2025年8月25日月曜日

許されぬ万博下請けの使い捨て 救済求める未払い被害業者(長周新聞)

  関西万博の海外パビリオン建設で工事代金の未払いがあいついで発覚しています。未払いを抱える下請業者「万博工事未払い問題被害者の会」結成し6日5万筆の署名を大阪府に提出し早期の救済を求めました。

 署名は一刻も早く立て替え払いをすること、返済期間の長い無利子融資の緊急の実行を求める内容で、「開幕に間に合わせてほしいと懇願され頑張ったのに、工事金未払いのために連鎖倒産の危機、家族を含めた命と生活が危機に瀕している」と訴えていますが、大阪府・市や万博協会は今なお「民間同士の問題」として立て替え払いを否定するばかりか、無利子融資も含めなんらの救済措置もとっていません。
 未払い期間が長期化すればするほど資金繰りは厳しくなります。業者たちは「今を乗り越えるために力を貸してほしい」と訴えています。
 大阪府・市や万博協会は苦し紛れに相談窓口なるものを紹介していますが、それらは長く待たされた挙句に「苦情を受け取りました」という返事が来るだけで、何の役にも立たないシロモノだということです。
 吉村知事は「民間の問題で起きた問題に税金を使うのは、税の使い方としておかしい」と公言していますが、愛知万博では起こらなかった多数の未払いや労働環境の問題が生じた原因は、非常に短期の工期であったこと、元請を外資系のイベント会社としたことなど、万博のためにさまざまな規制を緩め、問題に蓋をして強行してきた国、大阪府・市、万博協会の体制にあります。
 間に合わせるために徹夜で工事を続けるなど膨大な費用を掛けて完成させたのに、その代金が支払われなければ、それに付随して起きる悲劇は深刻です。「民民間」では解決できないことを承知しながら、万博協会の副会長でもある吉村知事が何の責任も取ろうとしないのは許されません。
 長周新聞が取り上げました。
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許されぬ万博下請けの使い捨て 救済求める未払い被害業者 大阪府に5万筆の計画的踏み倒し放置するな」の署名
                         長周新聞 2025年8月23日
 大阪・関西万博の海外パビリオン建設で工事代金の未払いがあいついで発覚している問題で、未払いを抱える下請業者が結成した「万博工事未払い問題被害者の会」が6日、約五万筆の署名を大阪府に提出し、早期の救済を求めた。署名は一刻も早く立て替え払いをすること、返済期間の長い無利子融資の緊急の実行を求める内容で、「開幕に間に合わせてほしいと懇願され頑張ったのに、工事金未払いのために連鎖倒産の危機、家族を含めた命と生活が危機に瀕している」と訴えている。7月6日の署名開始から約1カ月で5万筆が寄せられた。大阪府・市や万博協会は今なお「民間同士の問題」として立て替え払いを否定するばかりか、無利子融資も含めなんらの救済措置もとっていない。未払い期間が長期化すればするほど資金繰りは厳しくなる。業者たちは「今を乗り越えるために力を貸してほしい」と訴えている。

