シリアでの3年4ヵ月の拘束から解放され帰国した安田純平氏は、2日、記者クラブで2時間半の記者会見を行いました。その後もテレビ朝日、TBS、フジテレビ、NHK(収録)、日本テレビと、順次全てのテレビメディアのインタビューに応じました。
安田氏は帰国後の3日間は、インターネットを見るなどしてほとんど寝られなかったということですが、きっと説明責任が自分にあるという考えの下に、疲労困憊している自らに鞭打って耐えたものと思われます。
シンクタンク「新外交イニシアティブND」代表の猿田佐世・国際弁護士は、人質から解放された人たちが無事に家族のもとに帰れるよう側面からの支援活動もしていますが、大手メディアが安田さんのインタビューをトルコから帰国する飛行機の中で行っていたことに大いに驚いて
「拷問状態におかれ、3年以上もの間いつ殺されるやしれない生活においては、精神的な負担は想像を絶するものであっただろう。一見落ち着いているように見えたからといっても、いつPTSDの症状が出るかわからない。拘束されていた時の話を繰り返し質問されれば、精神状態が悪化することも大いにありうる。ひどければ希死念慮に襲われることも十分に考えられる。~
まずはとことんまで療養することである。今後、安田さんは記者会見の開催などをしていくのかもしれないが、急ぐ必要はない。それはしっかりと静養した後のことである。それに何カ月かかろうと、私たちに『早く説明しろ』などという資格はない」
と述べていますが、その言葉に照らしても、安田さんが如何に強靭な精神力と責任感と使命感を持った人であるかが分かります。
会見の内容は極めて具体的で貴重なものでした。
しかし、一方にはそうした価値を理解することもできないで、ひたすらそこで「自己責任論」の議論が出来なかったことを残念がる人たちもいます。
LITERAが「バイキング」のメンバーの呆れるばかりの発言を取り上げました。
まさに「豚に真珠」で、会見の価値が分からない人たちがただただ的外れの自己責任論をわめきたてる姿は空しい限りです。
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安田純平会見に『バイキング』坂上忍、東国原、土田らが
ゲス全開バッシング! 「シリアの話より反省聞かせろ」
LITERA 2018年11月2日.
本日11時より日本記者クラブでジャーナリスト・安田純平氏の記者会見がおこなわれた。
拘束中も日記をつけてきた安田氏は、約3年4カ月におよんだ拘束生活について、かなり詳細にわたって説明。その内容は、シリアにおける武装勢力の内情を伺い知ることができる貴重な証言となっていた。しかも、身動きを禁じられるという厳しい状況下で、1日に5回は礼拝で身体を動かせることからイスラム教徒に改宗したり、ハンガーストライキに打って出るなど、拘束中も知恵を絞って危機回避や抵抗を試みていたことがわかった。その詳細な証言からは、ジャーナリストとしての安田氏が、いかに中東情勢やイスラム教に対する深い知識と冷静な観察力、タフな精神力を持っているかも伝わった。
だが、この会見がおこなわれていたのと同じ時間に放送されていたワイドショーでは、生中継でその模様を伝えながら、醜い自己責任論が吹き荒れた。安田氏が解放された当初から自己責任論を煽りに煽った『バイキング』(フジテレビ)だ。
たとえば、安田氏は会見冒頭で「今回、私の解放に向けてご尽力いただいたみなさん、ご心配されたみなさんに、お詫びしますとともに、深く感謝申し上げたいと思います」と述べたのだが、東国原英夫はこの言葉について、こんなことを言い出した。
「最初に謝罪とお礼等々がありましたので。あれで一応、僕の気持ちはホッとしました。あれがなかったら、ちょっと席立とうかなと思ったくらいです」
そもそも、安田氏が会見で「お詫び」する必要はどこにもない。逆に、「お詫び」をさせてしまうこの国の受け止め方、空気のほうこそ問題なのだが、それを東国原は“謝罪がなければいきりたつところだった”と言うのである。
だいたい、安田氏と対論しているわけでも、会見場にいるわけでもなく、たんに番組でコメントするだけの人間が「立つつもりだった」などと言うこと自体が笑止であるが、一体、安田氏が東国原にどんな迷惑をかけたというのか。しかし、こうした東国原の上から目線の発言に対して何のツッコミもないまま番組は進行した。
この最中、会見では、拘束から解放にいたるまでの過程が事細かに安田氏より説明されていたのだが、これに対しても、土田晃之は「ぶっちゃけ早く質疑応答が聞きたい」「『観音開きの窓』(と安田氏は説明していたが)、いや窓2個でいいじゃないっていう。細かいディテールをすごく話してくださっているんで」と言い、安田氏の説明が長すぎると批判。さらに、元衆院議員で弁護士の横粂勝仁は、こう話した。
「理路整然として、ものすごい誠実に説明されているのは感じるんですが、少し気になったのは事実ばかりであって、内心、感情というのがほぼ言われていない」
「人質になってしまった瞬間のこと、日本政府を巻き込んでしまったときのこと、後悔とか恐怖とか、そういうものは何も語られていないので、質疑応答でそれがどう語られるかですね」
拘束中に何が起こったのかという細かな事実よりも、日本政府を巻き込んでしまったときの感情、後悔を語るべき──。つまり、東国原や横粂弁護士らは、「事実を語る説明会見」ではなく「後悔を語る謝罪会見」を求めていたのだ。
