韓国の文大統領は北朝鮮の呼びかけに応じて南北会談を行い、トランプ大統領もその動きを全面的に歓迎しています。
アメリカは自らが米朝会談を行うことには後ろ向きに見えて真意を測りがたいのですが、世界の盟主を自認しているので、成り行きについて見極めができないと踏み込めないのでしょう。その意味で南北会談を歓迎するというのは偽りではなさそうです。
日本だけは相変わらず「対話のための対話は無益」、「北朝鮮の時間稼ぎに過ぎない」として、ひたすら北朝鮮が全面的に屈服するまで制裁を続けるべきだと主張しています。
それに対して18日、北朝鮮は日本政府が国際社会に北朝鮮への圧力強化を働きかけていることを非難する談話を発表し、安倍総理大臣や河野外務大臣を名指しして「一国の首脳として余りにも愚か」と批判しました。
オバマ大統領は来日した時に「核の先制不使用宣言」を用意していたと言われます。しかし安倍首相は必死に反対して宣言を中止させました。それは北朝鮮に対して先制使用する余地を残しておくべきだという意味で、実に罪深いものでした。
その日本が、今度は北朝鮮が核を保有したままで問題の決着を図るのは絶対に認められないと主張しているわけです。
安倍首相は、憲法9条を有する国のリーダーには最も似つかわしくない人物といえます。
高野孟氏の連載記事「永田町の裏を読む」を紹介します。
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永田町の裏を読む
安倍首相に対話路線のトランプを非難する勇気があるのか
高野孟 日刊ゲンダイ 2018年1月18日
韓国と北朝鮮が閣僚級会談を開き、平昌五輪に北が参加するなどの合意が得られたのは、大いにめでたいことで、これを後退させずに対話を通じた平和的解決につなげていく国際社会の努力が求められる。ところが、日本の安倍ベッタリ新聞のこれに対する反応はほとんど常軌を逸していて、金正恩の呼びかけに応じた文在寅の姿勢は「日米韓の連携に水を差し、北朝鮮の思うつぼ」にはまるものだというネガティブな評価である。
今の引用は1月11日付日本経済新聞第2面の社説「北朝鮮への疑念拭えぬ南北対話の再開」からのものだが、同日付の同紙の紙面を見渡すと、第9面で「文氏危うい『南北主導』/包囲網に抜け穴懸念」「米、韓国の独断専行警戒/過度な融和姿勢にクギ」と、もっぱら文が日米の路線から脱して独自の行動を取るのはけしからんという論調。
「専門家はこう見る」というコラムでも「米韓は共同歩調保て」と、韓国が勝手な真似をするのは許さないという米専門家の意見を並べている。さらに第3面では「慰安婦、すれ違う日韓/文氏、内向き強める/対北朝鮮協力にもリスク」と、文政権の慰安婦問題での対日姿勢が北朝鮮を利することになるというソウル特派員の冗長な記事を掲げている。まさに全紙面を挙げて、文政権の南北対話への積極姿勢は「危険」だと水をかけているのである。
ある元外交官が言う。
「この日経の論調は、外務省の旧態依然の冷戦思考そのまま。米国を盟主と仰いで、その両脇を日本が左大臣、韓国が右大臣として固めて、その3国軍事同盟で、いざとなれば戦争も辞さずという強硬姿勢で、北朝鮮、それを陰に陽に支援する中国、ロシアの旧共産陣営に立ち向かっていくのだというアナクロニズムの極致です。ところが、その米日韓同盟から真っ先に韓国が対話路線に転じ、それを米国が全面的に歓迎するということになってきて、すでに安倍の思い描く3国同盟は崩壊しているのです」と。
安倍はこれまで「対話のための対話」は要らないと言ってきた。その意味は、北が全面屈服して、核もミサイルも廃棄し、拉致被害者もすべてお返ししますからお許し下さいと申し出てこない限り、対話などあり得ないということだろう。
ところが文もトランプも「対話のための対話」の方向に踏み出してしまって、さあ安倍はどうするのか。文はともかく、トランプを非難する勇気があるのだろうか。
高野孟 ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。