華々しさの陰で連鎖倒産の危機
 大阪・関西万博の海外パビリオン建設をめぐっては、アンゴラ館の下請業者が未払いを訴えたのをきっかけに、ネパール館、マルタ館、ドイツ館、ルーマニア館、セルビア館、アメリカ館、インド館などで工事費の未払いが発覚。最近ではポーランド館で3億円超の未払いを訴え出た業者がいることが報道されているGL events Japan(フランス企業の日本法人)をはじめ外資系の企業が元請のケースが多数含まれており、被害を受けている下請業者はわかっているだけで約20社孫請、ひ孫請まで含めると相当数にのぼるとみられる。数千万から億単位の支払いがなされない状態が長期化しており、業者やその家族たちが窮地に追い込まれている。
 大阪府は、立て替え払いや無利子融資など、資金面の援助を拒否する一方で、建設業許可がない一六八(いろは)建設(アンゴラ館で未払いを起こしている)を営業停止処分にするなどして、対応している装いをしている。大阪府で活動する人民新聞社のかわすみかずみ記者は、「行政処分をしても下請業者の状況は解決しない。とりあえず立て替え払いをしてくれれば業者は存続することができる。行政処分はその後だ」と指摘する。国家プロジェクトにかかわる未払いで資金繰りが悪化しているにもかかわらず、社会保険料の差し押さえにあった業者も出ているといい、事態は日々悪化しているという。
 万博でも行列ができる人気のパビリオンの一つであるアメリカ館に三次下請として入ったA氏も、二次下請が倒産し約2800万円の未払いを抱えた。社用の車をすべて売り払って関係者への支払いに充て、それでも払い切れずに待ってもらっている業者や個人が複数あるという。社会保険料の会社負担分が払えず、何度か協会けんぽに事情を話していたが、差し押さえが実施され、銀行口座を凍結された
 A氏が万博工事に関わるきっかけになったのは、二次下請の(有)ネオ・スペースを材料屋から紹介されたことだった。材料屋から「心配ない会社だ」といわれ協力することを決めた。2024年11月~25年3月の期間、アメリカ館の内装工事に携わり、壁の骨組みや石膏ボードを塗る下地作業を請け負った。作業に入る条件として、最低でも70%の工事が終わっていることを求めたが、実際に作業に入ると5%しか終わっておらず、作業中に他の業者が作業に来るなどして進まないことが多かったという。
 一次下請から「人が足りないからもっと入れてほしい」といわれ、「作業の計画に沿って入れなければ人件費がかさむ」と拒否し続けたが、「それでもいいから入れろ。なんとかする」というので仕方なく職人を集めて現場に送った。予想した通り費用はかさみ、職人が余ったりしたという。元請がイベント会社であるESグローバル(本社・イギリス)だったため、建設現場の段取りや図面が現場に即していない状況が起きていたといい、現場の職人たちは工事費が相当に膨らむことがわかっていたという。
 二次下請のネオ・スペースに支払いを求めたが「金額が高すぎる」といわれた。職人に払う原価だけでも支払ってほしいと求めたが、ひき伸ばされ、やっと話し合いの場が持てたのは4月11日だった。4月末に銀行決済があるので、それまで待ってほしいといわれ、待っていたところ、5月12日にネオ・スペースは倒産した
 相談した弁護士は「計画倒産の可能性もある」と指摘したという。4月時点で大阪府に不払いの相談をしていたが、府は「万博協会に相談してください」と受け流し、万博協会は「話は受け付けたが対応しかねる」と拒否し、名前もどのパビリオンかも聞かれなかった。
 A氏は3人の子どもがおり、上の子は大学1年生で、万博工事が終わるころに2年生に上がる予定だった。しかし不払いによって資金繰りが悪化。学費が払えなくなり、上の子に「ごめんな」と謝って大学を辞めてもらったという。子どもは「いいよ。俺働くよ」といってくれたというが、A氏は自分のせいで大学を辞めさせることになったことを悔やんでいる。
 兵庫県で空調設備会社を営むB氏は、一緒に仕事をした業者に誘われて中国館の工事にかかわった。他館ではかわされていたグリーンファイル(安全確認書類)や施工体系図などがなく、「それだけ切迫しているのだなと思った」と話していたという。
 開幕に間に合わせるために夜間も働き、本来なら1年半かかるところを24年10月末から今年3月末までの4カ月で工事を終えた。途上、分電盤の増設を急きょ指示されたり、コンセントの位置を変えるといった変更は多かったとB氏は証言している。
 怪しい噂が流れてきたのが3月下旬ごろ。中国館にかかわる他の業者から未払いにあっているという声が聞こえてきて、B氏は大阪府のホームページから「市民の声」に投稿し、助けを求めたという。府から万博協会の相談窓口を紹介され、問い合わせフォームから相談したが、数週間後に「受け付けました」という連絡が来ただけだった。
 中国館をめぐっては、7月9日にも奈良市の下請業者が記者会見し、6000万円の未払いを訴えている。中国政府からは工事費が支払われているが、元請の中日建設が下請に支払っていないことが要因だ。一次・二次下請業者が元請の中日建設に出向き、入金票を付き合わせて未払いがあることを確認したにもかかわらず、再び「支払った」と主張し始めて今に至っている。新華社が7月2日、一次下請のシンコウ電気商会が「中日建設は契約に基づき、当社への工事代金をすべて支払い済みであり、未払いは一切存在しない」とする声明を発表したと報じた。だがこの背景には、未払いが報道等で表面化するなかで中国政府から圧力がかかった中日建設が、「半額入金するから未払いはないと公表するように」と一次下請に圧力をかけてきたという事情があったようだ。そうすれば残りの半額も支払うということだったというが、7日現在、残額は支払われていない。
 海外パビリオンの建設から大手ゼネコンが手を引くなかで、協力要請に応じたのは中小の建設業者たちだ。短期間の工期で昼夜問わず働き、変更に次ぐ変更に振り回されながらも開幕に間に合わせたにもかかわらず、家族や社員が路頭に迷おうとしている。だが、大阪府・市も万博協会もたらい回しにしたり、訴えにまともにとりあわず放置してきたことが、これらの証言からもわかる。

