2018年11月2日金曜日

シリーズ<税を追う> 2~3(東京新聞)  

 東京新聞が、安倍政権になってから著しく増加した防衛予算、特に兵器購入費をテーマにした <税を追う>シリーズの、第2弾と第3弾を出しましたので紹介します。
 今回は、本予算における兵器購入額を目立たないようにするため、補正予算にその分を振り分けている問題を取り上げました。
 補正予算は本来、自然災害や不況対策などのために組まれているものなので、正規購入分(の一部を)をそれに充てる使い方は趣旨に反するものです。
 
 このシリーズは断続的に掲載されているもので、下記の記事が第1回目になります。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
<税を追う> 兵器購入「第二の財布」 補正で「本予算膨張」批判逃れ
東京新聞 2018年11月1日
 自衛隊の艦船建造をめぐり、本来は自然災害や不況対策などに組まれる補正予算を、防衛省が本予算(当初予算)と一体で活用していたことが明らかになった。安倍政権で急増する米国製兵器の導入で、本予算だけでは賄いきれず、補正予算が「第二の財布」になっている格好だ。本予算の大幅アップには世論の目が厳しく、専門家らは「本予算を小さく見せるフェアではないやり方だ」と批判する。 (「税を追う」取材班)
 
 「最近、予算が増えているとはいえ、世の中は防衛費ばかり認めないでしょう。社会保障費だって必要だろうと」。自衛隊の幹部は、艦船建造費が本予算と補正に振り分けられた事情をそう語る。
 防衛予算は二〇一三年度から一八年度まで六年連続で増額。一六年度当初予算で初めて五兆円を突破した。その一方で、高額の最新鋭戦闘機F35や輸送機オスプレイなどの米国製兵器や、国産の新型護衛艦なども毎年のように導入しており、複数年度で支払う兵器ローン(後年度負担)残高は積み上がるばかり。
 「正直、足りない。国防族の先生(国会議員)方は防衛費をもっと増やせと言ってくれるが、現実は難しい」と幹部は言う。
 そこで事実上、抜け道に使っているのが補正予算だ。防衛省は一四年度以降、当初予算を補填(ほてん)するように毎年二千億円前後を追加している。この中には一一年度の東日本大震災や頻発する台風・豪雨災害に対応した予算もあるが、一四年度からは北朝鮮情勢など「安全保障環境への対応」を理由に兵器調達費を次々と計上。一七年度は主な項目だけで千八百億円に上る。補正予算を加えると、防衛費はすでに一四年度から五兆円を超えている
 
 防衛省は「早期に必要なものに補正予算を充てている」と説明する。だが予算編成に詳しいある元防衛省幹部は「かつては補正で装備品を買うことは考えられなかった。何でもありになっている」と心配する。
 防衛装備品の補正予算への計上は、二年目以降の支払いの一部を前倒しすることが多い。元幹部は「補正に支払いの一部を前倒しすれば、その分、本予算で新しい装備品を買う枠ができる」と本音を語る。
 国産と輸入兵器のローン支払いは、一九年度予算の概算要求で二兆七百八億円。だが、同時に返済額を四千億円以上も上回る二兆五千百四十一億円の新たな後年度負担が見込まれており、借金はさらに膨らむ。元幹部が「自転車操業」と表現する悪循環に歯止めがかからない。
 その先に見え隠れするのは、税金を原資としたさらなる防衛費の大幅増だ。
 
◆補填 安倍政権で顕著に
 防衛費の補正予算は、旧防衛庁が省に移行した二〇〇六年度以降、一〇年度までは〇六年度の五百六十一億円が最高で、内容は燃料の油購入費や米軍基地対策費などが中心だった。
 ところが、東日本大震災を受けた一一年度の三千三百億円を除き、第二次安倍政権発足後の一四年度からは、それまでの二倍の規模に増大し、二千億円前後で推移。一七年度は二千二百七十三億円と、〇六年度以降で最高を記録した。
 装備品関係の支出が目立っており、「武器車両等購入費」「航空機購入費」「艦船建造費」の主な項目の合計でも一五年度から三年連続で一千億円を超え、一七年度は千七百九十三億円と急速に増加している。哨戒機やミサイル、装甲車などのローン(後年度負担)払いが含まれる。
 国内外の兵器導入に伴うローン残高は一八年度予算で約五兆八百億円と急増しており、支払いの一部を補正予算に計上していることが、補正増大の要因とみられる。
 
◆正直でないやり方
<軍事ジャーナリスト清谷信一氏の話> 国の借金が巨額に上り、消費税増税が必要だといいながら、防衛費にじゃぶじゃぶ使えば世論の批判を浴びる。事実上、本予算を小さく見せるために補正予算を使っている。実質的に本予算なのに、この補正予算は別です、と国会に提出するのは正直ではないやり方だ。
 
