政府は来年4月からの外国人労働者受け入れ拡大に向けて入管難民法改正案の臨時国会成立を目指していますが、受け入れ業種や規模も明らかになっておらず、「生煮え」そのものの法案です。政府と財界が外国人を使い勝手の良い労働力とみなしているのは明らかで、それはそのまま日本人の雇用条件の劣悪化に直結します。
そのことはひとまずおくとして、その原型になっている外国人技能実習生制度の実態はどうなのでしょうか。8日、野党の求めで外国人技能実習生らが国会に呼ばれ、関係省庁の担当者らに窮状を訴えました。
そこで明らかにされたのは、当初の約束とは違う放射能除染作業に400日間も従事させられたり、パワハラを受けたり、作業中に手の指を3本切断される労働災害を起こしても、治療費は自己負担で帰国を進められるなどの、奴隷的ともいえる労働実態でした。
技能実習生の失踪が20年に7000人超と過去最高に達し、今年もすでに4200人超に上っているのは、多くはこの奴隷的な労働実態のためです。現実に法務省の調査では失踪理由の87%が「低賃金・契約賃金以下・最低賃金以下」であって、17年の労基署の調査では70・8%に法令違反があったことが明らかになっています。
こうした実態を放置したままで外国人労働者の大規模な拡大を目指すなどというのは到底許されません。
外国人技能実習生制度の実情に関する記事を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「除染作業強制」「残業代300円」外国人実習生窮状訴え
東京新聞 2018年11月9日
外国人労働者受け入れを拡大する入管難民法改正案を巡り、外国人技能実習生らが八日、野党の求めで国会に呼ばれ、関係省庁の担当者らに窮状を吐露した。パワハラや労災事故、除染作業など、過酷な実態を涙ながらに訴えた。(小野沢健太)
「職場でいじめに遭いました。仕事を頑張っても認めてもらえないし、残業もさせてもらえない」
中国人女性の史健華(しけんか)さん(35)は涙を拭い、日本語で静岡県の製紙工場での生活を振り返った。上司から仕事を与えられず、配置転換の願いも無視され、飛び降り自殺を図った。「今、うつ病の治療を受けています」と力ない声で話した。
この日招かれたのは、労働組合などに相談している中国、ベトナム、カンボジア、モンゴルの実習生十六人。岐阜県の段ボール工場で働いた中国人男性の黄世護(こうせいご)さん(26)は、作業中に機械で指を切断した。会社からは帰国を促され、治療費も自己負担を求められた。「けがをしたら、なぜ帰らないといけないのか」とつっかえながら訴えた。
ベトナム人実習生の男性は、岩手県の建設会社で鉄筋型枠の技術を学ぶはずが、福島県内で四百日間、原発事故後の除染作業に従事させられた。「専門技術を学びたくて来たのに…。全然勉強できないじゃないですか」と怒りを押し殺すように話した。
縫製工場で一日十六時間の長時間労働を強いられた中国人女性も。残業代は一時間三百円だった。
実習生を支援するNPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」の鳥井一平代表理事は「現状の技能実習制度は奴隷労働と同じ構造。これを改める議論もなく、外国人労働者受け入れ拡大にかじを切るのはおかしい」と批判。野党議員から感想を求められた法務省の担当者は「さまざまな問題が起きているとの指摘。きちんと対処したい」と述べた。
◆入管法改正案「拙速」批判強く
人手不足に悩む経済界の要望を受け、政府は外国人労働者受け入れ拡大のため、在留資格を新設する入管難民法改正案の臨時国会成立を目指している。高度な専門人材に限っていた政策を転換、単純労働分野の就労を可能とする。二日には閣議決定し、与党が十三日の衆院審議入りを目指している。
政府は来年四月一日施行を目指すが外国人労働者の受け入れ業種や規模は明らかになっておらず「生煮え」「拙速」の批判は強い。日本人雇用への影響を懸念する声のほか、外国人を使い勝手の良い労働力とみなす問題点も挙げられている。
移民国家スイスでは「われわれは労働者を求めたが、やってきたのは人間だった」という作家の言葉がある。この日は、違法な長時間労働や賃金不払いに苦しむ外国人労働者の実情を示すため、技能実習生が国会に招かれた。 (池田悌一)
