2013年7月5日金曜日

マスメディアは参院選の争点隠しをやめよ

 
 3日に日本記者クラブで行われた党首討論会の第2部で、4大紙の幹部たちによる党首への質問が、安倍首相を持ち上げることに終始したとして、しんぶん赤旗は「大宰相ともてはやす異常さ 参院選の争点質問しない記者とは!?」と題する記事を掲げました。

 昨年末の衆院選においても、大新聞とTVは「維新の会」を待望の「第3極」だともてはやして、1200万票を獲得させる誘導を行いました。その間「維新の会」が極右の性格を持った自民党の補完勢力に過ぎないことなどは、マスメディアは全く報じませんでした。
 
 折りしも「リベラル21」のホームページに、4日、「憲法、原発、経済そして日中・日韓関係―争点の順位を明確に」と題する坂井定雄 龍谷大名誉教授の投稿記事が載りました。
 同教授は参院選の争点隠しが行われていることを厳しく批判して、争点の順位を明らかにしています。
 やや長い記事なので多少の脚色を交えて要約すると、大略下記のとおりです。

 NHK安倍政権の経済政策などを争点とする参院選」と何度も放送するのは、政権への“提灯持ち”で、選挙の争点をごまかそうとするものである。安倍政権はいまは憲法改定を公約の下位において争点化を避けているが、今度の参院選自民党が参院の過半数を握れば、機を逸せずに「みんな」「維新」、それに民主党の一部などを抱き込んで、まず96条改定しついで憲法改悪へ動き出す。
 同時に原発推進政策に完全に逆戻りして、電力会社には諸種の便宜を図り政権との蜜月関係の再構築に乗り出す。

 「アベノミックス」大企業はますます優遇されても、国民生活が豊かになることはなく好景気にもならない
 しかし安倍政権の経済政策の(否定的な)結果が明確に出てくるのはまだまだ先のことなので、現段階ではNHKをはじめとする各メディアが主導しているように、「アベノミックス」こそ安倍政権の選挙用の衣装になる
 (メディアは)参院選の争点の順位を明確にしなくてはならない。
 その順位は、 憲法、2 原発、3 経済政策(TTPを含め)、4 歴史認識と中国、韓国との関係 である
 安倍政権は憲法と原発が選挙の争点になるのを恐れている。  (要約終わり

 以下にしんぶん赤旗の記事と「リベラル21」のホームページに掲載された坂井定雄 
龍谷大名誉教授の記事を紹介します。

 追記 なおここでは記事の紹介はしませんが、植草一秀氏も7月4日のブログで、「参院選争点は『ねじれ・景気』でなく『原発 憲法 TPP』」と題してほぼ同様なことを述べています。URL: http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2013/07/post-b71b.html
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「大宰相」ともてはやす異常 参院選の争点質問しない記者とは!?
しんぶん赤旗 2013年7月4日
 参院選公示前日に9党の党首が初めて一堂に会した日本記者クラブの党首討論会。本来ならば、党首同士が活発に討論し、各記者が国民の声を代弁して質問し、参院選の争点を洗い出す貴重な時間となるはずでした。
 ところが、党首討論会の第2部では、「読売」「朝日」「毎日」「日経」の記者たちが安倍晋三首相に質問を集中させ、「大宰相」ともてはやす異常さ。「読売」の橋本五郎特別編集委員が「総理大臣中心に質問がいってしまった」と異常な運営を認めるほどでした。
 しかも、参院選の争点となっている環太平洋連携協定(TPP)や沖縄の米軍基地問題を一切とりあげず、収束していない福島第1原発事故の問題も真正面から取り上げない始末。国民の代弁者といえるのか、日本記者クラブとは一体何なのかが鋭く問われました。
 一方、党首討論会では、日本共産党など4党はほとんど無視。討論会の最後になって「読売」の橋本氏が「第2部で発言の機会が少なかった4党に二、三十秒ずつ、これを言わないと死んでも死に切れないことを最後にお話を」と笑いながら述べました。
 この間、安倍首相と巨大メディアトップとの会食が「赤旗」の報道で問題になってきました。都議選告示の前々日(6月12日)には、各紙の論説委員らが首相と会食していました。毎回、与党などに偏った運営が問題になってきた日本記者クラブの討論会ですが、権力と癒着した巨大メディアがここまで腐ってきたのかと思わせる今回の討論会でした。(松田繁郎)

