石破首相は5日、コメの安定供給に関する関係閣僚会議で、「コメをつくるな、ではなく、生産性向上に取り組む農業者が、増産に前向きに取り組める支援に転換する」と話し、コメ増産の方針を表明しました。
この方針転換は当然のことですが、歴代の自民党政権が進めてきた減反政策の悪影響は甚大で とても簡単に増産に転換できるほど単純な問題ではなさそうです。
耕作放棄地もすぐに活用できるわけではなく、養分など土壌コンディションを整えるだけで3~5年はかかるということです。たとえ5年以上を掛けても、コメの増産を実現することは食糧安保上絶対に必要なことです。
富裕層にはあまり関係がないようですが、低所得層にとって主食のコメが一挙に2倍や3倍に高騰するのは「あってはならない」ことです。小泉農水相がこの間注力してきた「コメ価格の上昇抑制」は絶対的に必要なことです。政府は知恵を絞りまた必要なカネを投じてコメの高騰を避ける必要があります。
日刊ゲンダイの記事を紹介します。
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石破政権が減反からの転換表明も現場は課題山積…コメ増産が難しいこれだけの理由
日刊ゲンダイ 2025/08/08
いきなり「増産しろ」といわれて、すぐできるものなのか?
石破首相は5日、コメの安定供給に関する関係閣僚会議で「コメをつくるな、ではなく、生産性向上に取り組む農業者が、増産に前向きに取り組める支援に転換する」と話し、コメ増産の方針を表明した。
政府はコメ余りによる値崩れを防ぐため、1970年代から生産量を調整する減反政策を実施してきた。2018年に廃止されたが、現在も補助金で飼料用米への転作を促すなど、実質的な減反は続いている。
しかし、昨夏からはコメの需給が逼迫し、米価が高騰。農水省の調査によると、昨年の高温障害で精米後に残ったコメの割合を示す「歩留まり」が悪化し、生産量が推計より少なかった可能性がある。
石破首相も「生産量に不足があったことを真摯に受け止める」と話すなど、ついに国がコメ不足を認め、増産へとかじを切ったわけだ。
政府の具体策は「絵に描いた餅」
政府がコメ増産の具体策として打ち出すのは、農地の集積などによる経営の大規模化、先端技術を活用するスマート農業の推進、耕作放棄地の活用などだ。しかし、いずれも実現性に疑問が残る。コメ流通評論家の常本泰志氏はこう話す。
「すでにある程度の集約化が進められているうえ、規模を拡大するには設備投資などで莫大なお金がかかります。多くの事業者はいま抱えている水田で手いっぱいで、資金や人手に余力がない場合がほとんどです。また、水田を集約するにあたっては、土地の権利などの話をまとめなければならない手間もある。耕作放棄地もすぐに活用できるわけではなく、養分など土壌コンディションを整えるだけで3~5年はかかる。いずれも、来年、再来年ですぐどうこうできるものではないのです」
コメ農家の平均年齢は70歳前後と、高齢化も進んでいる。
「体力に余裕のある生産者ばかりではなく、そもそも増産に対応できるマンパワーが生産現場に残されていません。水田は3年も放置すれば樹木なども生えますが、こうした耕作放棄地を再び使えるようにする余力もないでしょう。年齢的に、スマート農業などの技術を受け入れる余裕のない生産者も少なくない。こうした実態を直視せず増産を掲げても、絵に描いた餅にしかならない。まずは従事者を増やすなど、生産者の平均年齢を下げる政策から始めるべきです」(常本泰志氏)
言うは易し行うは難し、ということだ。
コメ政策で進次郎農相に欠ける“気候変動対策へのセクシー”さ…増産転換にも生産者が抱く強い危機感
日刊ゲンダイ 2025/08/07
「コメを作るな、ではなく、農業者が増産に前向きに取り組める支援に転換する」ー事実上の減反政策に区切りをつけ、増産にカジを切った。8月5日のコメの安定供給に関する関係閣僚会議で、石破首相は需要を見通せず生産量が不足し、価格高騰を招いたと認め、冒頭のように政策転換を表明。耕作放棄地の拡大を食い止め、輸出拡大に全力を挙げることも掲げた。
コメの需給逼迫について、小泉進次郎農林水産大臣は会議後の囲み取材で、①高温障害により精 米後に残ったコメの割合を示す「歩留まり」の悪化②インバウンド需要の増加③コメ不足への不安から家計の購入量や「ふるさと納税」の返礼品需要の増加ーを理由に挙げた。コメ増産への転換を生産者はどう受け止めるのか。
「急にコメを作れ、と言われても農家が増えないと増産できません。若者が就農したくなる環境づくりに向けた具体策はもちろん、まずは目先の気候変動対策が先決です」と語るのは、静岡のコメ農家で「藤松自然農園」の藤松泰通代表だ。
■「自家採種」奨励を求める生産者
殺人的な猛暑が続き、5日は群馬県伊勢崎市で41.8度を観測し、またもや国内統計史上最高気温を更新。40度超えは過去最多の5都県計14地点に上った。全国の米どころは暑さと記録的な少雨のダブルパンチで田んぼはひび割れ、ため池は干上がり、イネの一部は黄や茶色に変色。害虫大量発生の兆しもあり、危機感を高めている。藤松氏が言う。
「2025年産 米の作付面積は増えていますが、この異常気象で黒や茶色の斑点米や、未成熟の白濁米の発生が増える懸念は強い。増産しても主食用の品質を保てなければ生産者の所得は減ってしまいます。しかも人気銘柄米のコシヒカリは高温に弱く、今の暑さに耐えられるような既存品種の改良には5~10年ほどかかる。急激な気候変動とのいたちごっこは目に見えています。このロスを解消するのが『自家採種』。農協などから種籾を購入する多くの農家と違い、自分で育てたイネから種を採取し、同じ土地で次の栽培に利用する方法です。この方が栽培する土地に適した生育の遺伝情報がイネに刻まれ、短期間で高温への耐性が生じやすい。需給逼迫の理由なら高温対策は待ったなし。国には農地の大規模化支援や輸出拡大よりも先に、助成制度を設けるなど自家採種を奨励してほしい」
菅政権の環境相時代に「気候変動への取り組みは、セクシーであるべきだ」と言い放った進次郎氏。そのセクシーさが、足元のコメ政策には欠けているんじゃないか。