2018年11月5日月曜日

山梨・北杜中 中1いじめを「放置」

 小中高校におけるいじめの認知件数(=報告件数)が増加しているのは、いじめが増えたというよりも認知率が上がった結果といわれています。以前は表面化しなかったいじめが、学校側がいじめと認定し文科省に報告するようになったためということです。把握率がどの程度なのかは残念ながら分かりませんが、満足すべきレベルには程遠いと想像されます。
 
 毎日新聞が、山梨県北杜市立中学の女子(当時1年生・福島県からの避難者が、昨年11月、自殺を図った問題について報じました。
 国は「個々の行為が『いじめ』にあたるか否かの判断は、表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとする」と定義し重大事態の疑いが生じた段階で速やかな調査を義務付けています。
 女子生徒は自殺未遂の前にいじめの被害を担任に訴えていたにもかかわらず、学校側はいじめによる「重大事態」と認めませんでした。
 そして自殺未遂の翌日には、何とも不思議なことに、学校側と教育委は、自殺を図ったのは家庭内の問題が原因と独自に認定しました。何としても「いじめはなかったことにする」という強固な意志が読み取れます。
 
 学校と教育委員会は、少なくとも自殺未遂後の12月にはいじめの疑いを持った筈ですが、第三者委員会を設置せず、5月に家族からの要求があって7月にようやく設置しました。しかし10月末現在、まだ会議を開いていないということです。
 生徒はいじめの経験などが原因の適応障害で自殺の恐れがある」との診断を受け、3月から約3カ月間入院し現在は別の特別支援学校に通っています
 市教委と学校は2日夜、市内で緊急保護者会を開き、一連のいじめの経緯を説明しました。保護者からは「時間がかかりすぎている」「家族側の納得できる第三者委員会の人選で臨むべきだ」などと学校側の対応を批判する意見が相次いだということです
 
 かつていじめによる自殺が問題にされたとき、教育委員会は「いじめはあったが、それが自殺の原因かどうかは分からない」という報告を定番としていました。現在でもそうした傾向はありますが、教育委や学校のトップが、自分達に傷がつかないようにと、いじめの実態を隠そうとする傾向は依然として続いています。
 ※ 2013年2月3日) 教育委は深甚な反省を   
 毎日新聞の4つの記事を紹介します。
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山梨・北杜  中1いじめ半年「放置」 「重大事態」認めず
毎日新聞2018年11月1日 06時30分
(最終更新 11月1日 13時58分)
 山梨県北杜市で昨年11月、自殺を図った市立中1年(当時)の女子生徒(14)がいじめの被害を訴えたにもかかわらず、学校側はいじめによる「重大事態」と認めていなかったことが判明した。国のガイドラインは重大事態の疑いが生じた段階で速やかな調査を義務付けているが、学校側は遅くとも同年12月にいじめの疑いを把握しながら、第三者委員会は約半年後の今年7月まで設置されなかった。【野呂賢治】 
 
女子生徒が自殺未遂 
 毎日新聞が入手した市教委作成の内部文書によると、女子生徒は昨年9月時点で「死にたい」などと生徒指導の担当教諭に訴え、11月下旬に自宅で手首を切って自殺を図った。学校が12月中旬に行った学期末に行うアンケートで、女子生徒は「9月から無視、仲間外れにされている。冷やかし、からかい、悪口、脅し文句を言われる」と回答。担任ら複数の教職員に相談したものの、「(状況は)変わらない」と書き込んだ。 
 
 今年1月に女子生徒は、複数のクラスメートからボールをぶつけられる嫌がらせを受け、不登校になった。家族が学校に状況を訴えたが、学校は「『無視される』などの様子は目撃することはできなかった」などとする内部資料を作成した。 
 女子生徒は東京電力福島第1原発事故後、福島県から北杜市に避難。家族によると「震災やいじめの経験などが原因の適応障害で自殺の恐れがある」との診断を受け、3月から約3カ月間入院した。現在は別の特別支援学校に通っている。 
 
 今年5月になって、女子生徒の家族が第三者委による調査を要望したことを受け、市教委は7月に設置。市教委は昨年度、今回のケースを重大事態と県教委に報告していないため、文部科学省が10月公表した問題行動・不登校調査の結果に含まれなかった。これに対し、県教委は「重大事態に当たる」として、次回は国に報告する。 
 
 市教委は「いじめと自殺未遂は無関係と考え、現在も重大事態とは認定していない。国の指針は、必要がある場合には第三者委を設置とあるが、絶対に(設置しなさい)とは言っていない。やるべきことはやっていた」としている。第三者委は10月末現在、開かれていない。 
 
法の趣旨反する 
 2011年の大津いじめ自殺の調査に関わった渡部吉泰弁護士(兵庫県弁護士会)の話 (女子生徒がいじめを書面で訴えた)昨年12月時点で重大事態として扱うべきだった。学校側の対応は、いじめの早期発見や被害軽減をうたった「いじめ防止対策推進法」の趣旨に反する。寄り添った対応をしなかったため、被害拡大につながった可能性がある。 
 
【ことば】いじめによる重大事態 
 学校で起きたいじめによって(1)児童らの生命や心身、財産に重大な被害が生じた(2)児童らが相当期間、学校の欠席を余儀なくされた--疑いがある事態を指す。2013年施行のいじめ防止対策推進法に盛り込まれた。多くの場合、学校から重大事態発生の報告を受けた教育委員会の認定により、第三者委員会が設置される。重大事態の例としては、リストカットなどの自傷行為や欠席が続いて転学(退学)した場合が挙げられる
 
