北海道新聞が「首相の憲法発言 前のめりで自制足りぬ」とする社説を掲げました。
その中で、安倍首相が「憲法改正の審議を進めることは国会議員の責任だ」と述べたことに対して、「国会議員の責任は、まず憲法を順守することだ。改正も可能ではあるが、必ず果たさなければならない責任とは言えない」と述べ、「9条への自衛隊明記は~国防の根幹に関わるもの」と述べたことに対しては、「自衛隊の任務や隊員の身分などは自衛隊法に定められている。憲法に書き込まなくても、首相が求める正当性は担保されている」、また「憲法99条は首相が憲法改正について検討、主張することを禁止する趣旨ではない」と述べたことに対しては、「禁止されていないからといって首相が声高に改憲を訴えれば行き過ぎとの批判は免れない」としました。
高野孟氏が、日刊ゲンダイの「永田町の裏を読む」のコーナーに、「自民党内にも予測の声 『安倍改憲』が早々と失速する理由」との記事を載せましたので、併せて紹介します。
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(社説) 首相の憲法発言 前のめりで自制足りぬ
北海道新聞 2018年11月1日
臨時国会で安倍晋三首相が改憲に前のめりな発言を続けている。
国会議員に改憲論議の加速を促し、9条に自衛隊を明記することにも強い意欲を示した。
残された任期の中で改憲を実現したい思いが先走っているように見える。だが、急を要する政治課題は他にたくさんあり、憲法問題を急ぐ必要性は見当たらない。
憲法改正は国会が発議し、国民投票で承認することになっている。首相が先頭に立って改憲の旗を振ることには違和感がある。
自らの主張を抑制し、議論を国会にゆだねる姿勢が求められる。
所信表明演説で首相は、政党が具体的な「改正案」を示し、国民の理解を深め、ともに議論することが国会議員の責任だと訴えた。
国会議員の責任は、まず憲法を順守することだ。改正も可能ではあるが、必ず果たさなければならない責任とは言えない。
「制定から70年以上を経た」などの理由で改憲を大前提に掲げ、国会議員に議論を強いるかのような首相の言い分は理解に苦しむ。
代表質問への答弁では9条への自衛隊明記に関し、「国民のため命を賭して任務を遂行する隊員の正当性を明文化することは、国防の根幹に関わる」と述べた。
自衛隊の任務や隊員の身分などは自衛隊法に定められている。憲法に書き込まなくても、首相が求める正当性は担保されている。
野党は、首相が国会に憲法論議を呼びかけることは三権分立に触れると指摘し、99条にある憲法尊重・擁護義務を挙げて首相に自制を求めた。
首相は「憲法改正について検討、主張することを禁止する趣旨ではない」と反論したが、論点そらしではないか。野党側が求めるのは自制であり、禁止ではない。
禁止されていないからといって首相が声高に改憲を訴えれば「行き過ぎ」との批判は免れない。
安倍政権は政府が長年違憲としてきた集団的自衛権の行使を、根拠もあいまいなまま合憲へと解釈変更した。昨年は憲法の規定に基づく野党の臨時国会召集要求に応じようとしなかった。
こうした憲法軽視が疑念を招いていることを忘れてはならない。
首相は内閣改造・党役員人事に伴い、自民党の憲法改正推進本部や国会の憲法審査会の幹部を側近で固め、議論促進を狙った。
しかし、他党との調整は難航が予想される。数の力によるごり押しは許されまい。謙虚で丁寧な対応が欠かせない。
永田町の裏を読む
自民党内にも予測の声 「安倍改憲」が早々と失速する理由
高野孟 日刊ゲンダイ 2018年11月1日
「安倍改憲は早くも失速の気配が濃厚だ」と、自民党のベテラン秘書氏が大胆に予測する。安倍晋三首相が無理にでも総裁3選を果たしたのは、尊敬するおじいさんもできなかった改憲を何としてもやり遂げたい一念からのことであったはずで、それが失速するということは、政権そのものの失墜に直結する。
「その通りで、このままだと来年夏の参院選前に衆参両院で“発議”にまでこぎ着けるのは至難の業。そうすると安倍は何を訴えて参院選を戦うのか分からなくなり、かえって与党としての3分の2議席を失って、少なくとも当分の間、二度と発議などできなくなる」と秘書氏。
ということは、参院選で負けて安倍はご用済みとなる公算が大きいということか?
「だから、各派も公明党も、参院選で安倍が頓死した場合に次をどうするかの検討に入っている。となると、ますます改憲を成し遂げるような求心力は働かなくなる」と秘書氏は言う。
なぜ、そんなに早々と失速するのか。
「第1に、国民が改憲など求めていない。29日付日経の世論調査では、安倍に期待する政策として(複数回答)、社会保障充実48%、景気回復43%、さらに教育の充実、財政再建、外交安保と続いて、改憲は何と9%。ほとんど誰も関心がないというか、それをやってもらわないと困ると思っていない。しかも、同調査では、改憲反対が前回10月初旬の28%から9ポイントも増えて37%となった」
秘書氏の説では、第2に、国民のこのような意識が自民党の地方党員の気分にもつながっていて、だから総裁選で地方票の45%は石破に流れた。石破は、安倍改憲の内容にも扱い方にも公然と異議を唱えてきたので、この45%は安倍改憲反対票とみてさしつかえない。
「第3に、そこで何としてもこれを突破するために、党の改憲推進本部長に下村博文、衆院憲法審査会の筆頭幹事に新藤義孝と、イエスマンを据えたけれども、これが致命的な人事ミス」
この2人は憲法はまるっきり素人で、党内を取りまとめ、公明党を引き付け、野党と駆け引きして少なくとも野党第1党は抱き込み、国民にアピールして納得を広げていくという、気の遠くなるような大事業には全然ふさわしくない。いくら安倍に忠実なやつを持ってきても、憲法ばかりは強行採決というわけにいかない。どうも安倍はそのことが分かっていないのではないか。
高野孟 ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。