4日付け記事「96条改憲反対の動きが広がる」で触れた若手弁護士・憲法学者たちの声明を掲示します。
声明は、96条の改定は「人権侵害がなされる危険性を増大させ、人権制約につながる恐れがが非常に大きい」と述べるとともに、自民党の改憲草案は「国民に憲法尊重義務を課し、国民の義務を拡大する一方で国家権力の権限を増大させており、近代立憲主義の思想を否定するもの」と批判しています。
自民党はいま96条の先行改定を引っ込めたかのように装っていますが、前掲記事「マスメディアは参院選の争点隠しをやめよ」でも触れたとおり、憲法改正が結党以来の党是である(石破幹事長ほか)という自民党が簡単に放棄するはずはありません。
今度の参院選では「自民・みんな・維新」の改憲勢力が80名を超えるという予想も出ています。もしも民主党内の改憲勢力(松下塾グループほか)などが合流して100名を超すようになれば、衆院と参院で共に改憲勢力が3分の2以上を占めることになります。
そうなれば安倍政権はいずれ破綻することが明らかな「アベノミクス」などにはもはや取り組まずに、一挙に96条を先行改定し、その後の3年余りの任期の中で次々と憲法を改定するものと見られています。
国民投票という防波堤は勿論ありますが恐ろしい話です。
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憲法第96条を改定し立憲主義を否定しようとする動きに反対する憲法研究者・若手弁護士共同声明
2013年7月2日
1 憲法第96条に定められた憲法改正の発議要件を、衆参両院の総議員の「3分の2以上の賛成」から「過半数の賛成」へ緩和しようとする動きが活発になっている。安倍首相や菅官房長官などからも96条の改正を目指す旨の発言が出されており、96条改定が今夏の参院選の争点の一つに浮上している。
しかし、そもそも、憲法は、個人の人権を保障するために国家権力を制限するものである。基本的人権は、多数者の意見によっては制約することができない権利であり、そのため、時の権力者が自らの都合の良いように憲法を改正して容易に人権が侵害及び制約されることのないよう、現行憲法は改正の手続きについて通常の法律よりも厳格な要件を課している。ところが、衆参両院の総議員の過半数での憲法改正の発議を可能とすると、憲法によって拘束を受けているはずの時の権力者が容易にその拘束を解くことが可能となり、人権侵害がなされる危険性が増大する。すなわち、戦前の日本と同様に、権力者を批判する言論や,権力者にとって都合の悪い思想や信条を、時の権力者やそれを支持する多数者の意向によって制約することが可能となる。
よって、96条の改正要件のうち、国会の発議を過半数の議員の賛成で可能とすることは、人権制約につながる恐れが非常に大きく、決して許されない。
2 さらに、昨年4月27日に発表された自民党日本国憲法改正草案は、96条の改正のみならず、人権制約を拡大する規定を設けている。とりわけ、同草案は、表現の自由につき、「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行」うことを禁じている(草案21条2項)。しかし、表現の自由は、民主主義社会におけるその重大な意義からして特に尊重されなければならず、時の権力者の価値判断による制約が許されてはならない権利であるから、時の権力者の価値判断の影響を受けやすい「目的」によって権利の制約を認める同条は、極めて問題が大きい。
さらに、現行憲法は、憲法尊重擁護義務の対象に国民を含んでおらず、国民の人権を保障するために憲法をもって国家権力を制限する近代立憲主義に立脚することを明らかにしている。しかし、同草案は、国民に憲法尊重義務を課しており(同102条)、「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」と規定するなど(同12条)、国民の義務拡大を図っている。このように、同草案は、国民の義務を拡大する一方、国家権力の権限を増大させており、国家権力を制限して国民の権利・自由を守ることを目的とするという近代立憲主義の思想を否定するものといわざるを得ない。
3 以上のように、自民党の日本国憲法改正草案をはじめとする96条を改定し立憲主義を否定しようとする動きは、時の権力者による人権制約が容易となることにつながる。
よって、我々憲法研究者並びに若手弁護士一同は、憲法96条を改定し立憲主義を否定しようとする動きに対し、反対の意思を表明するものである。
以上
《呼びかけ人》
●憲法研究者(五十音順・敬称略)
愛敬浩二(名古屋大学教授)奥平康弘(東京大学名誉教授)
小松浩(立命館大学教授)阪口正二郎(一橋大学教授)
西原博史(早稲田大学教授)森英樹(名古屋大学名誉教授)
山内敏弘(一橋大学名誉教授)
●若手弁護士(五十音順・敬称略)
打越さく良(東京)小野寺信勝(熊本)川口創(愛知)笹山尚人(東京)
神保大地(札幌・明日の自由を守る若手弁護士の会共同代表)
種田和敏(東京)増田尚(大阪)渡部容子(仙台)