「雇用の流動化」というと聞こえは必ずしも悪くはありませんが、その実態は首切りの容易化のことです。そうであれば「雇用の流動化」は即 「格差の促進」「貧困化」です。
総務省の就業構造基本調査によると、もはや就業人口の40%近くの人たちが低賃金で雇用も不安定な非正規労働者ということです。この先も増えることでしょう。
その一方で政府と財界は正社員の整理を目指し始めました。諮問機関『産業競争力会議』で竹中平蔵氏などが唱えている「解雇規制の緩和」と「限定正社員制度」の構想です。
解雇規制は「企業が解雇回避努力をすべて行なった後でなければ、正規社員を整理解雇することはできない」とする極めて当然の原則ですが、竹中氏はこの判例を目の敵にしてきました。
「限定正社員制度」は勤務地や職種を限定した「(限定)正社員」(構想)のことで、福利厚生などは正社員と同等ですが、業務縮小などで職務や職場がなくなれば容易に解雇できることを最大の特徴とするものです。
この制度が出来れば企業は正社員を「限定正社員」に格下げすることで、あとは自由に解雇できることになります。
「限定正社員」制度を採用するとすれば、非正規社員からの採用に限るという限定が絶対に必要です。
雇用流動化の原点は1995年の日経連報告書「新時代の『日本的経営』」といわれています。
それを機に非正規雇用が広まり出して、国民の貧困化が進む一方で、企業の側は儲けを重ねてついには内部留保260兆円という状況を生み出しました。
財界とそれと一体の政権が今目指しているのは、1995年版日経連報告に匹敵する「新時代の経営」に違いありません。
以下に東京新聞の社説を紹介します。
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社説 <2013岐路>雇用政策 流動化よりも安定だ
東京新聞 2013年7月13日
安定雇用か、労働移動しやすい働き方か。「雇用流動化」の是非も争点の一つだ。働き手からすれば「流動化イコール不安定化」では生活の安定は望めない。
雇用の現状は、雇用保障が手厚い正社員と、不安定雇用・低賃金の非正規労働とに二極分化している。非正規は全雇用者の38%に達し、家計の担い手にまで広がる。結婚や子育ても難しく、少子化や消費停滞を招いている。
これまでの選挙で各党は、非正規の待遇改善や正社員化を掲げた。今回の焦点は成長戦略の一環として浮上した雇用の流動化、大胆にいえば正社員改革である。過剰に抱えた労働者を移動しやすくすることで企業の生産性を高めようという経営者寄りの論理である。
自民党は「成熟分野から成長分野への失業なき円滑な労働移動を進める」、公明党は「短時間正社員制度を拡充」と、どちらも「流動化」派だ。日本維新の会とみんなの党も考えを同じくする。反対に雇用安定に重きを置くのは民主、社民、生活の党といえる。
本来、成長分野などへの労働移動は働き手が自由意思で決めるべきものではないか。政府の規制改革会議では、解雇の金銭解決などが議論されたが、具体的に打ち出されたのは勤務地や職種を限定した「限定正社員」という雇用形態である。福利厚生などは正社員と同等だが、業務縮小などで職務や職場がなくなれば解雇される。
確かに、現状の正社員の働き方には問題もあり、子育てや介護などで転勤や長時間労働が難しい人にとって限定正社員はメリットとなり得る。しかし、その便益を確実なものにするためには、安易な解雇や賃金カットを防ぐルールが欠かせない。「解雇しやすい正社員」となっては元も子もない。
さらにいえば、限定正社員が非正規労働からの受け皿になるのであれば歓迎だが、それより人件費削減のために正社員に置き換わる危惧をぬぐいされないのである。
振り返ってみると、雇用流動化の原点といえるのは、一九九五年に日経連がまとめた報告書「新時代の『日本的経営』」だ。企業が総額人件費を抑えられるとして非正規雇用を広めるきっかけとなった経営指針である。
今回が「解雇しやすい正社員」解禁の分水嶺(れい)にならないとも限らない。普通の人々が望んでいるのは安定した雇用である。企業の論理だけで決めていいはずがない。