「きょうだいや友人はガザ北部で飢えながらいまにも死にそうになっている」。この日が3人いる姉妹のうち1人の誕生日だったことを明かし、「ハッピーバースデーとは言えない。決してハッピーな状況ではないから」と涙ながらに語った。
夫のムハンマド・ハッジャージさん(37)は「日本にできるのは、国際社会や国連に対して平和を要求することだ。この事態に直面して、日本でどのような努力がなされてきたのか」と問いかけた。「爆弾や銃弾で命を奪われたガザの人々に対し、沈黙し、何もなかったかのように振る舞うことで2度殺すことになる。武器を送ったり、戦闘に参加したりしてほしいわけではない。水や食料、医薬品など生きていく上で必要最低限のものを求めているだけだ」
◆死者の7割は「女性や子ども」
集会は学生や武器取引に反対する市民団体などが主催した。主催者らは国会議員に対し「イスラエルの軍事行動を自衛権の行使として支持した岸田首相らの発言撤回」「ICJの仮処分命令の順守」「UNRWAへの拠出金再開」などに向けて活動するよう求める要請書を提出した。
また集会では、パレスチナ問題に詳しい大阪女学院大の高橋宗瑠(そうる)教授(国際人権法)が動画でメッセージを送り、「ガザ地区での死者の7割は女性や子どもといった非戦闘員。いまガザで起きているのは、間違いなくジェノサイドだ」と指摘。日本の責任をこう説いた。「外交力を発揮し、停戦と国際法に基づく恒久的解決、和平が図られるよう最大限の努力をしてもらいたい」
◆人道状況の悪化に歯止めかからず
イスラエルのメディアによると、同国は2月26日、仮処分命令に従っているとする報告書をICJに提出したという。だが、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは声明で「仮処分を順守せず、集団的懲罰行為を続けている」と非難。ガザ保健当局は同29日、戦闘開始以降の死者が3万人を超えたと発表しており、人道状況の悪化に歯止めがかかっていない。
米国などの仲介で今月10日頃に始まるイスラム教のラマダン(断食月)前の停戦を探る動きはあるが、イスラエルはガザ最南部ラファに侵攻する方針を捨てていない。
◆「中立的な人道援助の国のイメージ」失った日本
イスラエルの南進を踏まえ、東京外国語大の黒木英充教授(中東研究)は「エジプト側に住民を追放する計画を進めているようだ。1948年のイスラエル建国時と同じことが起きており、ジェノサイドそのものだ」と切り捨てる。そして「米国はイスラエルにとっての時間稼ぎを側面からアシストしているに過ぎない」と冷ややかにみる。
黒木氏はUNRWAへの資金拠出停止に触れ「深刻なのは、先進民主主義国がジェノサイドに対して何もできないどころか、支持していることだ」と危惧する。「UNRWA職員が攻撃に関わった証拠的なものがないのに、飢えている人への支援を止め、命綱を切った。愚かな行為に加担したことを自覚すべきだ。米国などに漫然と追随して拠出を停止した日本は、中立的な人道援助の国というイメージを一気に失った」
◆アメリカ市民レベルではイスラエル批判高まる
米国政府はイスラエルの強力な後ろ盾に徹する。だが、市民レベルでは批判が高まっているようだ。米国の政治外交に詳しい同志社大の三牧聖子准教授は新たな動きに着目する。
米ミシガン州で2月27日、大統領選の予備選があった。民主党の予備選では「支持者なし」の票数が10万票を超えた。イスラエルのガザ侵攻に抗議する有権者の意思表示だった。
◆ICJは状況改善に動くが…
三牧氏は「デモで抗議を可視化しても議会に訴えても、いっこうに変わらない。そこでローカルな予備選というアメリカ独自の仕組みも生かして変えようと舵(かじ)を切ったことは注目に値する。接戦州での10万票はバイデン大統領にとっても無視できない声だ」と話す。
西南学院大の根岸陽太准教授(国際法)は「ICJの立場に立てば、イスラエルが行うラファへの地上攻撃は暫定措置(仮処分)命令との整合性はないだろう」とする一方で「安保理がICJの命令を履行させるために動いても、米国が拒否権を使えば、実現は期待できない」と語る。
◆注目される日本の「舵取り」
ただ「ICJがガザの人たちをジェノサイドから守る必要があると判断したことは国際社会に一石を投じた」と指摘。人道や世界秩序の在り方が問い直されている状況を踏まえ「日本は国際法規範を尊重した行動をすることが求められる」と強調した。
日本は1日から1カ月間、国連安保理の議長国を務める。米国政府の顔色をうかがうだけでなく、各国の意見を調整し、より明確な停戦決議を採択できるかなど、舵取りが注目される。
◆停戦決議へアメリカを関与させられるか
早稲田大の萬歳寛之教授(国際法)はガザに絡み、戦闘の停止を意味する二つの英単語に目を向ける。
米国も同意して採択された安保理決議では、一時休戦に近い「Pause(ポーズ)」という言葉が使われ、総会決議では、もう少し踏み込んだ長期的な「ceasefire(シーズファイア)」が使われた。萬歳氏は「日本が安保理議長国として、多国間外交の中で、米国を関与させて、いかに実効的な停戦にまで至る決議をまとめていけるかが重要だ」と話す。
「停戦の仕方については世界で意見が分かれているが、人道状況の改善の必要性では一致している」とし、「議長国として国際人道法の順守と人道支援を追求することに尽きる」と主張した。
◆デスクメモ
地元保健当局によると人口約230万人のガザで死者が3万人を超えた。70人に1人が死亡した計算だ。人口の4分の1が飢餓の一歩手前という国連の数字も出ている。このぞっとするような状況が同じ世界で起き、さらに悪化している。遠い地の出来事と無視できようはずがない。(北)