在ベトナム日本大使館員が告発 外国人実習生の悲惨な実態
日刊ゲンダイ 2018年11月9日
安倍政権は今国会で入管法を改め、来年4月からの外国人労働者の受け入れ拡大をもくろんでいる。現状でも外国人技能実習制度が悪用され、「実習生」は低賃金で過酷な労働を強いられているのも、お構いなし。耐えかねた実習生の失踪は年間7000人超。ベトナムは最多の12万人の技能実習生を日本に送り出しているが、現地の日本大使館の現役書記官までが「ベトナムの若者の人生をメチャクチャにしている」と警鐘を鳴らしている。
■<大使館にとって最重要課題>
安倍首相は臨時国会の所信表明演説で「入管法改正」を訴えた中で、半年前に来日したベトナムのクアン国家主席(9月21日死去)との会話を取り上げた。 「(クアン主席が)来日の際、訪れた群馬の中小企業では、ベトナムの青年が、日本人と同じ給料をもらいながら一緒に働いていた。そのことをクアン主席は大変うれしそうに私に語って下さった」
7日の参院予算委員会で小池晃議員(共産)は「群馬のケースはごく一部だ」と指摘しながら、紹介したのは在ベトナム日本大使館がリリースしたセミナーの記事だ。10月13日にベトナム・ハティンで開催された日越人材育成交流会。訪日希望の学生や教育関係者ら240人が参加した。日本大使館を代表して桃井竜介1等書記官があいさつ。多くのベトナムの若者が日本で働いていることを喜びつつ、こう語ったのだ。
<ベトナムは(日本での)技能実習生の失踪者数、犯罪検挙件数がワースト1位。ベトナムの若者は決して最初から犯罪をしようと思って日本に行っているのではなく、犯罪をせざるを得ない状況に追い込まれています。ベトナムそして日本において、悪徳ブローカー、悪徳業者、悪徳企業が跋扈しており、ベトナムの若者を食い物にしています>
<日本におけるベトナムのイメージ、そしてベトナムにおける日本のイメージが悪化することを懸念しています。本問題は大使館にとって最重要課題です>
あいさつをした桃井書記官に改めて話を聞くと、「ベトナムだけでなく、日本側の受け入れる管理団体や企業にも悪いところはあると思います」と語った。技能実習生の現状を見るに見かねた大使館の異例の“あいさつ”ではないか。
小池氏に見解を聞かれた河野太郎外相は「ベトナム国内で、ベトナムの若者の夢を損なうようなブローカーが跋扈していることは重大な課題だ」と、あえてベトナム側の問題だけに言及。
■前のめり政権は聞く耳を
安倍首相も河野外相も、都合のいい一部だけを見て、日本が悪い悲惨な実態からは目をそらす。そうして、外国人労働者受け入れ拡大に前のめりになっているが、半年でマトモな受け入れ態勢を築くのは不可能だ。
例えば、ベトナム人実習生は12万人もいるのに、厚労省には、ベトナム語ができる相談員はたったの1人しかいない。週2回、面談や電話で相談を受けているというから、あまりにもショボ過ぎる態勢だ。
小池氏は「来年の4月までに、これだけの問題が山積しているものが解決できるのか。決意だけ語って、ボロボロの臨時国会で通すなど許されない」と法案の撤回を求めた。 見切り発車で外国人労働者を拡大すれば、国際社会における日本のイメージは奈落の底だ。
作業中指3本失う 16時間働き残業代1時間300円
外国人実習生 実態を告発 入管法改定案 野党ヒアリング
しんぶん赤旗 2018年11月9日
外国人労働者の受け入れ拡大を目的とした出入国管理法改定案をめぐり、6野党・会派は8日、国会内で行った合同ヒアリングにベトナム人などの技能実習生や支援者を招き、深刻な人権侵害の実態を聴きとるとともに、実態を明らかにする資料の提出を政府側に改めて求めました。
実習生からは「作業中の事故で指を3本失ったが、病院には自分で行けと言われた」「朝8時から深夜12時まで働かされた。残業代は1時間300円しか支払われなかった」などの過酷な実態が次々と語られました。
ヒアリングでは、失踪実習生から入国管理局が失踪の動機や実習先の就労実態などを聞きとった「聴取票」のデータ公表を求めました。法務省は「個人情報に関わる」「提出については持ち帰って検討したい」と述べました。
野党側は「個人情報部分は黒塗りでかまわない」「実態把握は法案審議の前提だ」と重ねて提出を求めました。