監督責任も果たさぬ国  万博協会には出向者
 万博協会の「人権方針」には、「博覧会事業によって、人権への負の影響を引き起こす、または助長していることが明らかになった場合は、適切に対応し、その救済に取り組む」と明記されている。大阪市のNPO法人「労働と人権サポートセンター・大阪」と未払いを抱える下請業者は、この人権方針にもとづいて建設費未払いトラブルをめぐる協会の責任を追及しようと、7月に公開質問状を提出していた。
 しかし、7月22日付の万博協会の回答は、相談があった案件について、「契約関係や支払いの状況について情報収集している」という回答をはじめ、「必要な働きかけを行っている」「その推移を見守っている」などの抽象的な文言が並ぶ一方で、元請以下の未払い問題については、「個別の契約の当事者間の問題である」「契約当事者ではない協会が立て替え払いをすることはない」との方針を明記していた。
 また、アンゴラ館を含む四カ国が選択したタイプX(万博協会が建物を準備し、参加国が内外装をおこなう)のガイドラインでは、万博協会には建築基準法など国内法が守られているかどうかの確認や設計書などの確認と承認、工事開始のさいの許可権限、工事中の規制などの権限があるとされている。これについても、「ガイドラインは協会自体の権限において、それらを実施・発動するものではない」とし、責任は参加国や元請にあり、万博協会にはないと主張した。
 「労働と人権サポートセンター・大阪」は改めて再質問書を提出すると同時に、4日に万博協会と協議の場を持ったうえで、翌5日に大阪府庁で記者会見を開き、万博協会の回答書を公表。代表理事の在間秀和弁護士は「基本的に抽象的な回答ばかりだった。明確に回答したのは“立て替え払いはいたしません”ということだけだった」とのべた。
 協議の場に出席した万博協会の比良井国際局長代行(経済産業省)、山北施設維持管理局長代行(法務省)はともに省庁からの出向者。同席したアンゴラ館の未払い被害者の訴えに対し、「気の毒だ」といいつつも、できることには制限があるという官僚答弁だったとのべ、「他人事としかとらえていない」と指摘した。
 協議に同席したアンゴラ館の未払い被害者は、「回答は責任逃れの文章だった」と指摘した。アンゴラ館はいまだに元請業者が不明な状態で、三次下請の未払い分を元請に請求することもできないが、大阪府は今ごろになって元請の調査を開始したような状況だ。未払いに関係する業者は7社・30人以上にのぼり、当事者たちは万博協会に対し、国や府に対して再度粘り強い交渉をおこなうこと、万博協会内でも立て替え払いができないか議論を要望したという。

カジノ誘致には公金散財 大阪府の吉村知事
 万博協会の副会長を務める吉村洋文大阪府知事は、未払い問題で死活問題に直面している市民に対しては「民民の問題」といって突き放す一方で、「黒字になる見込み」(7月31日)と発言するなど、万博成功アピールには余念がない。運営費1160億円の8割を入場券収入でまかなう計画で、7月25日時点で販売実績が1700万枚をこえ、八月中には損益分岐点をこえるのだという説明だ。
「黒字なら未払い問題をなんとかしろ」だが、その「黒字」も、国や大阪府・市合わせて13兆円規模まで膨れ上がっているともいわれる万博関連費用のうち「運営費」というごく一部の話だ。会場建設費は、当初計画の1250億円から、20年12月には1850億円(600億円増)に、23年10月には2350億円(500億円増)と当初計画の2倍近くに膨れ上がっている。そのほかにも会場アクセス向上や周辺整備などのハード面や警備費もある。
 多くの税金をIRカジノ(万博終了後に誘致)のための万博に投入しながら、「民間の問題で起きた問題に税金を使うのは、税の使い方としておかしい」(7月29日、吉村知事)と公言しているが、愛知万博では起こらなかった多数の未払いや労働環境の問題が生じた原因は、非常に短期の工期であったこと、元請を外資系のイベント会社としたことなど、万博のためにさまざまな規制を緩め、問題に蓋をして強行してきた国、大阪府・市、万博協会の体制にある一社でも倒産することのないよう責任を持って早急な支援策を講じることが求められる。