北杜・いじめ  市教委、「重大事態の認識ある」と判断変更
毎日新聞2018年11月1日 13時46分
(最終更新 11月1日 16時05分)
 山梨県北杜市で、自殺を図った当時中学1年の女子生徒(14)がいじめ被害を訴えたにもかかわらず、学校側がいじめによる「重大事態」と判断しなかった問題で、1日記者会見した市教委の井出良司教育部長は「総合的にみると重大事態の認識はある」と判断を変更、「被害生徒、保護者につらい思いをさせていることについて深くおわび申し上げる」と謝罪した。 
 いじめ防止対策推進法は、いじめによって、児童生徒の生命や心身に重大な被害が生じた疑いがある場合、いじめによる「重大事態」と認定し、第三者を交えた委員会を設け、事実関係を調べるよう求めているが、市教委は今回のケースを重大事態には当たらないと判断していた。 
 
 会見で市教委は、女子生徒が昨年11月に自殺を図り、遅くとも同12月時点で、いじめの存在を訴えていたことを認めた。 
 その上で、井出部長は女子生徒の心情について、「(毎日新聞の)報道があるまで学校、市教委は全く把握していなかった。重く受け止めたい」と述べ、これまでの判断を変えた。家族の訴えがあるまで、第三者委員会を設置しなかったことについては「当時は最善と判断した。適切だったかは第三者委員会に委ねたい」とした。 
 
 被害生徒の母親は「一番の願いは娘が心から安心して日々の生活を送れること。高校で友達を作りたいと希望している。以前のような明るい笑顔が戻る日を待ち望んでいます」とのコメントを発表した。【野呂賢治】 
 
いじめ  自殺未遂で学校「家庭内問題」と不適切対応 山梨
毎日新聞2018年11月1日 21時01分
(最終更新 11月1日 23時39分)
 山梨県北杜市で昨年、自殺を図った当時中学1年の女子生徒(14)が、いじめ被害を訴えたにもかかわらず、学校側がいじめによる「重大事態」と判断しなかった問題で、学校側は国のガイドラインに反し、自殺未遂の翌日に家庭内の問題が原因と独自に認定し、いじめの可能性を当初から排除していた。女子生徒は自殺未遂の前、クラスメートに対する不信感を担任らに伝えていた。 
 
 毎日新聞が入手した内部資料によると、女子生徒は昨年10月下旬、「学級の雰囲気が許せない」「その場にいなくなった友達や先生の悪口を言っている生徒がいる」などと担任らに伝えた。女子生徒は翌月、自宅で手首を切ったが軽傷だった。 
 国のガイドラインは「詳細な調査を行わなければ事案の全容は分からない。軽々に『いじめはなかった』『学校に責任はない』という判断をしない」と定めている。 
 だが、学校と市教委は自殺未遂の原因を家庭内の問題と即座に認定。女子生徒が昨年12月、いじめられていると明記した書面を学校に提出し、担任との面談で、いじめの存在を告げた後も、重大事態とせず第三者委員会の設置を見送っていた。 
 
 市教委はこれまで、今回のケースは重大事態に当たらないと説明してきたが、保護者から第三者委の設置要請があった今年5月の時点で「重大事態と認定しなければならなかった」と1日になって説明を一転させた。同日、記者会見した市教委の井出良司教育部長は「保護者と被害生徒につらい思いをさせていることを深くおわびする」と謝罪した。 
 
 文部科学省は取材に「(いじめに関する)国の基本方針やガイドラインとは異なる、あり得ない対応だ。全くなっていない。県教委を通じ、しっかりと報告を求め、対処していきたい」とした。【野呂賢治、金子昇太】 
 
北杜中1自殺未遂:他の深刻いじめ判明 学校対応せず
毎日新聞 / 2018年11月3日 22時0分
 山梨県北杜市で自殺を図った当時中学1年の女子生徒(14)がいじめ被害を訴えたにもかかわらず、学校側がいじめによる「重大事態」と判断しなかった問題で、別の学年の女子生徒も今夏、いじめに遭っていると訴えていた。学校に伝えたものの、当初は対応してもらえなかったという。【野呂賢治、井川諒太郎、金子昇太、滝川大貴】
 
別学年の女子生徒訴え
 保護者によると、女子生徒は5月ごろから、殴られたり、私物を隠されたりしていた。8月、学校に提出した作文の中でいじめの存在を伝えたところ「先生に呼ばれ『びっくりした』って言われた。話を聞いてもらえなかった」と打ち明けた。
 保護者は学校を休むように助言した。しかし「行く。他にもいじめられている子がいる。私がいかないとその子が一人になる」として登校を続けている。
 保護者は女子生徒から「もしものことがあったら全部ノートに書いてあるから見て」と明かされ、ノートを確認。「誰か助けて」などの記載を見つけたという。
 
 女子生徒から「他にいじめられている子」とされた生徒の保護者は取材に「2人は『大丈夫か』と声を掛け合いながら学校生活を送っていたようだ。(自殺を図った当時中学1年の女子生徒についても)『自分がいればつらい目には遭わせなかった』と言っていた」と話した。
 校長は「報告は受けている。子どもに寄り添ってやっていきたい」としている。
 
緊急保護者会 批判相次ぐ
 市教委と学校は2日夜、市内で緊急保護者会を開き、一連のいじめの経緯を説明した。
 参加者によると、保護者からは「時間がかかりすぎている」「家族側の納得できる第三者委員会の人選で臨むべきだ」「現状では『大丈夫、心配なく学校に行け』と子どもたちに言えない」などと学校側の対応を批判する意見が相次いだという。