ロシアの石油・天然ガス開発プロジェクト「サハリン1」には米国資本(やインド資本)が多大な権益を有していたのですが、ウクライナ戦争を始めたロシアへの制裁で22年3月に撤退しました。
一方、「サハリン2」に22・5%の権益を有している日本企業は米国の圧力に屈せずに現在も所有し続け天然ガスの供給を受けています。
プーチン・トランプ会談が行われた8月15日、プーチンは米国エクソンモービルなどの外国企業が「サハリン1」プロジェクトの株式を再び取得できるようにする大統領令に署名しました。プーチンは米国とのこれまでの事前折衝で それが可能になる感触を得ていたのだと思われます。
廉価なロシア産天然ガスは欧州の製造業だけでなく社会を支えていました。米国とウクライナは欧州へのガス供給を停止させるために、パイプライン「ノードストリーム1および2」の海底部分を破壊しました。それによってドイツをはじめとして欧州は一挙に経済活動が停滞しました。
西側の「ロシア制裁」はロシア経済を破綻させて降参させるのが目的でしたが、実際にはロシアは殆どダメージを受けず、逆に欧州側が経済的な困窮に陥ったのでした。それにしても欧州の「ロシア憎し」の感情は強烈で、廉価な天然ガスや石油の供給では相殺されないもののようです。他人事ながら「ノードストリーム1および2」の復旧はできるのでしょうか。
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天然ガスを遮断して欧州や日本を弱体化させるネオコン
櫻井ジャーナル 2025.08.20
ロシアのウラジミル・プーチン大統領は8月15日、アメリカの石油大手、エクソンモービルを含む外国企業が「サハリン1」プロジェクトの株式を再び取得できるようにする大統領令に署名した。言うまでもなくこの日、プーチンはアメリカのドナルド・トランプ大統領とアラスカで会談している。
エクソンモービルは、2022年2月にロシア軍がウクライナを攻撃し始めた後にロシア事業から同年3月に撤退、46億ドルの減損損失を計上している。
同社は2022年3月に撤退を決める前、サハリン1の運営権益30%を、またサハリン石油ガス開発も同じく30%を保有していた。その他インドのONGCが20%、ロシアはロスネフチの子会社2社が合計20%。サハリン石油ガス開発は日本の経済産業省、伊藤忠商事、丸紅、石油資源開発などが共同出資している。
サハリン2では2022年8月に三井物産と三菱商事が新たな運営会社であるサハリンスカヤ・エネルギヤに出資参画することを明らかにした。出資比率はそれぞれ12.5%と10%。27.5%を保有していたイギリスのシェルは同年2月に撤退、ロシアのガスプロムが50%プラスから77.5%へ増加している。
日本はロシア産天然ガスの開発を重要だと認識、アメリカの圧力を跳ね除けて出資を継続したのだが、その決定が発表される直前、その間、7月8日に安倍晋三は射殺された。
ロシア産天然ガスはロシアとヨーロッパもつないでいた。ヨーロッパは廉価なロシアの天然ガスはヨーロッパの製造業だけでなく社会を支えていたのだが、ヨーロッパとロシアが接近することをアメリカは嫌う。そして2013年11月から14年2月にかけてバラク・オバマ政権はキエフでクーデターを仕掛け、ビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒すことに成功した。
ロシアとヨーロッパを結ぶパイプラインの多くはウクライナを通過している。特に重要なパイプラインはソユーズ。このパイプラインとベラルーシやポーランドを経由してドイツへつながるヤマル-ヨーロッパは遮断されたが、ドイツとロシアはウクライナを迂回するパイプラインも建設していた。バルト海を経由する2本のパイプライン「ノードストリーム(NS1)」と「ノードストリーム2(NS2)」だ。
NS1は2010年4月に建設が始まり、11年11月から天然ガスの供給が始められる。ウクライナの体制がクーデターで変わった後の2015年6月にガスプロムとロイヤル・ダッチ・シェルは共同でNS2の建設を開始、18年1月にドイツはNS2の建設を承認、21年9月にパイプラインは完成した。
アメリカやポーランドはNS1やNS2の建設や稼働に強く反対し、ドナルド・トランプ政権下の2020年7月には国務長官のマイク・ポンペオがNS2を止めるためにあらゆることを実行すると発言。2021年1月に大統領がジョー・バイデンに交代しても状況に変化はなく、22年1月27日にビクトリア・ヌランド国務次官はロシアがウクライナを侵略したらNS2を止めると発言している。2月7日にはジョー・バイデン大統領がNS2を終わらせると主張し、アメリカはそうしたことができると記者に約束した。
2022年2月24日にロシア軍はウクライナに対する軍事作戦を開始、アメリカ政府の圧力でEUは新パイプラインの稼働を断念。アメリカはさらにNS1も止めさせようとした。
ジャーナリストのシーモア・ハーシュは2023年2月8日、この爆破について記事を書いているが、それによると、アメリカ海軍のダイバーがノルウェーの手を借りてノードストリームを破壊したという。アメリカのジョー・バイデン大統領は2021年後半にジェイク・サリバン国家安全保障補佐官を中心とする対ロシア工作のためのチームを編成、その中には統合参謀本部、CIA、国務省、そして財務省の代表が参加してい他としている。12月にはどのような工作を実行するか話し合ったという。そして2022年初頭にはCIAがサリバンのチームに対し、パイプライン爆破を具申している。ロシアがウクライナに対する攻撃を始める前の話である。
ウクライナ制圧とノードストリーム爆破でロシアは巨大マーケットを失い、ヨーロッパは廉価なエネルギー源を失い、両方とも弱体化するとネオコンは計算していたようだが、ロシアは中国と接近、新たなマーケットを手に入れた。ロシアと中国はその後、関係を強め、強力なアメリカのライバルが出現することになった。すでにアメリカは中露と比べて劣勢だ。