2018年1月21日日曜日

21- そんなに戦争をしたいのか 南北融和に苛立つ安倍首相

 米国の研究機関「38ノース」、北朝鮮が東京とソウルに砲撃とミサイル攻撃を行えば、両都市で合計210万人が死亡し、負傷者は770万人に上ると見ています
 北朝鮮はソウルを射程範囲に収める大量の長射程砲で韓国をにらみ、集中砲火を許せば2000万人超が暮らすソウル首都圏は短時間で「火の海」になり、1日ごとに数万人以上が犠牲になります。また日本を射程範囲に収めるミサイル「ノドン」も200~300基を保有しています。
 韓国の文在寅政権は、そうしたリアルな被害を理解しているからこそ、対話路線にカジを切った筈で、トランプ大統領も少なくとも表面上は全面的に歓迎しています。

 そんな中で安倍首相だけは、ひたすら(アメリカの指導者以上に北朝鮮危機を煽り強硬路線に固執しこの南北の対話路線には浮かない顔をしています。彼から北朝鮮の反撃によって日本がどんな被害を受けるのかについての懸念が全く聞かれないのは不思議なことです。

 読売新聞が12月20日に報じた世論調査によると、米国が北朝鮮に対し軍事力を行使することについて「支持する」が47%もありました。この人たちも多分日本が受ける被害については「無知」の状態にあるのでしょう。国の指導者のあり方が如何に国民を誤らせるかの好例です。
 日刊ゲンダイは、「挑発外交を支持する多くの国民そろそろ圧力路線の幻想から抜け出さなくてはならない」と述べています。
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そんなに戦争をしたいのか 南北融和に苛立つ異様な世相
日刊ゲンダイ 2018年1月19日
(阿修羅 投稿 赤かぶ より転載)
 韓国と北朝鮮は17日の南北次官級会談で、アイスホッケー女子の合同チーム結成や開会式での合同入場行進など11項目を合意。南北の合同チームは五輪史上初めて。開会式では白地に青で朝鮮半島を描いた「統一旗」を手に行進する。
 南北対話を機に朝鮮半島の緊張緩和に向けた環境が整いつつあるのは、良い兆候だ。この動きを後退させず対話を通じて北朝鮮問題の平和的解決に結びつけることが国際社会の責務のはずだ。

 ところが、平昌五輪を通じた南北の融和ムードに安倍政権はイラ立ちを隠そうとしない。
 一連の南北対話が始まる直前の7日、安倍首相はNHK番組で「対話のための対話では意味がない」とクギを刺し、バルト3国、東欧3カ国歴訪でも北朝鮮への圧力強化を各国首脳に吹いて回った。
 カナダのバンクーバーで開かれた北朝鮮問題に関する20カ国外相会合では、河野外相が南北対話について「北朝鮮が核・ミサイル計画を執拗に追求している事実から目を背けるべきではない。時間稼ぎを意図している」と演説。北の美女応援団を念頭に「『ほほえみ外交』に目を奪われてはならない」と強調した。

 何しろ安倍は国連演説で北朝鮮問題について「対話による問題解決の試みは、一再ならず無に帰した」と断言。北に「異次元の圧力を科す」とほえまくってきた。せっかく芽生えた南北の対話機運がおもしろくないのか、政権を挙げて水を差すような言動を繰り返しているのだ。

■南北対話に冷や水を浴びせる忖度メディア
 あのトランプ米大統領でさえ、南北対話を歓迎しているのに、狂ったように北への圧力と対話路線の否定を訴え続ける安倍外交は、常軌を逸している。
「安倍政権は圧力を強化すれば、北朝鮮が核もミサイルも放棄し『もう許してください』と土下座で降参するとでも思っているのでしょうか。圧力路線は何ら成功の見込みはないですし、むしろ北朝鮮の暴発の危険性を高める愚かな行為です。いつの時代も対話の積み重ねによる外交努力でしか、戦争は回避できません。『対話のための対話は不要』なんて、戦争をやりたがっている人間のセリフですよ」(政治評論家・森田実氏)

 安倍首相や河野外相らの異常な言動をいさめるどころか、無批判で垂れ流し、逆に圧力路線をけしかけているのが、日本のメディアだ。
 南北次官級会談の翌18日に読売新聞は社説で、北との融和ムードを高める韓国に対し「包囲網に穴を開けるな」と書き、合意を伝える記事には「北 文政権取り込む」と否定的な見出しを掲げた。日経新聞も同様で「北朝鮮、融和に引き込む」との見出しの記事で、「北朝鮮は五輪を『人質』に韓国を融和路線に引き込もうとしている」と報じた。
 どの新聞・テレビも、もっぱら北との対話路線にカジを切った韓国の文在寅政権は日米との連携を乱し「けしからん」という論調に満ちている。メディア総出で南北対話の否定とは、まるで安倍の心境を「忖度」しているような報道姿勢だ。