 
<税を追う>護衛艦や潜水艦 兵器予算を補正で穴埋め
東京新聞 2018年11月1日 朝刊
 護衛艦や潜水艦を建造するための防衛省の予算要求を巡り、財務省の査定で本予算(当初予算)に盛り込まれなかった分が、そのまま補正予算に計上されているケースのあることが本紙の調べで分かった。二〇一三年度以降の六件の艦船建造費で、本予算と補正の合計額が防衛省の要求額とぴたり一致した。当初予算の不足分を補正予算で補填(ほてん)している格好だ。補正予算は本来、自然災害や不況対策として組まれるもので、補正の趣旨から外れているとの指摘が出ている。(「税を追う」取材班)
 
 本予算の減額分と補正予算の金額が一致したのは、護衛艦二隻と潜水艦四隻のローン(後年度負担)払いの建造費。一五年から建造が始まった護衛艦「まや」の場合、防衛省は一七年度予算で百九十三億円を要求。本予算案に盛り込まれたのは百六十二億円で、不足分の三十一億円は一六年度補正予算案に前倒しで計上された。
 二つの予算案は一六年十二月に同時に閣議決定されたが、会計年度が異なるため国会で別々に審議され、補正は一七年一月に、本予算は三月末に成立した。
 まや以外の五隻の一五~一七年度の要求額は計九百八十九億円。うち本予算に盛り込まれたのは計八百六億円で、残りの百八十三億円はそれぞれ前年度の補正予算に前倒しで計上され、事実上補填されていた。
 本予算と補正の合計額と防衛省の要求額の差が、わずか1%以内に収まるケースも一四~一八年度に航空機購入費などを含めて計九件あり、各前年度の補正に回した額は計九百三十億円に達した。
 
 補正予算の理由を防衛省は「装備品を早期に整備するために前倒しした」と説明するが、艦船の建造で完成時期が早まったケースはなかった。受注企業の関係者も「建造工程はぎっちり決まっており、途中から早まる余地は基本的にはない」と話している。
 〇六~一八年度予算を見ると、艦船建造費などのローン払いを本予算と補正予算に振り分けるようになったのは一四年度から。安倍政権発足後、米国製兵器の輸入拡大に伴い国産を含めた兵器ローン残高が急増したことが背景にある。一九年度は五兆三千億円を超す見通しだ。
 ある防衛省幹部は「防衛費が伸びているといっても後年度負担が重く、活動経費を圧迫している。苦肉の策だが、後年度負担を補正に回せば当初予算に余裕ができる」と証言している。
 
◆必要に応じ前倒し
<防衛省会計課の話> わが国周辺の安全保障環境を踏まえ、早期に必要となる装備品について、前倒しして計上している。企業に早期に支払うことで製造工程の進捗(しんちょく)を図るためで、当初予算の裁量的経費を捻出するためではない。
◆補正の趣旨外れず
<財務省主計局防衛係の話> 緊急性などに合理的理由があると判断しており、補正予算の趣旨から外れるものではない。補正への後年度負担の前倒し計上は、結果的に当初予算の後年度負担を軽くすることはあるが、それが目的ではない。
 
◆本予算計上が筋
<小黒一正法政大教授(財政学)の話> 補正予算は本来、災害など年度途中に予期しない事態が起きた場合への対応で編成するものだが、実態は形骸化している。防衛装備品の購入費は原則的に当初予算で手当てするのが筋だ。特に年度が異なる補正と当初予算をセットで編成するようなやり方は、全体が見えにくくなる。国民が防衛費のあり方を正確に把握し、議論する上でも好ましくない。
 
◆防衛費ありのまま示せ
 防衛省がここ数年、艦船の建造費を本予算と補正予算とに振り分けていた背景には、安倍政権で米国製兵器の導入が急拡大し、ローン(後年度負担)残高が急増していることがある。
 財政法上、補正予算の要件は厳格ではない。年度当初からの事情変化や緊急性という名目があれば、あとは「政府の裁量」(財務省担当者)の枠内となる。
 防衛省は補正への振り分けを「装備品を早期に整備するため」と説明する。だが実際は、毎年増加する兵器ローンの支払いをそのまま本予算に盛り込めば、新たな装備品購入などに使う「自由枠」が縮小する。そこで一部を補正に振り分け、自由枠を確保するのが狙いとみられる。
 だがそれは補正予算の趣旨に照らして疑問がある。防衛費の規模は本予算をベースに議論されるため、国会や審議会は本来よりも少ない額で、妥当性を検証していることになる。補正予算が「第二の財布」と化している実態は見えにくく、本予算を矮小(わいしょう)化する弊害は大きい。まず、そのままの姿を国会や納税者に示すべきだ。 (原昌志)