憲法、原発、経済そして日中・日韓関係―争点の順位を明確に
坂井定雄 龍谷大学名誉教授  
(リベラル21 201374日)
 今回の参議院選挙はかってなく重要な選挙だ。いうまでもなく、自民党が参院の過半数を握れば、憲法改悪へ機を逸せずに動き出し、原発再稼働・推進政策を進める。
 「安倍政権の経済政策などを争点とする参院選」とNHKニュースで何度も放送していたが、これこそ安倍政権の土俵に乗った“提灯持ち”だ。選挙の争点の順位を明確にしなければならない。1に憲法、2に原発、3に経済政策(TTPを含め)、4に歴史認識と中国、韓国との関係。

 自民党と安倍政権は憲法改定を公約に掲げてはいるが、国民の反発と自民党内の反乱を避けるため、公約での順位を下げ、極力、選挙の争点にならないようにしている。しかし、選挙が終わったら、改憲勢力の「みんな」や「維新」さらには民主党の一部などを抱き込み、公明が渋ったら切っても、まず96条改定、そして憲法全面改定へと動きだす。原発も経済も、いつ政権に致命的となる事態が起こりかねない危なさがあり、安倍内閣の崩壊となって、憲法改定がすっ飛んでしまう可能性もあるのだから、改憲勢力は急ぐに違いない。

 安倍政権は「原発ゼロ」政策を当初から放棄したどころか、停止中の原発再開を後押しし、福島原発事故以前の原発推進政策に逆戻りしている。政府と東電、関電はじめ電力会社は、事故以前と同様に密接な関係になり、原発被災者への補償、福島事故の後始末、停止中の原発の再開のための安全対策、全原発の廃炉準備費用積立さらには原発停止による電力会社の経費増まで、電気料金の値上と震災復興予算のための所得税増税の流用で賄おうとしている。

 経済政策では、日銀から資金を大量に市場にばらまいた金融緩和政策で株価が上がり、輸出関連産業の利益が増え、不動産や自動車などモノが売れ出した。それがリーマン・ショック以来の不景気と閉塞感からの脱出への期待を生んだことも事実だ。だが、大手企業のボーナスは増額したが、基本的な賃金は上がらない。一方、電気料金が値上げされ、輸入品価格の上昇で食料品はじめ物価が上がり始めた。国際社会は日本の景気回復を歓迎しつ、日本での財政赤字増大に懸念を深めている。来年には消費税増税が控えている。大多数の消費者の財布は、少しも増えず、むしろ減る一方なのだ。

 「アベノミックス」の“第3の矢”では、大規模な企業減税で企業をさらに優遇し、企業投資を拡大するという。今でも巨額な内部留保を温存している大企業をさらに優遇し、その一方で国民負担をさらに重くして、日本経済と国民生活が本当に豊かになるのか。その逆ではないのか。いずれにせよ、安倍政権の経済政策の結果が、明確に出てくるのは、まだまだ先だ。この段階で経済政策を争点にしても、国民には分かりにくい。「アベノミックス」こそ安倍政権の選挙用土俵なのだ。

 歴史認識と中国、韓国との関係。「侵略戦争の定義はない」などと国会答弁までして、日本帝国の侵略戦争だった事実を認めず、中国、朝鮮半島の人々が受けた残酷な犠牲に対して、しぶしぶ村山談話の継承を表明しただけで、自らは謝罪をしようとしない姿勢。
 現在の尖閣問題の発端は石原慎太郎都知事の(当時)の挑発に野田前首相が対応を誤り、国有化して、“棚上げ”されていた“現状”を変更したことだが、安倍政権になってさらに中国との関係が悪化して、修復の手掛かりさえ見えないありさま。韓国とは、もともと保守勢力の朴大統領が従軍慰安婦問題を含む歴史認識で、安倍首相に対して厳しい批判姿勢を明確にし、就任後に最初が慣例だった日本訪問を取りやめ、中国を訪問、友好協力関係を世界に示した。

 安倍首相のこの右翼的な歴史認識、中国・韓国との関係に、中国、韓国だけでなく、国連機関も、そして安倍政権が唯一頼りにする「同盟国」の米国でも、オバマ政権を含め批判と懸念が拡がっている。このような政権ができてしまったことは、日本人として世界に恥ずかしい。

 7月1日の朝日新聞世論調査(電話)を再録するとー
1.安倍内閣の支持率55%、不支持率25%。
2.来年4月からの消費税引き上げ:賛成37%、反対51%。
3.憲法96条を改定し、衆参両院の過半数で改憲の国民投票をできるよう緩めることについて:賛成34%、反対47%。
4.原子力発電所の運転再開:賛成29%、反対53% 

―憲法と原発が選挙の争点になるのを、安倍政権は恐れるわけだ。(了)