狂気じみた政権をたきつける異常な世論
 危ういのは南北融和にイラ立ち、さながら朝鮮半島の緊張を高めるのが目的のような挑発外交をはやし立てるメディアに駆り立てられたのか、「圧力」を求める世相がはびこっていることだ。
 先月20日発表の読売新聞と米ギャラップ社が実施した日米共同世論調査の結果はショッキングだ。北朝鮮の核・ミサイル実験をやめさせるための国際社会の行動に関する質問では、日本の回答者の52%が「圧力」を重視すべきだと答え、「対話」重視は40%にとどまった。半数以上の国民が安倍の「挑発外交」を支持していることになる。
対話という落としどころを用意せずに圧力だけを強めるのは、『戦争辞さず』の覚悟を北朝鮮と世界に向かって宣言しているのと同じ。そんな無軌道な指導者の勇ましい言動を世論が歓迎し、『敵をやっつけてしまえ』という単純な風潮にカタルシスを感じるようでは戦前の繰り返しです。無謀な戦争を煽ったのは国民の熱狂だったことを忘れてはならない。世論が南北融和にイラ立ち、北朝鮮への強硬路線を求めれば、圧力一辺倒の単細胞政権がますますツケ上がる。非常に危うい負の連鎖です」(ジャーナリスト・高野孟氏)

 北への圧力を支持する国民感情に気を良くして政府・与党は大張り切りだ。自民党の安全保障調査会では「ミサイルを発射される前に基地をたたき潰せ」と言わんばかりに、北朝鮮への先制攻撃もいとわない「敵基地攻撃能力」の保有を求める議論が活発化している。
 もはや憲法9条に基づいた「専守防衛」の原則は風前のともしび。異様な世相が狂った政権をたきつけ、この国を戦争の危機へと陥れようとしているのだ。いつから日本は狂気が支配するような国になってしまったのか。

■つゆと消えた日米韓包囲網という幻想
 北朝鮮問題について、「いまの状況は明らかに危険」と断じたのは、クリントン政権で国防長官を務めたスタンフォード大教授のウィリアム・J・ペリー氏だ。94年の第1次北朝鮮核危機の交渉責任者で、長官辞任後も北の核実験を抑制するための交渉に当事者として関わった人物である。
 ペリー氏はニュースサイト「現代ビジネス」への特別寄稿(12日付)で、北朝鮮は体制維持を何より最優先させると指摘。金王朝が権力の座から排除されるとハッキリすれば「死に物狂いの最後の一手として、核兵器を使うだろう」と警告を発した。ペリー氏が恐れるのは、北朝鮮が自発的に始める戦争ではなく、彼らがうっかり迷い込む戦争なのだ。そして次のような苦言を呈した。
「にもかかわらず、愚かなことに、強く脅威を感じさせるような派手で大げさな言葉を弄して騒ぎ立て、危険を煽ろうとする者がいる。北朝鮮は数十年のあいだ、そうした言葉が出てくるのを待っていた。そして最近になってようやく、そんな言葉を好き放題に並べ立てるアメリカの指導者が出現したというわけだ」

 ペリー氏が辛辣に批判する「アメリカの指導者」以上に、北朝鮮危機を煽り、強硬路線に凝り固まっているのが、安倍だ。北との対話を否定すれば、軍事力の行使しか選択肢は残されていない。その場合、核関連施設などを狙った限定攻撃を加えても、北の反撃により戦況がエスカレートするのは不可避だ。

 北朝鮮は大量の長射程砲で韓国をにらむ。集中砲火を許せば2000万人超が暮らすソウル首都圏は短時間で「火の海」に染まり、1日ごとに数万人以上が犠牲となる。米国の有力な北朝鮮専門研究機関「38ノース」の推計だと、北が東京とソウルにミサイル攻撃を行えば、両都市で合計210万人が死亡し、負傷者は770万人に上る
戦争のリアルな被害を理解しているからこそ、韓国の文在寅政権は対話路線にカジを切ったのでしょう。今や核兵器を保有する北朝鮮に、日本は単独で戦争する能力を持ち合わせていません。それでも平和主義を捨て去り、対話を否定する政権を世論が支持するのなら、狂気じみています」(森田実氏=前出)

 前出の高野孟氏はこう指摘する。
「安倍首相は盟主とあがめる米国の背中に隠れながらの強硬姿勢で、韓国を叱咤激励し、北朝鮮包囲網をつくり上げているつもりなのでしょう。しかし、その米日韓同盟から真っ先に韓国が対話路線に転じ、それを米国が全面的に歓迎している。もはや安倍首相が思い描く対北包囲網は『虚像』に過ぎず、圧力を強めるほど国際社会から孤立するだけです」

 挑発外交を支持する多くの国民も、そろそろ圧力路線の幻想から抜け出した方がいい。