参院選では盛んに自民党優位の報が流されるようになり、いわゆる浮動票層の棄権による低投票率が懸念されています。
大多数の国民の関心事は「経済政策」「社会保障」「原発再稼働」「震災復興」などであって改憲ではありませんが、自民党は参院選に勝利すれば他の改憲勢力を巻き込んで憲法の改定に突き進むといわれています。
そうであれば自民党は具体的な改憲内容を前面に出して戦うべきですが、参院選の公約では9分野の最後に「改憲」を置き、なるべく目立たないようにしています。この公約のスタイルは首相から信頼されている高市政調会長が首相と密接な連絡を取って仕上げたものです。
「国のかたちに関わる」重大事である改憲を目立たないようにして審判を受けるというのは、鎧を衣で隠すことであり卑怯なやり方です。
河北新報は11日の社説で (改憲の内容を明らかにするのが)「全ては選挙後」では、有権者を惑わすもので不誠実であると断じ、最高法規を論じる以上、議論を深め疑問に耐え得る高いレベルでの説明を尽くすことが責務であると述べました。
また憲法が国家権力を縛り国民を守る規範であることに対して、安倍首相が「王権の時代、専制主義的な政府に対する憲法観」という奇妙な認識を示したことも批判しています。
以下に河北新報の社説を紹介します。
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社説 ’13参院選 憲法改正/曖昧な公約では判断できぬ
河北新報 2013年7月11日
国のかたちに関わる重要な対立軸でありながら、有力な判断材料にはなり得ていないようだ。「憲法改正」である。
有権者が必ずしも争点化を望んでいるわけではない上、各党の議論がかみ合わず、理解が深まらないからだろう。
暮らしに直結する「経済政策」「社会保障」「原発再稼働」「震災復興」などに目が向いている事情がある。関心の薄い改憲が選挙結果によっては、大きく動きかねない状況に気をもむ有権者も少なくないだろう。
改憲の是非が問われるのは、1956年に自民党の鳩山一郎首相が提起して以来。改憲の国会発議、衆参両院での「3分の2以上」の確保が視野に入ってきたことで争点に浮上した。
昨年の衆院選で、新憲法の制定を党綱領に掲げる自民党が圧勝、賛同する勢力を合わせると発議の条件をクリア。安倍晋三首相は政権の高支持率を背景に参院でもとの思いを隠さない。
改憲手続きは一般の法改正より厳しく規定されている。憲法が国家権力を縛り国民を守る規範だからだ。安倍首相は「王権の時代、専制主義的な政府に対する憲法観」との認識を示すが、歴史の事実に照らせば権力暴走の懸念を拭い切れない。
改憲に前向きな政党の対応の不明瞭さが関心をそぐ要因だ。
日本維新の会は公約のトップに統治機構改革を掲げ、その手段としての憲法改正、96条の発議要件改正を明記している。
ただ、リードすべき自民党は9分野に整理した公約の最後に置いた。その内容も「象徴天皇の元首化」「国防軍の設置」「発議要件を『衆参それぞれの過半数』に緩和」など10項目を羅列しているだけ。目立たぬように曖昧にということか。
安倍首相が意欲を示す発議要件緩和を先行、その上で戦力不保持の9条を改めるのか、それとも複数の条文改正を同時並行的に進めるのか。優先する項目や手順がまるで不透明だ。
「全ては選挙後」では、有権者を惑わすことになり、不誠実のそしりを免れない。
民主党は96条先行改正に反対しつつ、「未来志向の憲法を構想する」という。現行憲法へのスタンスがはっきりしない。
公明党は加憲の立場で96条改正の先行には難色を示す。みんな、生活の両党は立ち位置が分かりにくく、共産、社民両党などは護憲を明確にしている。
共同通信の第3回トレンド調査によると、憲法改正に賛成との回答は44.5%で、前回の51.0%から減少した。
日本世論調査会が6月実施した憲法調査でも、改正派が05年の前回に比べてわずかながら減少。96条、9条の改正、1条の象徴天皇の元首化はいずれも反対が過半数に上った。
改正の期待値が高まっていると言えるかどうか。そもそも1票の格差是正が中途半端で、国会の正統性が揺らいでもいる。
最高法規を論じる以上、議論を深め疑問に耐え得る高いレベルでの説明を尽くすことが、政党に課された責務ではないか。