2018年11月3日土曜日

03- 東京新聞 <税を追う> 4~5

 安倍政権になってから著しく増加した防衛予算、特に兵器購入費をテーマにした東京新聞の <税を追う>シリーズの第4弾と第5弾を紹介します。
 今回は購入した5種類の米国製兵器の維持費に20~30年間で総額2兆7000億円もの巨費が掛かるということと、それらの修理・整備・維持管理に国内企業が追われ、その結果国産の兵器やFMS以外で調達した兵器の維持整備費にしわ寄せが来て、十分に行われていないという問題を取り上げました。
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<税を追う>米製兵器維持費、2兆7000億円 防衛予算を圧迫
東京新聞 2018年11月2日
 防衛省が米国政府の対外有償軍事援助(FMS)を利用して導入、あるいは導入を予定している戦闘機「F35A」など五種の兵器だけで、廃棄までの二十~三十年間の維持整備費が二兆七千億円を超えることが同省の試算で分かった。同省は二〇一九年度のFMSによる維持整備費に千七十五億円を見込んでいるが、F35Aなどの本格的な配備はこれからで、将来的に年間の維持整備費が大幅に増え、防衛予算を圧迫していく。(「税を追う」取材班)
 
 日本などの同盟国がFMSを利用して米国から兵器を購入する際、米国政府は最新技術の流出を避けるため、秘匿性が高い部分の修理整備はFMSに基づき、製造元の米国メーカーが行うことを求めている。購入国は兵器を廃棄するまで、維持整備費を米国政府に払い続けることになる。
 防衛省の試算によると、四十二機導入するF35Aの場合、機体の購入費(計五千九百六十五億円)に加え、米国政府などに支払う維持整備費に三十年間で約一兆二千八百億円を見込む。
 このほか購入費が高い輸送機「オスプレイ」(十七機)▽無人警戒機「グローバルホーク」(三機)▽早期警戒機「E2D」(六機)▽地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」(二基)は、二十~三十年間の維持整備費計約一兆四千三百億円がかかる。
 既に配備されているのはF35Aの九機だけで、配備が進むごとに維持整備費は大きく膨らむ。
 日本側が維持整備の一部を請け負う場合もあるが、米国から兵器を導入すると整備や技術指導を担う米国の技術者らが日本に滞在することになり、その渡航費や人件費は日本側が「技術支援費」として支払う。米国から取り寄せる部品も高額なため、輸入兵器の維持整備費は、国内で調達するより割高になる。
 国産・輸入両方の高額兵器の購入費は複数年度で支払うことができ、二年目以降が後年度負担(ローン残高)と呼ばれる。一二年度まで三兆円前後で推移していた兵器ローン残高は、安倍政権による米国製兵器の導入拡大で急増。一九年度予算で約五兆三千四百億円に達する見込み。さらに今後FMSによる維持整備費が膨らめば、兵器ローンの増加に、歯止めがかからなくなる恐れがある。
 
◆高級車購入と同じ
<防衛装備庁プロジェクト管理部の話> FMSで購入するような高性能の装備品は、高級車を買った際に維持費がかさむのと同じだ。今後、さらにFMSの維持整備費が上昇する傾向にあるのは間違いない。国産装備品にしわ寄せが及ばないような装備政策を立てていきたい。
主なFMS兵器の購入費と維持整備費
主なFMS兵器
 
購入総額
配備時期
維持費
単年度
 
戦闘機 F35A
42機
5965億円
17年度から
約429億円
1兆2877億円
オスプレイ
17機
1681億円
18年度以降
約219億円
4394億円
早期警戒機 E2D
6機
1471億円
18年度から
約275億円
5504億円
グローバルホーク
3機
574億円
21年度
約122億円
2449億円
イージスアショア
2基
2679億円
24年度ころ
約66億円
約2000億円
     註 維持費総額は戦闘機は30年間、その他は20年間で算出
 
 
<税を追う> 米国製優先、飛べぬ国産 整備部品足りず自転車操業
東京新聞 2018年11月2日
 安倍政権で急拡大した米国製兵器の導入により、戦闘機など五種の兵器だけでも、向こう二十~三十年間の維持整備費が二兆七千億円を超える防衛省の試算が明らかになった。そのあおりで国産を中心に、米国政府の対外有償軍事援助(FMS)以外で調達した兵器の維持整備費にしわ寄せが来ている。主力戦闘機ですら故障部品の修理が進まず、稼働率は大幅に低下。現場の自衛隊では、国産兵器の運用に危機感が広がっている。(「税を追う」取材班)
 
 「航空自衛隊の維持整備は現状でも部品不足が累積し、借金まみれのような状態だ」。昨年八月まで空自の補給本部長を務めた尾上定正氏は、現場の窮状を厳しい表情で明かした。
 その一つに挙げたのが二百機を数える戦闘機F15。米企業とライセンス契約を結んだ国内最大手の三菱重工業が生産し、修理を手掛ける主力戦闘機だ。領空侵犯の恐れがある、他国の軍用機に対する緊急発進のほとんどを担うため、最優先で整備している。
 しかし、そのF15ですら部品の在庫が乏しく、すぐに修理・整備できないケースが相次ぐ。仕方なく、整備中のもう一機の部品を流用する「共食い整備」でやりくりしているという。
 「部品を流用された機体は飛べなくなるから、F15の稼働率は大幅に落ちている」と尾上氏。優先度の低い整備は後回しになりがちなため、将来のパイロットの育成に使う練習機「T4」などは、故障すると倉庫に置かれたままにされるのが現状だ。
 
 空自がFMSで導入する最新鋭戦闘機「F35A」で既に配備されたのは九機。将来的に計四十二機に増える。「F35Aが増えるほど、それ以外の維持整備費は圧迫される。極端に言えば、F35A以外の空自の飛行機は動かなくなる」と尾上氏は懸念する。
 危機感は自衛隊全体に広がる。「自転車操業で運用上の問題は生じていないのか」。昨年十二月に防衛省で開かれた調達審議会で、有識者の一人が海上自衛隊の国産の哨戒ヘリコプター「SH60K」でも、いわゆる共食い整備が行われていると実態を取り上げた。
 「運用に影響を及ぼしている部隊もある」。当事者の防衛省側がそう認めざるを得ないほど、共食い整備の影響は深刻化している。