現に、横粂弁護士は、安田氏が家族に対するメモのなかで、身代金要求を「放棄」しろ、「払っちゃあかん、断固無視しろ、無事帰る」というメッセージを暗号にして伝えていたことについても、「ご本人が払わなくていいと言ったって、結果払うだろうって気持ちがあったのかも聞きたい」「結果払うというのが世の中なので、それに対するどれくらいの覚悟があったのか、自分だけで完結できないってことがわかっていたかどうか聞きたい」とコメントした。
拘束されて身の危険に晒されているなかで、「助けてくれ」ではなく「無視しろ」と暗号メッセージを送ることはバレるリスクを考えればとても勇気のいることだ。しかし、そうした状況への想像力を働かせることもなく、“本当のところ、日本政府が身代金を払うと思っていたのでは”とゲスの勘ぐりをして、「覚悟があったのか聞きたい」などと言い出す……。これは「日本に甘えるんじゃねえよ」とバッシングしているネット上の自己責任論者とまったく同じだ。
東国原は、安田氏「凡ミス」発言に噛みつき、「ジャーナリズムでなくただの個人的欲求」と
さらに、記者会見で安田氏が、シリア入りの際に拘束されてしまったことを「私の凡ミス」と語ったことについて、坂上が「衝撃的なワードが出てきた」と言うと、東国原は鬼の首を取ったかのように安田氏を責めはじめた。
「自分の行動を『凡ミスだった』と言い放ったのはいかがなものかと思っております。あの部分で、もし自分が疑っていたら、慎重な行動が取れたはず」
はっきり言って、紛争地に単身で入ったこともない坂上や東国原が、何を知っているというのだろう。国内外の多くのジャーナリストたちが指摘しているように、現在のシリアのような混沌のなかで誰が正しい案内人なのかや何が安全な選択肢であるかを完全に見極めることは困難なことであり、実際にシリアでは安田氏だけではなく海外のジャーナリストたちもジャーナリスト以外の人も何人も拘束されている。橋下徹も〈安全対策をきっちりと行える者が行くべきだ〉などと叫んでいるが、紛争地では絶対の安全対策など存在しないのだ。
しかも、東国原はつづけて、耳を疑うようなことを主張した。
「使命感や正義感が勝ったのか、それとも自分の欲求が勝ったのか、そういう論点は僕は明確にしていただきたいと思いますね。正義感とか使命感とか、そういうものを表に出せば、それはジャーナリズムの正義が立つでしょうよ。でも、この方はね、『あー、おかしいな』と思いながらも入ったということは、自分のジャーナリストとしての、自分が知りたいという、知らせたいではなく自分が知りたい欲求が勝ったのではという疑義がある」
東国原は何を言っているのだろう。ジャーナリストの使命感や正義感と、知りたいという欲求は、明確に分けられものではなく地続きのものだ。何が起こっているのか、人びとの暮らしはどうなっているのか知りたい。ジャーナリストたちのそうした内発的な欲求、問題意識があってこそ、わたしたちは知ることのできない世界の現実を見ることができる。内発的・個人的な欲求があるからこそ、踏み込める取材もある。それをたんなるのぞき見趣味のような個人的欲求だと矮小化することは、橋下の主張と同じで、まったく報道の意義というものを理解していない証拠だ。
坂上、土田、安藤が安田会見に「自分の話が長い」「話のスキルない」「自己責任の話しろ」
だが、スタジオでは、横粂弁護士がまたも「取材の自由を考え直す必要がある。表現の自由は無制限ではなく公益、公助のために制限がある」「本人の認識では、まだ恐怖とか後悔とか反省が感じられないので、それをもっと言っていただいて議論すべき」などと言い放った。
挙げ句、土田は再び「話し方のスキルは必要だなと」と言ったり、橋本マナミも「要点がわからなかった」と、安田氏の「事実の説明」に対して不満を漏らし、番組終了直前に会見が終わると、次に始まる『直撃LIVE グッディ!』の安藤優子とのやりとりで坂上が「国民の関心事である自己責任についてどうなんですかといった質問はこれからだったのに」「ご自身の話も2時間もかかってる」と言うと、安藤も「(自己責任論について)核心をつく質問も出てこなかった」などと同調したのだった。
安田氏のシリアの現状にまつわる重要なディテールに富んだ貴重な証言の数々を「喋りのスキル不足」「時間をかけすぎ」と批判し、自己責任を追及することこそが「核心」だと言い張る──。ようするに『バイキング』では、シリアの武装勢力の実情や拘束者が置かれている状況などにはまったく関心はなく、たんに“安田氏が責められる場面が見たい、開き直ったなら叩きたい”といやしい欲望しかみせなかったのだ。
これはこの番組だけの問題ではないだろう。実際、ネット上では、安田氏の自己責任を叫ぶ主張が再び大量に投稿され、バッシングはピークに達している。帰国時から「早く説明しろ」と会見を要求する声は大きかったが、結局はシリアに関心を寄せるでもなく、安田氏の「謝罪会見」「バッシング会見」を見たがっていただけなのだ。
このように「事実」には無関心の状況では、紛争地にジャーナリストが赴いて報道することの重要性をいくら説いても、その意味は通じない。本日の『バイキング』は、この国の劣化を象徴する放送だったと言えるだろう。(編集部)