今回は、「遺伝子組み換え食物ではない」の表示が事実上消えてしまう問題と、ゲノム編集作物の規制議論でも、審議会などは形ばかりで政府はひたすら米国の意向を優先させ、ゲノム編集作物を野放しにしようとしている問題が取り上げられています。
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外資の餌食 日本の台所が危ない
日本では「遺伝組み換えでない」表示が今後消える可能性が
日刊ゲンダイ 2018年11月9日
日本に遺伝子組み換えのトウモロコシや大豆などを輸出している米国で、健康意識の高まりから「“脱”遺伝子組み換え作物(GMO)」の動きが盛んになっている。元農水大臣で弁護士の山田正彦氏がこう言う。
「今年9月、米ロサンゼルスを視察した際、地元の人に連れられ近所のスーパーを訪れました。そこでは、野菜や果物、鶏卵やケーキなど、あらゆる種類の食品に『有機栽培』と『遺伝子組み換えでない(NonGMO)』という2種類のシールが貼られていたのです。富裕層をターゲットにした高級スーパーだけでなく、低中流層が行くようなスーパーにも同様のシールが使われていました」
遺伝子組み換えの本場である米国でNonGMOや有機栽培の表示が広まっている一方、日本では、遺伝子組み換え食品の表示が、消費者に不利益なように変更されようとしている。
■「消費者の知る権利を奪っている」
日本では、一部の農産物や加工食品について「遺伝子組み換えである」と表示することが内閣府令で義務付けられている。一方、「遺伝子組み換えでない」表示については、原材料にGMOが5%以下で混入している場合、メーカーが任意で「遺伝子組み換えでない」と表記しているが、これが今後、消える可能性があるのだ。
理由は、消費者庁が「遺伝子組み換えでない」の表示を“厳格化”するとして、GMO混入率を0%に限定しようとしているから。しかし、どれだけ農産物を厳重に扱っても輸送・流通の段階でわずかのGMOの混入は避けられないため、混入率を0%にすると、誰も「遺伝子組み換えでない」を表示できなくなってしまうのである。
できるだけ「遺伝子組み換えでない」食品を消費者に提供しようと、ほぼ混じり気のない混入率0%台のものを頑張って販売しているメーカーも、今後は表示できなくなるということだ。
「EUでは『組み換えでない』表示は0.9%以下です。日本でも同様の基準にしようという議論はありました。しかし、日本は食品原材料のほとんどを海外からの輸入に頼っているため、混入率0.9%を満たす原材料を調達することが難しいのです」(消費者庁食品表示企画課)
結果的に、海外から遺伝子組み換え作物をバンバン輸入する企業を優遇していることにならないか。
農業問題に詳しいジャーナリストの天笠啓祐氏は、「『遺伝子組み換えでない』という表示がなくなるのは、消費者の知る権利を奪っているに等しい」と指摘する。
ちなみにEUでは、全食品の遺伝子組み換え表示を義務付けている。 =つづく
(取材=生田修平、高月太樹/ともに日刊ゲンダイ)
外資の餌食 日本の台所が危ない
ブレーキ役の環境省が…ゲノム編集作物を野放しにする理由
日刊ゲンダイ 2018年11月10日
ゲノム編集作物をめぐる規制議論も、米国の意向が優先されて日本の食の安全がおろそかにされる典型例だ。
ゲノム編集とは特定の遺伝子に狙いをつけて効率よく改変する技術。約20年前に開発され、2012年に簡便な手法が確立、研究の分野で広まってきた。
ゲノム編集は遺伝子組み換えのように「魚の遺伝子をトマトに」など異種の遺伝子を組み込むことも技術的には可能だが、食品の品種改良では、遺伝子の一部を壊すことで新たな特性を持たせる使われ方が主流だ。
例えば、国内で開発されているケースとして、筋肉の増量を抑える遺伝子を壊すと、筋肉ムキムキのマダイができるという。
異種の遺伝子組み入れは自然界では起こり得ないが、遺伝子が壊れることはある。このためゲノム編集作物をどう規制するかが各国の課題。自然界でも起こり得るのだから問題ないのではないかという意見があるのだ。
「異種の遺伝子を組み込まなくても、遺伝子の切り取りにより予期せぬ現象が起きる報告が学会などで相次いでいます。欧州はじめ世界は、ゲノム編集についても遺伝子組み換え並みの規制をする方向です。そんな中、米国がゲノム編集作物を規制対象外と決めると、すぐさま日本は歩調を合わせる方向に動いたのです」(東大大学院・鈴木宣弘教授=農政)
今年3月に米国農務省がゲノム編集作物に規制をかけない声明を出すと、5月に環境省は「ゲノム編集技術等検討会」を設置。8月に開催したたった2回の検討会で、遺伝子を壊すゲノム編集を規制対象外とする意見書をまとめたのだ。事業者に情報提供を求めるとしているが、事実上の野放しである。
「ゲノム編集自体は可能性を秘めた技術です。例えば、先端医療などでこれまでできなかった治療に道を開くことができるかもしれない。しかし、日常的に人が口にする食の分野にゲノム編集のような未知の技術を持ち込む場合、野放しはあり得ない。よく分からないからこそ、疑わしきは安全サイドに立つのが、国民の命を守る政府の責任なのに、日本政府は完全に米国の言いなりになっています」(鈴木宣弘教授)
ゲノム編集の規制は今後、厚労省や消費者庁でも議論されるが、“結論ありき”はミエミエだ。環境省は「情報を集めて必要があれば対応する」(外来生物対策室)と回答。消費者を実験台にする気か――。生態系をゆがめかねない動きにブレーキをかけるべき環境省が野放しをリードするとは、世も末だ。 =つづく
(取材=本紙・生田修平、高月太樹)